居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」3/4
さて、中ボスもイベントも無く、いきなりラスボス出現です。
いやはや、ゲームバランスに難ありすぎのRPGですが、最終決戦なので盛り上げて行きたいものです。
Welcome to this crazy time
このイカレタ酒場へようこそ
まあ、Boyって年でもないんですが・・・。
交渉を前に、相手を飲むつもりで、さあ乾杯。
居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」3/4
先客は、奇妙な人物だった。
年齢不詳、性別不明、座ってすら私から見下ろされるほど小柄な体躯は、作務衣の様な服に包まれていた。
ぱっと見、中学生にしか見えないそいつは、案内されてきた私を見てほくそ笑むようにして言葉を口にする。
「相席ですの?商売繁盛で良い事ですの」と。
小柄な人物は、体躯に比較すると非常に大きなジョッキを器用に傾けてビールを飲み干していく。
瞬く間に大ジョッキの三分の一を胃の腑に収めると、
「ほう、ですの」
とため息をつきつつ此方に視線を向けてきた。
週一の氏子総代に向ける眼差しは、まるでお使いに来た孫を見つめるお年寄りの視線の様だった。
きちんと役割を果たしていると胸を張る子供を微笑ましく眺める時のアレだ。
お子様の童顔をどう見ても老人の要素は無いのだが、年長者に見えるのは何故だろう。
お子様は、週一の氏子総代と2~3会話をしつつ、追加で運ばれてきた串カツ5種盛から一本手に取って齧りついていた。
串の一つ目の塊は何らかの肉だったようだ。
ソースの絡んだ揚げ物の中に期待の具材を見出して、機嫌よくビールを煽っている。
やや大ぶりのカツを二口で呑み込んで見せ、満足げに頷いている。
二つ目の塊は・・・期待に満ちた目でかぶりついて見せると、その目が真ん丸に見開かれる。
二つ目は櫛切りにされた玉ねぎだ。
・・・いや、機嫌悪そうな表情で「騙された!」って顔してるけど、串カツってそーゆーもんだぞ?
・・・一応、玉ねぎのフライも咀嚼して胃に収めていた。
不本意そうな顔つきではあったが・・・。
当初のご機嫌な様子から急転直下、不機嫌にすがめられた目をコチラに向けてお子様が問いかけて来る。
私の預かり知らない処で、対話の初手は頓挫しつつあるようだ・・・。
「で、あなたは何なんですの?」
何やら答えようとする(おそらく、新しい氏子とでも紹介しようとしたのだろう)週一の氏子総代を手で制して私は答えた。
「このビルのオーナーだよ。つまり、この店のオーナーだ」
お子様は、まじまじと私の顔を眺めて一言漏らす。
「・・・また、ですの?」
・・・予想外の反応に、一瞬思考が止まった。
思考が止まったまま、私は、反射的に思わず問い返す。
「また・・・とは?」
お子様は、興味も無さげに応える。
「この前は、テンチョウ・・・さん・・・だったですの?」
週一の氏子総代は、困惑顔で答える。
「いや、俺に聞かれても・・・」
お子様は、鼻を鳴らしつつ、それもそうかと頷いてみせていた。
そして、徐に私の方に向かって言葉を発する。
「この場所の持ち主と言う事であれば、無碍にするのも憚られますの。
ただ、こう何度も来られても、この身も暇と言う訳ではないのですの。
要は纏めて貰えると助かりますの。」
何て言い草だ。
初対面の相手にずけずけと・・・だが、角刈り店長もココに訪れていたようなことを言ったぞ。
さっきヤツからは、そんな話は出なかった。
「角刈り店長もココに来たのか?」
俺の問いに、お子様は興味無さげに応える。
「なんですの・・・仕入れの金額がなんとか・・・言ってましたの。
この身は食した分はキチンとお支払いしていますと、お答えしましたの」
お使いで、お釣りをキチンと貰って来た事を報告する子供の様な勢いで胸を張って見せるお子様。
会話中の瞬く間に最初の串を嚥下したうえに、つづいて二串を平らげて見せる。
今は、四串目の鶉の卵に取り掛かって、中身に満足そうに目を細めて見せている。
ついでに煽った中身の心細くなったビールジョッキを左右に揺らして次を催促。
週一の氏子総代が、タッチパネルで注文している。
・・・そうじゃ無い。
個々の会計がどうとかって話じゃない。
私たちが確認したいのは、お前らがココで何をしているのか?
どうやって、ココは存在しているのか?
いつからココは存在しているのか?
そもそも、お前らは何なのか?・・・そういう部分だ。
コイツが神さんなのだとしたら、こう言う異常地帯も創造可能なのかも知れんが、居座られたコチラは迷惑だ。
・・・正直、不気味で怖いと感じる。
「地権者として言わせて貰えれば、勝手に占拠されるのは迷惑なんだが・・・。」
言外に「退去要求」をチラつかせるような言動を呈する私を見るお子様の目が剣呑な雰囲気に代わる。
玉ねぎを睨むのと同じ目つきで此方を睥睨する。
・・・レバカツにたっぷりかけたソースでベタベタにした口の回りを週一の氏子総代に拭ってもらいながら・・・。
「つまり?この身に、場所を移動しろと仰っていますの?
そう言う理解で宜しいですの?」
ボーイソプラノのやや甲高い声はそのままなのに、声音に剣呑な雰囲気がにじみ出て来る。
今のはこちらの言い分の確認では無く、敵対意志の最終確認だ・・・。
お子様の目が憎悪に染まったように、文字通り色が黒く変わっていく・・・。
急速に悪化する場の空気を前に、週一の氏子総代があわてて割って入る。
「まあまあ、こちらの白眉オーナーは、出て行けって言ってるわけじゃない。
だろ?
ただ、居るからには居るって連絡が欲しかったって言ってるだけだ。
場所の所有者とした極めて妥当な考えだと思うぞ?」
お子様に答えようとする私を制止しつつ週一の氏子総代が執成す様に発言した。
お子様は、明らかに不貞腐れた表情を浮かべつつ答える。
「その件に関しては、もう何度も話をしましたの。」
聞き捨てならない話し方だ。私の口から疑問が漏れる。
「そんなに何度も来ているのか?」
なにやってんだ、角刈り店長・・・。
その時、注文作業をしている様子は無かったのに、ティラミスが提供されてくる。
それも3つもだ。
さらに、ガラスの器に乗っているのはプリンか。
よくあるプルプル柔らかい奴じゃなくて、昔の喫茶店で提供されていたような若干堅めの奴だ。
お子様は視界にそれを捉えると、目を丸くする。
目の色は普通に戻り、口角が上がって、見るからに上機嫌になる。
「こっちはティラミス・・・こっちは何ですの?」
配膳した草臥れた店員が答える。
「試作品ですが、プリンです。
堅さは変えるかもですが、味はこれで決まりです。
上の生クリームと一緒に食べてください。」
お子様はもうスプーンを片手に夢中だ。
「生クリームって、この白いのですの?混ぜるのですの?載せるのですの?」
言いながら既に一口頬張っている。よほど気に入ったのか、満足そうに目を細めてパクつき始める。
もう、此方との話は忘却の彼方のご様子だ。
私は問いを重ねる。
「複数回、ここであなたに会っているのか?」
お子様は、先ほどの不穏な空気など無かったかのようにご機嫌で答える。
「ええ、四回目・・・五回目?のアナタの次にお出でになりましたの。
・・・ちょっと回数が多いので、正確に何回目かは一寸分からないですの。」
そんなに頻繁に来ていたのに、なんでおくびにも出さなかったんだ?
角刈り店長の真意が測りかねて、私は困惑する。
私は思わず問いを繰り返す。
「そんなに何度も来ているのか?」
私の問いに、お子様は小首を傾げる。
「そんなに気になりますの?
・・・交互に何度も同じ話をしましたの」
・・・交互?・・・いや、お子様はなんと言った?
「アナタの次に」・・・アナタって私か?
私が、何度も、ココに来ている?
混乱する私を胡乱気な視線で眺めていたお子様は、ふと表情を明るくして言い出す。
「ああ、数えてみれば良いんですの!」
手を打って、如何にもいい考えが浮かんだと言わんばかりの表情で告げる・・・。
「数えるって・・・なにを・・・」
話しが見えずに狼狽える私に取り合う様子もなくお子様は両手を広げて見せる。
「シャクチケン・・・とか、面倒だったのでチャッチャと入れ替えてましたの。
これを数えれば、来た回数が分かりますの」
最期のティラミスをパクつきながら、お子様が告げる。
途端に、猥雑な音声に溢れていた店内から音が消える。
酔客も週一の氏子総代も草臥れた店員も・・・全てが止まって見える。
・・・そして、テーブルの上には、黒い四角が描かれた玉が・・・一つ、二つ・・・五つほど転がり出て来る。
全て同じ柄の同じ玉。
しかし、よく見ると、色の濃さが一つ一つ違うようだ。
「作業としては、入れ替えられたモノを重ねて入れ替える事は簡単ですの。
ただ、入れ替えるたびに情報が劣化するので、玉の方もだんだん柄が薄くなるって訳ですの。
入れ替わられた方も、中身が薄くなっていますので、だんだんと持っている情報も希薄なモノになってしまいますの。
だから、過度の入れ替えは推奨しませんの」
・・・何を言っている?
まるっきり理解できない・・・ハズなのに、私は分かってしまった。
これは、角刈り店長だ・・・。
「これは・・・一体・・・」
戸惑う私にお子様が応える。
「性格とかも関係するのかもですの。
何度入れ替えても同じ質問を抱えてこの身の前に現れるので、つい、同じ作業を繰り返してしまいましたの」
全く悪びれた様子が無い。
「原理的に、重ね掛けすると薄くなるとは思ってましたの。
でも、実証できたのは、貴重な体験でしたの。
この角刈り玉、あと1~2回入れ替えると元の模様が無くなっちゃいそうですの。
この身もそこまで繰り返したことは無いので、興味はありますの。
でも、模様が無くなると見わけもつかなくなるので、あまりお勧めはしませんの」
染毛剤の試供品について説明しているかのような軽い感じで、お子様は続ける。
「まあ、ここまで薄くなると、入れ替わった先にも支障が出てるかもしれませんですの」
クスリっと微笑むお子様。
・・・だめだ・・・コイツは友好的に振舞って見えるが、根本的なところで何かが大きく違っている。
悪意とか善意とか、人の尺度で測れる範疇に無いのだ・・・。
突然表示されて、様々な商品の購入を促すウザったいCM・・・見るのも面倒だからリセットしちゃえ・・・的な勢いで、チャッチャと入れ替えを重ね掛けしてたみたい。
基本的に、興味のないことには極端に冷淡なお子様です。
挙句に、柄が薄くなると言う現象には興味を持っちゃったみたい。
無邪気なもんです。
固めのプリン・・・あんまり見なくなりましたね。
プリンアラモードとかチョコレートサンデーとか、響きだけでもワクワクしたものです。
あの、明らかに体に悪そうな色のクリームソーダとか・・・懐かしいですね。
皆さんの思い出の(憧れの)デザートって何かありますか?
え?スイーツ?違います、おっさんの食す食後の甘未はデザートなんです。
そう言う事になっています。




