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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
8/8

居酒屋奇譚④「お子様の就職活動」3/3

さて、最終話です。


暢気な昼呑みの予定が、とんだトラブルで台無しです。

この上は、再度乾杯の上で仕切り直しですね。


お子様からは、その生活の知恵を伝授して貰えそうです。

酒の席での「あるある話」って、盛り上がりますよね。


酒の席での「煩わしい相手の話」も、盛り上がる訳で・・・。



居酒屋奇譚④「お子様の就職活動」3/3


その後の説明は、生還直後の混乱した状態だったことを差し引いても、要領を得ないモノだった。

まったく理論的では無く、理解の範疇を超えた狂人の戯言に近い者だと言える。


しかし、理性の外側で、本能が告げる「コレは本当のコトだ」と。




お子様の説明によると、通常の入れ替わりは(何だ?通常の入れ替わりって)、此方の存在が我々の側の存在を消して(食べたり、バラバラにしたり・・・)、その姿をコピーして我々の世界に混ざりこむというものらしい。

それは、身体全体の事も有れば、精神のみのモノもある。


時々耳にする「人が変わったように」「魔が差す」という類の話のいくつかは、こういった例なのだそうだ。

他にも手段は様々だが、基本的には外見を模して、居場所を乗っ取るという事だ。



この手の手段は、問題も多い。



まず、立場。


入れ替わり主体が、入れ替わり先に拘束される。

つまり、成り済ますと同時に、逃亡が著しく困難になるという事。

どこかで「尻尾を出す」事になる。

何故、途中で放り出さないのか?


お子様曰く

「入れ替わった以上、入れ替わった者をキチンと全うしないといけない」

からなのだそうだ。


良く分からないが、そういう事になっているらしい。

一種の職業倫理みたいなものだろうか・・・。




そして、方法論。


皮を被れば、その完成度によって(ホクロが無いとか、瞳が動かないとか)露見する。

精神を入れ替えれば、その行動によって(何で母親を知らないの?とか、肉って食べられたっけ?とか)露見する。


つまり、新たに「その存在を乗っ取って模倣をする」のは、非常に困難であるという事だ。

そもそも、警戒心が強く排他的性格の濃い人間社会に侵入すること自体が、難易度が高いのだ・・・そうだ。

「人は、異物に敏感ですの。

実害の無い羽虫の類さえ住処から追い出そうとしますの。

そんな無駄なことにエネルギーを使うのは、人間くらいですの。」



お子様の入れ替えは違う・・・らしい。


原理は分からないし、何度聞いても全く理解できない。

とにかく、「存在全体」をある種の型枠に押し込む。

すると、押し込まれたものと寸分違わぬモノが、型枠から押し出される。


この押し出されたモノが、押し込まれた者に代わって居場所で活動する。


存在全体(それこそ、肉体はもとより記憶や感情なども含む、文字通り存在全体)を、そっくり写し取るので、入れ替わったモノの方も、自分が入れ替わったかどうかは分からないまま、いつも通りの日常に帰っていくのだとか・・・。


「じゃあ・・・入れ替わった者は、どうなるのか?」

俺の問いに、お子様は平然と答える。

「もともと、型枠の中は何もない無の状態ですの。

そこから、無理やり入れ替わったモノを絞り出すので、当然、その分、型枠の中が無から足りない事になってしまいますの。

入れ替わった者の大部分は、この足りない事の補填に使われて、無になるんですの。」

と。


更に話は続いた。

「大部分は・・・それで処理が終わるんですの。

ただ、魂そのものは形代では抜けないんですの。

残った魂が・・・」


紫金筋の玉を指でつつきながらお子様が笑います。



文字通り「玉」しいって訳か・・・。

じゃあ、俺のことも、こんな玉にしようとしたってのか?


あまりな結論に、怒りと同時に、だったとして何が出来るのかと言う無力感が生じる。


しかし、問わずにはいられなかった。


「何を基準に入れ替えるんだ?単に邪魔者を排除するってだけじゃないんだろ?」

と、口調は乱れてしまったが、焦りのあまりだ。


邪魔者を排除する手段と言う事であれば、お子様の邪魔をしなければよい。

もっと言えば、今後接触しなければいい。

しかし、俺は別にお子様と対立したわけじゃない。

確かに、少し不遜な態度をとったことは認めるが、これ程の力の持ち主にとっていかほどの影響が有ろうかって程度の軽微なものだ・・・と、思う。

・・・もしも、気が向いたときに、視界に入った存在をめったやたらに入れ替えてるんだとしたら・・・避ける手立てがない。


「基本的には、障害の排除の為ですの。

この身は、本貫地を失ってからこっち、守護の任を解かれた状態ですの。

だから、ただ、この場に居るだけの存在ですの。」



・・・つまりは、こういう事らしい。



以前(どのくらい前なのかは分からない)、お子様には本貫地(おそらくどこかで神社を構えて祀られていたのだろうと推測する)があった。


そこで、その地と血の守護を約定し、それを履行し続けていたのだそうだ。


ところが、時は流れて、信仰は失われ、社は朽ち、祀る者も居なくなった。


お子様の意図や意思とは関係なく、約定は意味を失い、お子様はその任を解かれた訳だ。

まあ、職場である神社が機能を失ったので、自動的に解雇された状態って事か・・・。



そこで、お子様としては、次の被守護者か領域が決まるまで、悠々自適に徘徊し、気に入ったところで日向ぼっことかして過ごして居たらしい。

とは言っても、一度は崇め奉られた程の存在であるお子様は、その「居る」と言う行為そのものが、周囲にストレスを与えるのだという。



まあ、これは、お子様が随時気が付いたときに調整すれば済む程度の話らしいが、そんな軽く見れるのもお子様程の力があればこそ。

お子様と関わりのない他者から見れば、お子様は非常に不可解な高エネルギーを内包する特異点にしか見えないらしい。

簡単に言えば「自分の起爆スイッチを片手に徘徊する核爆弾」みたいなものだ。


その存在に気が付いた際の、周囲からのアプローチは非常に単純だ。


つまり「排除」である。


何らかの手段を講じてその場から「どいてもらう」やり方から、単純に力攻めで「消滅」させんとするやり方まで、様々な干渉が有ったが、共通する要求は「ここから居なくなってくれ」だったそうだ。


そりゃそうだ。


そもそも、神さんってのは人間には測り難き存在だ。

各々、一つ一つが異なった個性を持っている。

従って「氏神」なんて持ち上げてはいても、その状態に至るまでは手探りのトライアンドエラーの積み重ねを必要とした。

先祖伝来の屋敷神の類でさえそうなのだ。

まして、野良の神さんの相手の仕方を一から構築するとか、気が遠くなる。


だから、「居なくなってくれ」なんだ・・・。


そうは言われても、お子様としても、勝手に本貫地を放棄して任を解いたくせに、代替地を用意するでもなく、約定を行進するでもなく、ただ出ていけでは納得がいかない。


治めるべき地も、守るべき血も、失ったお子様だが、力だけは有り余っている(迷惑な話だ)。

降り注ぐ火の粉を払い、抗うモノをまとめて叩き潰しつつ、居場所を求めて東へ西へ・・・。


さ迷い歩く旅路の中で、お子様は一つの事実に気が付いた。


・・・つまり、ただ単に敵を叩き潰して歩くと、却って敵が増えるという法則だ。



見たこともない相手に「親の仇」と突っかかられ、「師匠の遺志を継ぐ」と掴みかかられる。


一を払うと、それが二となり四となる。

その内、単なる命のやり取りだったはずが「行方不明の元凶」「現存する神隠し」・・・「無差別殺人鬼」に「快楽殺人犯」と、身に覚えが有るんだか無いんだか、様々な恨みを買い、怒りを誘ってしまい、いい加減疲れてしまったのだとの事。


・・・そこで採用した対抗手段が、入れ替えであると。


お子様討伐に出た武芸者は、相まみえること叶わず帰還して、その後は地元でゆっくり余生を過ごす・・・。

このパターンを増やすことで、追跡者の削減に成功したのだそうだ。


「画期的だと思うんですの。」

と、自慢気だ。


入れ替えによって生じる「立場」の問題も、「方法論」の課題もともにクリアできる。

同時に、要らない敵の増殖も抑えられる。


まさに、生活の知恵か暮らしのヒントのノリだ。



そんなこんなで長の旅時のその果てに、たどり着いたのがこの酒場と言う話。

何の因果かは分からないモノの、この場所自体が、特異点たるお子様が居座るには真に具合がよろしいとの事。


「まあ、時々、思い出したように討伐だの調伏だのと乗り込んで来る輩が居るんですの。

仕方がないから返り討ちにしてるんですの。」

と、悪意も殺意も無く告げる。

まるで、料理のコツでも教えるような気軽さで・・・。


・・・じゃあ、俺は何だって玉にされそうになったんだ?

討伐も何もお子様自体を知らなかったんだぞ。


お子様は答えます。


「玉になんてしませんの。

モノが何であれ奉納し、恭順の意を示せば、これを守護するのがこの身の役目なんですの。

貴方は、この身に酒の肴を献上してきたので、氏子として眷属として迎え入れようとしただけですの。

ただ、やはり人一人消えると大事でしょうから、入れ替えて騒ぎにならない様にと気を使っただけですの。」


・・・気を使った・・・だと・・・。


・・・驚愕の事実・・・どうしたらいいんだ。コレ。


「なんにしても、貴方は久々の氏子なんですの。

しっかり信仰を育てて頑張ってほしいんですの。」



その後も、お子様は楽しそうに色々話していたが、俺は勝手に就任させられた氏子総代の地位と伴う責任がどんなものなのかが気になって余り頭に入って来なかった。


もっとも、

「鬼を八つ裂きにしたときに、肝臓が誠に美味だった」

とか

「ナントカ衆八傑に囲まれて、全員を玉にした。

途中で、魚釣りしてた時に、淵に落しちゃった」

とか、話題を振られても「おう」以外に声が出ないのも事実だったが・・・。


長々と話に付き合った挙句、時間もいい感じになってきたところで、お愛想の時だ。


俺は、タッチパネルを操作して自分の分の支払いをすます(半分以上、食ってないメニューがレシートに並んでいた)。


さて、お子様の会計だ。

そちらをチラリと見ると・・・。


「良きに諮らうと良いですの。」

との事。

おう、支払えってか・・・。


「これも供物の様なモノですの。」と・・・。


便利な言い訳だな・・・供物。


異論があっても表明できるはずもなく、此方も支払いを済ませる。


草臥れた店員が、やっと緊張の時間から解放されるとおもってか、妙に愛想よく「災難だったな」と、声をかけて来る。


おそらく、この危険な酒盛りが終了すると思って喜んでいるのだろう。


・・・俺も早く解放されたい。


どうせ、ここでお開きになってしまえば、外で再びお子様に会うのは難しいだろう。

もともとこの周辺は俺のホームと言う訳じゃない。

偶然に再会するのは、容易な話ではないだろう。


氏子の話も、時間が解決してくれるだろう・・・。



・・・そんな事を考えている時期がありました・・・。



支払いが終わると、お子様が嬉しそうに口にする。

「これで、ココが本貫地になりましたの。今後は、週一度はココに奉納に来るんですの。」

と。


「は?」

俺と草臥れた店員の声がシンクロする。


なんだと・・・。


俺らの混乱をよそに、お子様は宣言する。


お子様の支払いを肩代わりしたことにより、この場所を使っていた時間に対する対価も供物として供したことになるのだという。

それを受け取った店も、この店のこの場所をお子様が使う事を追認したことになると。


・・・つまり、ココがお子様神社の本宮と言う訳だ。

晴れて、御祭神に御就職って訳だ・・・。


・・・「まじかよ」

隣で草臥れた店員がうなだれている。


この一瞬で10年は老けた感じだ。


俺はせいぜい愛想よく声をかけた。

「災難だったな」


それを聞いたお子様が答える。

「ソイツも氏子になっているので、大概の災難からは守護してやるんですの。

困った時は、この身に言うと良いですの」

と、自信満々に。


「災難はお前だ」と言う言葉を飲み込みながら草臥れた店員をみると、コイツの喉も何かを飲み込んだように見えた・・・。


終わり


タテモン、ゲットだぜ。


と、言う訳で、お子様は晴れて本貫地の入手に成功したご様子です。

懸案だった神社の社屋も手に入れて、至ってご機嫌です。


懐の巾着玉に口があれば、異議も有ったかも知れませんがね・・・。


まんまと、巻き込まれた草臥れた店員さんもご苦労様です。

本業に支障が出ないと良いんですが・・・まあ、ダブルワーク禁止とかも無いでしょうから大丈夫でしょう(知らんけど)。


今後は、新居で引っ越し祝いでしょうかね・・・ああ、就職祝いか。

ところで、お店が閉店してる時間帯は、どうする気なんでしょうね。


何はともあれ、カンパイです。

因みに、皆さんは就職祝いの飲み会で思いでありますか?

私は、参加者全員が酒しか持参しなくて、皆でひたすら飲んでた覚えが有ります。


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