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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
3/4

居酒屋奇譚③「お子様と宿替え」-1/3

一応、3分割で投稿予定です。


週一の金曜更新予定なので、ゆるゆるとお付き合いください。


そういう予感があったかと言われれば、それはあったように思う。

確信はなかったが、目の前を横切る黒猫を見て「今日はちょっと巡り合わせが良くないかも」程度のモノだったが・・・。


その日、私は久々に例の草臥れた居酒屋を訪れていた。

入店時、昼時を幾らか過ぎた自分の店内は、いつもよりも空いており、特に待つこともなく席に着くことが出来た。

先ずは生ビール。これは鉄板だ。少々肌寒い時分ではあるが、気温は関係ない。

一種の儀式のようなものだ。

つまり、最初の一杯目はジョッキであるということ。これは、居酒屋で昼のみをする際の礼儀のようなものだ。


さて、本日は・・・そうだな、鯨の竜田揚げだな。

そして、焼き鳥の盛り合わせ5本。

で、軟骨の唐揚げ。


・・・ふん、ちょっと油が過多かな・・・野菜っぽい感じで、エシャロットも行っておこうか。


少し体に気を使った風を装いつつ、注文を確定する。

出回り始めたころはかなり面食らったタッチパネルも、もはやお手の物だ。

会社の新しいPCのセキュリティにはサッパリ慣れないのに、こっちにはかなり精通できたと思う。

欲望のためには、多少の困難など乗り越えられる・・・人の業の度し難さには、呆れるばかりだ。しかし、それが自分事となると、人類の可能性に感じられるのだから、実に業が深い。


などと、愚にもつかないことを考えていると、入店時には目に入らなかった草臥れた店員が生ビールとエシャロットを持ってくる。

品名を告げて、酒と料理を私の前に置くと、草臥れた店員は切り出した。

「ご無沙汰だったな。その後はどうだった?」

私の重量が多少増加した事や、膝の具合のことではあるまい・・・。私は、懐に入れてある巾着を服の上から撫でながら答える。

「まあまあだな。幸い、まだこうやって呑みに来れる程度には健康だよ」まあ、健康診断結果的には、こうやって呑みに来てしまう事には問題を生じつつあるのだが、それは心の棚にしまっておく。

草臥れた店員は口にする。

「アイツは、現れてないみたいだな。ひょっとしたら、外の世界に出てはしゃぎ過ぎてアンタの事も忘れてるのかもしれん。その方が良いんだがな」

私の頭の片隅で「フラグ」という言葉がニヤリとした気がした・・・。

この観測点さんは、長く居酒屋に居続け過ぎて世間の機微には疎くなっているみたいだ。

「説曹操、曹操到。口は災いのものとも言うぜ。下らん軽口で厄介ごとを招くのは勝手だが、巻き込まれるのはごめんだぞ」

私の言葉に、草臥れた店員は鼻を鳴らして応える。

「厄介ごとだって?それは、アンタが招いてんじゃないのか?厄介なのを知っていて、また来店したのは何故だ?」

私は図星を突かれて口ごもる。滑りをよくするためにビールを煽ってから答えた。

・・・首から下げた空っぽの小袋を弄びながら・・・。


「実はな、この小袋の中に狐の置物を入れて持ち歩いていたんだ。無くすのは怖いが、捨てるのなんか論外だ。かと言って、留守宅に放置しておくのも気にかかる」

肌身離さずってほどでは無いが、目につくところに持っていたかった。

視線を外したその見えない場所で、この狐の置物が何をするのか・・・もちろん、ただの古ぼけた置物だ。これ自体が暴れるようなことは無いだろうが・・・。それでも、気が付かない間に、のっぴきならない事になったら目も当てられない。だから・・・

「だから、持ち歩いていたんだが、数日前から無くなったんだ」

気が付いたら小袋は空っぽだった。落としたわけじゃない。口はしっかり縛ったままだ。だが、ある時、手で触ったら空だった。

「ただ去ったんならそれで良い。だが、機嫌を損ねてたら・・・ちょっと具合が悪くなりそうなんでな。で、ここに来たら何かわかるかと思ってな」


草臥れた店員は、呆れたように答えた。

「あの手の存在は、基本的に理解不能だ。アイツは言葉を交わせたが、それは相互理解が成立していたという証拠じゃあない。同じ言語を操ってていても会話が成立しているとは限らん」

つまり、気にしても仕方がないってことか・・・。

草臥れた店員は、続ける。

「自然災害みたいなもんだからなあ。蔑ろにするとまずいが、気にしすぎるとかえって毒だぞ」

そう言うものなんだろう。


会話を切り上げた草臥れた店員が、残りの料理を持ってくる。

私は二杯目のビールを追加した後、焼き鳥盛り合わせのレバー串を手に取って齧る。


と、「カランッ」と音がして、つくねが刺さっていただろう空の串が皿に置かれる。


「食い終わった串は、皿じゃなくて串立てに入れるものだ」そう思いつつ視線をそちらに向け、そのまま上げると・・・そこに話の主が座っていた。


年齢不詳。性別不明。ぱっと見は作務衣を着た中学生。あの年代特有の、女顔の少年にも、ボーイッシュな少女にも見える顔立ち。


幼げな外見ではあるが、なんとなく不敵な雰囲気を漂わせながら・・・ニコニコと笑って座っている。


お子様は砂肝串を片手に、タッチパネルを触っていたが、おもむろに此方に押し付けて言った。

「栃尾揚げのプレーンと、ネギみそ。ネギは抜いて欲しいですの。あと、生ビールを。各一個ずつで大丈夫ですの」

・・・何が大丈夫なんだ?

私は、若干うろたえて左右を見回す。

鯨の竜田揚げを持った草臥れた店員が、可哀そうなものを見る目で私を見ていた・・・。

そして、徐に口を開く。

「・・・相席、良いすか?」

・・・良い訳は無いんだが、既に前の席に鎮座あそばされておられる。

これを排除できるってんなら、断るんだが・・・私の視線を受けた草臥れた店員は、竜田揚げを残して居なくなっていた。・・・返事も待たずに・・・。



そういう予感があったかと言われれば、それはあったように思う。

確信はなかったが、目の前を横切る黒猫を見て「今日はちょっと巡り合わせが良くないかも」程度のモノだったが・・・。



到着した竜田揚げは、たちまちお子様の胃の腑へと消えていった。

その後、エシャロットを手に取ったお子様は、匂いをかいだ後にびっくりしたような顔をして此方に滑らしてよこした・

「それは、好きにすると良いですの」

あり難き幸せ・・・じゃねえよ。

焼き鳥も平らげてしまったみたいだ。そこの見覚えのない皿は、軟骨唐揚げのか?

お子様は、ビールジョッキを傾けつつ機嫌よさげにモグモグしている。

・・・お子様の注文はまだ送信していない。

・・・つまり、今飲み干されつつあるビールは私の二杯目って訳だ・・・。

・・・仕方がない・・・仕切り直しだ・・・。


追加の注文を行い、先に届いたビールを嘗めながらお子様の話に耳を傾ける。

前回の件の後、本貫地を失って根無し草の身の上となったお子様は、特に当てもなくウロウロしていたらしい。

そこで行き会った酔っ払いに、何やらアドバイスを貰ったとのことだ。

「つまり、いても良い場所って言うものは、自分で決めても良いのだと言う事ですの。居場所を探して決めるなんて、考えた事もなかったんですの」

お子様にとっては、かなり画期的な提案だったようだ。もつ煮込みだったらしい、こんにゃくが入った小鉢を私の前に差し出しながら、嬉々として語ってよこす。

なるほど、前に聞いたお子様の話を思い出すと、お子様は自分で居場所を選択したことがないのは想像に難くない。

あふれた風呂のお湯を見て天啓を得たアルキメデスもかくやと言わんばかりのはしゃぎ様だ。


ビールを二杯(私の二杯目と、お子様の一杯目)を振り出しに、ホッピー、レモンサワー、ウーロンハイ・・・上機嫌に飲み干して見せた。


「だから、この身も居場所を決めることにしたんですの・・・ここに・・・」

お子様はニヤリと笑って言った。

「ふむ?」

意外な結論に私ののどから変な音が出た。

私は問いかけた。

「いやいや、ここはお店のオーナーの持ちものだろ?勝手に居場所指定して居座る気か?」

お子様は小首をかしげて、私の問いに問いを重ねてよこす。

「何か問題がおありですの?他に持ち主がいると言う事と、この身がココに居場所を定める事は矛盾しませんの。現にアナタも今ココに居るじゃありませんの?店主かオーナーに許可を貰ったみたいには見えませんけど・・・ですの」

ですのは、必ずつけなきゃいけないルールなのか?下らないことを考えつつ、私は指摘する。

「客として営業時間に来る分には問題ない。ただ、居座って占領するってんなら、そりゃ不法占拠ってもんだ。認められないと思うぞ」

私の言葉を審議するようにお子様は沈黙した。・・・そして、数瞬後に徐に答える。

「それに関しては、大丈夫ですの。」

ちゃんと考えがありますのと言わんばかりに自慢げに胸を張って見せるお子様。

私は、不法占拠の解消法について聞いてみた。

「どうする気だ?」

お子様は、嗤って答える。

「こうするんですの。」

そう口にすると、自分の席の前に例の狐の置物を据えて見せる。

・・・意味が分からない。

「・・・これは、あれか?呪術的な結界的何かを展開して自分の空間にして見せてる・・・とか、そう言う事なのか?」

お子様は、鼻で嗤いやがった。

「自分の空間って何ですの?いい大人がそんな漫画みたいなこと言ってると笑われますの。夢見がちなのも良いですが、少しだけ現実も見たほうが良いと思いますの」


・・・非現実の塊みたいな存在に、漫画みたいって笑われたぞ・・・。


以前の異常事態のせいで、草臥れた店員さんには、すっかりと常連並みに顔を覚えられちゃったみたいですね。

このまま通えると良かったんですが、宮仕えってのはつらいものです・・・。


お子様のほうも、色々と出歩いてた結果、最初のお店に戻ってきたみたいです。

古巣にも近いし、居心地良いのかもしれませんね。

料理は色々あるし、お酒もおいしい・・・理想の住居なのかも知れません。

神棚には、お餅と自分で作ったお酒しか並びませんでしたしね。

私の趣味で揚げ物多めの提供なのは、申し訳ない気もします。

でも、ハンバーグとかあげたら、どんな反応するのかな?


皆さん、揚げ物以外で、居酒屋って言ったら何を注文します?

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