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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」4/4

無邪気な子供の良くない部分全開のお子様でしたね。

一応、ティラミス並べておけば大体は大丈夫みたいなんですが・・・


若干マヒしちゃってる週一の氏子総代さんたちと違って、一般的な感性を持った白眉オーナーには、耐えられなかったみたいです。

さて、長年の友人の未来をかけた運動会の始まりです。


観戦しつつ、さあ乾杯。

居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」4/4


・・・興味があるだと・・・このままではだめだ・・・このままで良いはずがない。

・・・如何してそうなっているのかも、如何すればいいのかも、全くわからない。

が、強く心に浮かんだのは「助けなければ!」と言う感情だった。


私は、テーブル上を転げまわる角刈り玉の内、もっとも色の濃いモノをひったくる様にして手にすると、一目散に店の入り口を目指して走り出した。


「あらら、何度やっても、同じ展開になるんですの。

せっかく入れ替えても結果が変わらないのは、意志の強さに関係しますの?」


緊張感のない声が背後から聞こえる。

・・・知った事か!

とにかく外へ出る。

外に出てから、如何すればいいか考えればいい。

この角刈り玉を角刈り店長の口にねじ込めばいいのか、どこかのお寺で加持祈祷でもして貰えば良いのか・・・。


出てから考えればいい・・・。


・・・よくグルメサイトのレビューでは「間口に比較して、店内は広い」と紹介されるこの店だが、大の大人が全力疾走して尚入口にたどり着けないほど広大だったハズはない。

それなのに、いくら走ってもテーブルと椅子の列から外に出られない。


「ちょっと運動不足かも知れませんですの。

もう疲労困憊ですの」


お子様の声がすぐ後ろから聞こえる。


うるさい!

私はひたすら前を見て足を進める。

・・・振り向いたら、そこで終わってしまう・・・理解はできないが、確信があった。


一度振り向けば・・・全てが無かった事になる・・・。


既に限界を超えた両足は、ガクガクと震えている。

喉からは聞いた事のない音が漏れ出している。


「一服されたら如何ですの?

それだけ走れば、ビールが美味しいですの」


お子様の声がすぐ後ろから聞こえる。

何かを齧る「ポリポリ」と言う音まで、真後ろで聞こえる。

・・・ああ、あれは、追加で注文したヤマゴボウの漬物だな・・・角刈り店長の実家で漬けていると言う一品だけあって、良い音を立てている・・・。

「ネギや梅水晶は駄目なのに、漬物は食えるんだな・・・」

週一の氏子総代の突っ込みも聞こえた。

・・・まったくだ、好みに一貫性を感じない。


疲れた頭が周りの音を拾ってフザケタ思考を撒き散らす。

・・・気を散らしてはいけない。とにかく、走り抜けなければ・・・。


「疲れた時は、しょっぱいモノが欲しくなるんですの」

「アンタは、さっきから座りっぱなしで、漬物齧ってるだけじゃねえか」

「ちゃんと、此方のおでんも食べていますの」

「・・・あ、これ、俺のじゃねえか。コンニャクしか残ってないぞ」

「ええ、きちんと取り分けておきましたの。存分にご賞味すると良いですの」

「おい、コッチの空の皿は、何が入ってたんだ?」

「なんでしたっけ?まあ、もう食べちゃったから、大丈夫ですの」


・・・また、オカシナ掛け合いが、真後ろから聞こえる。


だまれ!

私は、振り払うように両手を振りながら、あげていられなくなった顔をうつむき加減にしながらも、足を前に進める。

・・・振り向いてはいけない・・・。


「ビールが冷えてて美味しいですの」

お子様の楽しそうな声が聞こえる。

・・・うるさい。


「この・・・お豆・・・ああ、バタピーって言うんですの?これ、歯応えとか凄くいいですの」

お子様の嬉しそうな声がする。

・・・黙れ。


「そろそろ、足腰の動きがおかしくなっていますの。こちらで、ホッピーでも飲んで一息つかれたどうですの?」

お子様の気づかわしげな声がする。

・・・うるさい、黙れ。


「まってくれ、置いて行かないでくれ」

角刈り店長の悲鳴が、すぐ後ろから聞こえる。

・・・なんだと?


後ろから声が聞こえるって事は・・・この手に持っているんは角刈り店長では無いのか?

私は慌てて自分の手を見て、そして・・・振り返った・・・。


振り返って・・・しまった・・・。


そこには、想像通りの・・・常軌を逸した光景が私を待っていた・・・。




私のすぐ後ろには、週一の氏子総代とお子様が向かい合って座っている。

そして、私の足元には、私が座っていた椅子が・・・。

膝から力が抜けて、その上に座り込む。


お子様が呆れた様子で言葉を発する。

「・・・これで何度目ですの?

覚えていないとはいえ、付き合わされるこちらの身にもなって欲しいんですの。

この身はこれでも忙しんですの。」


「・・・ただ与太話聞きながら、ビール飲んでるだけじゃねえか」

週一の氏子総代が、突っ込む。


お子様は悪びれもせずに答える。

「そう言う見解がある事は、承知しているんですの。」


なんだ、その政治家みたいな受け答えは・・・。

私の左の方に設置されているテレビからは、大臣ののらりくらりした答弁の声が聞こえる。

・・・なるほど、子供の学習の力は素晴らしいとは聞くが・・・。


私はへたり込んだまま、現状を確認する。


どうやら、角刈り玉をつかんだ場所から一歩も動けていないらしい。

だが、全身を覆う疲労感は本物だ。

私は、週一の氏子総代がそっと滑らせてきたビールのジョッキを一気に煽る。


「ね?運動の後のビールは最高ですの」

お子様が得意げに笑う。


・・・なぜ、お前が威張っているんだ・・・。


「こうやって、角刈り店長も捕獲したって訳か?」

噴き出した疲労も相まって、かなり非難がましい口調になってしまった。

しかし、私は問わずにはいられなかった。

「こうやって、何度も・・・」


お子様は、黙って此方を見据える。

私も沈黙をもって、回答をまった。

・・・そして、お子様の右の頬辺りから「ガリッ」と、音がした・・・。

お子様は、徐に口を開く・・・。

「うう、かみ砕いちゃったんですの。失敗ですの・・・」


お子様が、口から殻と混然となった緑色のモノを吐き出す。


「だから、殻剥き器を使えって言ってんだよ」

週一の氏子総代が、小皿の上で何か作業をしていた。

・・・そう、銀杏の殻を剝いていた・・・。


「昔は、栗だってイガごとかみ砕いたものでしたの。まあ、美味しくなかったので止めましたの」

そう言いながら、剥かれた銀杏を口に放り込む。

週一の氏子総代も、そのつもりなのか、文句も言わずに銀杏の殻を剥き続けている。


と、お子様は突然こちらに向き直る。

「ああ、何か途中でしたの。

ええと、そうそう、そうですの。

交互に何度も繰り返しましたの。」


私の耳は、突如再開された会話に戸惑いながらも、聞き捨てならない言葉を拾った。

「交互・・・に?何度も・・・?」


お子様は、銀杏を二つ一度に口に放り込む。

そして、週一の氏子総代に言われる。

「殻剥きだって楽じゃねえんだ。大事に食えよ。」

お子様は悪びれる事も無く答える。

「はーい。分かりましたの」


・・・そして、もう一つ銀杏を頬張ると、私を見据えて笑いかける。

「そうですの。

いくら入れ替えても何度も来られるもので、何度も捕まえて入れ替えましたの。」

テーブルの上に、先ほどの角刈り玉がゴロゴロをいくつも放り出される。

「こちらが、テンチョウ・・・さん?の、分ですの・・・」




「で、こちらが、アナタの分ですの」

お子様が自慢げに嗤う。



テーブルの上には、白いラインがㇵの字に描かれた玉が五つほど・・・。あれは、私・・・なのか?

つまり・・・つまり、私も何度も入れ替えられている・・・?


私は慌てて自分の記憶を漁りだす。


私はこのビルのオーナーで・・・角刈り店長の上司で・・・。

あれっ・・・私は・・・自分が何やら薄っぺらに感じる。

今まで何十年も生きてきた自負も自信も、ゲームのstatus画面に表示されたトピックスのように頼りない。

まるで、対外用の書き割りで配置されたオーナー。


「長年・・・オーナーをつとめて・・・いつから?なんで、ビルオーナーなんか始めた?」

手ってこんなだったか?

・・・だめだ・・・私が、私であることに確信が持てない・・・。

人間の認識にまで干渉できるのか?

こんな事が可能な存在に対抗する術なんて人の身には在りはしない・・・。


と、横から週一の氏子総代がお子様に問う。


「それにしても・・・入れ替えられたら、もうココには戻ってこれないんじゃないのか?

それ以前に、あんたに逆らうような真似が、どうして可能なんだ?」


お子様が哂って答える。

「ああ、確かにこの方個人の能力では、こんな結果にはなり得ないですの。

でも、有る条件が揃うと、能力が上昇するんですの」


週一の氏子総代が重ねて問う。

「その条件って聞いても大丈夫なのか?」


お子様は嗤って答える。

「構いませんの。

条件は単純ですの。

成れば良いんですの」


・・・何言っているんだ?


週一の氏子総代が、呆けた顔でオウム返しに問う。

「成るってなんだ?」


お子様は哂って答える。

「相手の陣地に侵入すると、敵陣に入って、歩が玉に成る様に能力が劇的に上昇しますの。

・・・将棋とかご存じないですの?」


週一の氏子総代が、問いを重ねる。

「俺の能力値が上昇している様な気がしないんだが・・・」


お子様は嗤う。

「それはそうですの。

アナタは私の氏子・・・私の眷属なんですから。」


週一の氏子総代が、問いを重ねる。

「あの、刀使いには、適用されてたか?」


お子様は律儀に回答を寄越す。

「あの時は、野球のルールでしたの・・・。

何事も、コレはコレ、ソレはソレなんですの。」


週一の氏子総代が呆れた様に応える。

「結局、お前さんの胸三寸って事じゃねえのか?」


お子様の視線が泳ぐ。

そして、話題が転換される。

「さて、話は尽きないけれど、キリも無いのでこの辺で一旦締めますの」



私の視界が暗転する直前、随分と色あせた白ㇵの字玉が転がっていくのが見えた・・・。


「歩が成るのは金じゃ無かったか?」

週一の氏子総代の声が遠くに聞こえた・・・。





「特に異常は見当たらないか・・・」

会計を済ませつつ、独りごちる私が退店していくのを、私はテーブルの上から眺めている・・・。



黄泉平坂 被害者を連れ帰る 難しいモノだ。


終わり






小学校の運動会。

君は一等、僕はビリ・・・。


そんな時でも、保護者席では一家親戚うち揃って呑気な宴を催しつつ、子供の頑張りを見守ったものです。

・・・まあ、今回はゴール出来なかったみたいですけど・・・。


運動会のお弁当と言えば、おにぎり、唐揚げ、卵焼き・・・いつも食べてるものと大差無いのに、外で食べると言うだけで特別な味がしたものです。

皆さんの、運動会のお弁当と言えば、何ですか?

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