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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑩「お子様と引き継ぎ業務」1/6

はい、お待たせ様でございます。

新章スタートです。


今回は、久々にあの人の登場です。

前回は、絶望に満ちた終わりでしたが、少しは立ち直ったんですかね。


まあ、命と引き換えの接待業務みたいな感じですが、頑張って欲しいモノです。


では、彼の前途を祈って・・・乾杯です。


居酒屋奇譚⑩「お子様と引き継ぎ業務」1/6



語られる一通りの事情について、お子様は珍しく勧められたシングルモルトのグラスを舐めながら興味無さげに耳を傾けていた。

いつもは、ビールジョッキかホッピーを豪快に胃の腑に流し込んでいるか、焼酎や日本酒をチビチビ手酌で呑んでいるイメージだ。

洋酒を呑んでいるのを見たのは、数えるほどしかない。

度数の高い慣れない酒のせいか、いつもよりも目の回りが赤らんで見えるのは気のせいか・・・。

そして、気だるげに俺に向かって口を開いた。

「で、これを聞いて、この身は何をすればいいんですの?」

・・・え・・・何とか出来るんじゃないのか?



定期報告・・・と、言うよりも暇つぶしのお相手時間として、首切りこと俺は半月ぶりに例の草臥れた居酒屋を目指していた。


日付や頻度などが決まっている訳じゃない。


好んで近寄るという事が無い俺について、お子様が呼びつけたいと思った時に来店する事になっている。

如何して呼びつけたがって居るのかが分かるか?


それは、俺の夢に例の三日月柄の玉が登場するから、直ぐに理解できる。

最初は、夢のはじっこにコロコロ転がっているのが分かる。

夢は忘れてしまうのに、玉の事はハッキリと頭に残っている。


・・・無視すると、ちょっとした意識の切れ間などにも転がってくるようになる。

そして・・・更に無視をすると・・・白昼夢の様に、現実世界でも見えるようになる。

確かめたことは無いが、恐らく俺にだけ見える。


・・・飛び乗った地下鉄の閉まりゆく扉の向こうをコロコロと・・・。

・・・昼食のラーメンに、味を追加しようと手を伸ばした調味料の脇をコロコロと・・・。

あげく、指示を受けている上司の机の上をコロコロと・・・。


俺は、喉を駆け上がってくる悲鳴を必死に呑み込んで耐える。

・・・が・・・耐えられて二日と言う所だ。

残念ながら、本物の脅威に対して人間の忍耐など脆いモノだ。

だから・・・ああ・・・だから、俺は、不本意ながら(忌々しい)お子様の居る(忌々しい)草臥れた居酒屋へと歩いていく。


・・・塀も天井も無い刑務所に収監された囚人と言う訳だ・・・。




「頼む!ココの神様に取り次いでくれ!」

目の下のクマが酷い不健康そうな男が、俺の袖をつかむ。


俺も人の事は言えないが、標準よりもかなり痩せぎすな男だ。

体の健康は勿論、精神の均衡も崩れかかって見える。

薄汚れた顔に搭載された窪んだ眼窩・・・眼だけがギラギラとして見える。


余ほど切羽詰まっているのだろう。



一般的な良心の持ち主なら、話を聞いてやりたくなるだろう、見るからに不幸な男。

平均的な財布の中身の持ち主なら、更に一杯奢ってやりたくなるだろう、見るからに不健康な男。


・・・だがな、俺は誰かれ構わず救って歩く救世主の類では無いし、見返りはおろか縁を創る事で厄介ごとまで招きそうな相手に施しをする篤志家の類でもない。


そもそも、良心はお役所仕事で十分に摩耗してしまっているし、財布の中身は基本的に(あの忌々しい)お子様に握られてしまっている。


つまり、俺が出来る事は多くない。

深くため息をつく事と、ソイツに一言言ってやる事だけだ。


「悪いが、何を言っているのか分からない。

申し訳ないが、何か協力してやれる気がしない。

差し支えなければ、他を当って欲しい。」


・・・ふむ、十分に定型的な体裁を持った、典型的な返答が出来たと自負する。

・・・自負した・・・が・・・。


「そんなこと言ったって、分かってるんだ。

これは、アンタの事だろう?」

その貧相なギラ目は、食い下がって来る。


俺は、相手にせずに立ち去りたかったが、聞き捨てならない言葉に足を拘束される。

「これって、なんの事だ?」


俺の問いに、貧相なギラ目は更に目を輝かせる。

興味を引けたこと・・・埒が開きそうな雰囲気を感じて嬉しいんだろう。

まあ、見せた笑顔は、単に顔面が歪んだだけだったが・・・。


貧相なギラ目は、手に持っていた雑誌を俺の目の前に突きつけて寄越す。

「ココ、この記事だよ。」


俺は、鼻が付きそうなほど押し付けられた雑誌を、奪い取る様にして手にすると、示されたページの見出しを見る。


【戦慄!神に挑んだ剣士の末路】


・・・何だコレは・・・。

記事を斜め読みすると、内容は搔い摘んでこんな感じだった。


現在も存在し続ける達人剣士の一人「首狩り(仮称)」が、己を過信して神に喧嘩を売る。

結果、返り討ちにあって取り込まれ、不死者となって街をさ迷っている・・・。


俺は、「首切り」だ・・・。

本人特定を避ける為に、(仮称)なのか?

それにしても雑な仮称だ。

知っている人間が見れば、俺の事だと容易に知れる程度のボカシでしかない。

そもそも、隠す気すらないのかも知れない。


記事内の首狩り(どこかのジャングルの原住民か?)の身体的特徴は、直毛長髪の高身長・・・やたら目つきの悪い三白眼を青白い顔に配した、剣呑な雰囲気の男だそうだ・・・。

風体の描写と言うよりも、悪口になってないか?


記事内に書かれた行動の記述や所持品などから推測されるだろう人物像は、なるほど俺そのものと言ってよかった。

だから、この貧相なギラ目は、俺を特定できたわけだしな・・・。


俺は、精神的苦痛から発症した、ジンワリとした頭痛を感じながら貧相なギラ目に問うた。

「で、コレが俺だとして。

不本意ながら、極めて類似した特徴を挙げていると言える。

だから、俺だと勘違いした事は、見逃すことにする。

・・・で、コレが俺だとして・・・だ。

要求は何なんだ?」


貧相なギラ目は、立ち話だったとしても聞いてもらえることを喜びつつ、要求を告げた。

曰く、

「神様に取り次いでほしい」

と。


貧相なギラ目は、既に真面とは言えない思考能力をフル回転しつつ、現状の説明を始めた。


・・・なるほど、興味深い内容だった。

与太話としては秀逸と言っても良い。

だが、大病を患った男の錯乱した意識の産物としたら、詰らないことこの上ない。

物証も無く、有るのは貧相なギラ目の証言のみ。

本人は至って本気の様なのだが、若干、常軌を逸しつつある精神状態では、順序良く語る事も儘ならない様子だ。


医者や警察、お寺や教会、果ては拝み屋や呪い師にまで相談したが、埒が開かなかった・・・そうだ。

そうして、次の相談先を探すべく手に取った情報源の一つが、この雑誌だった。

・・・この、三流オカルト雑誌だ・・・。


貧相なギラ目の話ほどではないにしろ、まあまあな与太話の羅列にしか見えないそれ。

俺だったら、まず間違いなく下らない駄文と切り捨てる類のそれら。

・・・確かに、その筆致は優れている。

河童や人面犬などの、聞き飽きたネタについても、迫真かつ斬新な表現で読む者を飽きさせない。

それは認める。

読み物としては、掛け値なく面白い。

だが、それだけだ。


しかし、貧相なギラ目は、その中の(ああ、よりによって)俺の(俺をモデルとしたであろう内容の)記事に目を奪われたらしい。


・・・コレは・・・ホンモノだ・・・。


人間の用意できる、法律も術も暴力も助けになりそうにない。

神も仏も、一見さんには面会叶わず、寺も教会も救ってくれない。

そんな切羽詰まった状況で、実在の神について書かれた三流オカルト雑誌の記事に巡り合ったって訳だ。


将に天啓。


貧相なギラ目は、熱く語ってくれた。

そして、そこからは行動あるのみ。

雑誌に記載された断片情報と、己の推理を組み合わせ、ついには正しい現場を突き止めた・・・んだそうだ。


ところが、正しい現場たる草臥れた居酒屋に入店してみると、ソレらしい(つまり、神様っぽい)存在は見当たらない。

何度も出入りしてみたが、埒が開かない。


普通なら、ここで諦める筈だ。

しかし、貧相なギラ目は違った。

「私には、資格が無いんだ・・・」

と、結論したわけだ。


それは、素晴らしい気付きだ。

何故そのまま帰ろうと考えられないのか・・・。

得てして狂った頭で得られる名案とは、大概狂った結論なのだ。

貧相なギラ目は、思考の末に啓示の如き妙案に至る。


「私に資格が無いなら、資格のある人と一緒に入れて貰えば良いのだ」


・・・如何してそうなる?


有資格者が存在する根拠は何だ?

存在するとして、どうやって見分けるんだ?


諸々の疑問は、まともで落ち着いた状態だから出て来るのかも知れない。


貧相なギラ目は、狂った妙案から、イカレタ手段を導き出した・・・。

この場で・・・待つ・・・と。



そして、正しい現場に張り込む事、実に1週間。

途中、雨に降られたり、職質を受けたりと紆余曲折の果てに、雑誌に記載されたまま・・・そのままの、将に「首狩り」(首切り・・・)に遭遇できたという。


涙ぐましい努力の結果と言う訳だ。



俺は、費やされた労力に対して敬意を感じつつも、その狂気に対して怖れを感じ、その結果(俺が遭遇してしまったこの状況)に嫌悪を感じた。


おそらく、この雑誌の神様ってのは、あの(忌々しい)お子様の事なんだろう。

なるほど、俺は、この暖簾を潜ってアッチ側へ行ける。

が、同道したところで、この貧相なギラ目は無理だろう。


何度も試したと言っていたが、恐らくリテ熊ツーの裁定をクリア出来ていないんだろう。

一緒に暖簾を潜ったところで、俺はアッチ側、貧相なギラ目はコッチ側に振り分けられるだけだ。

・・・普通に同道すれば・・・だ・・・。


「おい、コイツは俺の判断に余る。

根拠は判らんが、お子様にとっても興味深い話だと思う。

大方、この貧相なギラ目の支離滅裂な話し方が、問題なんだろう?

今なら、俺が要約して伝えられると思うんだが?」

俺は、入口の傍らに足を投げ出して座っている大きなクマの縫いぐるみに話しかけた。


そして、貧相なギラ目を促す。

「会えるかどうかは分らんが、取り敢えずついて来い」


そして・・・暖簾を潜った・・・。



おやおや、雑な偽名でプライベートを暴露されちゃってますね。

どうやら犬娘さんは、掲載時に登場人物の許可はとって無いみたいです。

コンプラは・・・まあ、神事の一環だから良いのか・・・良いのか?


それにしても、首切りさん・・・呼び出し方法はアレだし、嫌々出勤すれば変なストーカーが居るし・・・モテモテで辛いですね?


いつもは、居酒屋の狭いテーブルでチマチマしていますが、今回はついに外に飛び出して・・・店の前でチマチマしてますね。

結構迷惑。

でも、折角の呑みの席、楽しめる店かを見極める事も重要です。

さて、今の私は何腹だ?

皆さんの今日の選択は、何料理ですか?


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