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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」2/4

巫女さんも神主さんも元気にやってる見たいですね。

犬娘さんは、相変わらずの狂犬ぶりで何よりです。


・・・プレッシャーだったリテイク熊さんの退場で、抑えが利かなくなっているのかな?

それにしても、吹き荒れる暴力を前にして、ちょっと滑り気味のセコさんの口です。

意外と良い性格しているのかも知れませんね。

居酒屋奇譚⑨「お子様の契約交渉」2/4


・・・うむ、放っておくと終わらないようだな・・・。

この若い男女の掛け合いは、見ていて飽きないが、ずっと見ている訳にも行かない。

私は声をかける事にした。

「すまないが、店に入りたい。ちょっと道を開けてくれんかな?」


犬娘は慌てて答えた。

「すいませーん。直ぐどきまーす。」

と、発言しつつセコの襟首をつかんで店に入っていく。


言動はアレだが、悪い手合いでもなさそうだな・・・。

私も続いて入り口をくぐる。

意外にも、リテ熊ツーは扉の開閉にも、入店の際にも、特に引っかからない。

威圧的な外見にそぐわず、意外と邪魔にならない。

物理的な大きさが変わった訳でもないし・・・なにやら、トリックアートでも見ている様な気分だ。



店内に入ると、店内は閑散とした表通りとは異なりお客でごった返している。

完全な空席は無く、まったく商売繁盛な事だ。


・・・が、・・・店内を見渡しても犬娘もセコも見当たらない。


確かに間口から察するよりも遥かに広い店内だが、今入った客を見失うほど広大な訳では無い。

まして、あれだけ特徴的な人物を見落とすなんて考えられない。

一応、店舗スタッフにことわって、店内を1巡したが、彼らの痕跡は何処にもなかった。


これが、消えるお客か・・・。


期待はしていなかったが、初っ端から怪現象を突きつけられるとは・・・。

わたしは、トイレと厨房、バックヤードを確認して、彼らの不在を確信してから、店外へ出た。



相変わらずリテ熊ツーが、往来を睥睨している。


・・・睥睨している?

・・・わたしは何故か、この熊を監視者として認識しているようだ。

往来なのか来店客なのか、何を観察しているにせよ、この黒いボタンで作られた虚ろな目で、何を見ているというのか?

しかし、一方では、ほぼ確信をもって考えてもいた。

コイツが何かしている・・・と。


そもそも、このリテ熊ツーは、何故ココにあるのか?

店の備品では無いだろう。

少なくとも、私はこんなものの購入設置の決済をした覚えはない。

大きさのせいか、多少大雑把な作りとは言え、この大きさのぬいぐるみだ。

購入するとなると、それなりの金額になるだろう。

・・・つまり、バイトがいたずらで持ってくるような類のアイテムでは無い。

出所は何処だろう?


マジマジと観察している私に声がかかる。

「ちょっといいかい?」

男の声に驚いた。

・・・私は余程に集中してしまっていたようだ。


声をかけて来た男は、慌てる私に対して特に不審な様子も見せずに続けた。

「中に入りたいんだが、ちょっと退いてもらって良いかな?」


私は入り口の前を開けつつ詫びた。

「申し訳ない。ついこの熊に関心が向いてしまって・・・。」


男は答えた。

「ああ、気にしなくていい。

確かにコイツは目立つし・・・怪しいからなあ。」


私は、男の訳知り顔な発言に興味を惹かれて質問してしまった。

「この熊について、何かご存じなんですか?」


男は答えた。

気の良い男らしく、気軽に話してくれたが、少々歯切れが悪い。

「コイツなあ・・・俺も由来は知らんのだけど、役割的には取次役・・・まあ、狛犬みたいなモノらしい・・・。

詳しくは分からんけど、お客の振り分けをしてるとかなんとか・・・。」


男は続ける。

「俺も、週一でココに呼ばれてるんだが、決まった日取り以外に来ると違う方へ入店しちゃうんだよな。」


・・・なんだ?違う方って?


私の疑念を感じ取ったのだろう、男は言葉を重ねる。

「ああ、そんなに警戒しなくっていいよ。

俺は、正常だ・・・まあ、オカシナ奴は大概そう言うんだろうけど。

俺は・・・ええと・・・氏子総代・・・なんだ。

週一だけで、しかも特に仕事が割り振られてるわけじゃないけど・・・。」


この男・・・週一の氏子総代は、奇妙な話をしてくれた。


それによると、この居酒屋には一種の神さんが居るのだそうだ。

この神さん、傍若無人で自由勝手気まま我儘絶頂の手が付けられない手合いなんだそうだ。

そのくせ、ひどく寂しがり屋で、好奇心が旺盛。

何にでも興味を示して触ろうとする。


「・・・だから、野放しにすると始末に置けない・・・らしい。」


週一の氏子総代は、続ける。

「厄介だからこそ、せめて接触範囲を限定する為に、ちょっとまえからこの居酒屋に封じられた・・・らしい。」


・・・どうもはっきりしないのは、週一の氏子総代が、ソッチの知識を持っていないからだそうだ。

ただ、少々前に彼のちょっとした不注意から、その神さんはココを居場所と定めてしまったのだそうだ。

そして、其の神さんを、祭祀や祝詞などの代わりに、世間話などで慰める為に、彼が週一の氏子総代に任命されて出仕する羽目になっている・・・と。

「まあ、ご加護があるのかは分からんけど、祟りは確実にある・・・。

だから、週一の氏子総代の任を放り出せない。」


週一の氏子総代の話は、一見すると、良くある都市伝説のパターンの一つに過ぎない。

・・・最大の違いで、最も厄介な点は、彼が当事者だ・・・と言う所だろう。

週一の氏子総代によると、その神さんがいつからココに居座っているのかは分からないけど、いつもの居酒屋に重ねる様に「もう一つの居酒屋」を構えて、そこを根城にしているのだそうだ。

その、もう一つの居酒屋へ入る際に、入れる入れないの振り分けをしているのがこの熊って訳だ。

・・・なるほど、つぶらな瞳をしているが、体格に見合って当居酒屋のバウンサーって訳だ。

誰が手配したのかは分からんが(ああ、神さんが配置したんだっけ?)、頼りにしているよ・・・。

愚にも憑かない事を考えながら、さらに熊のぬいぐるみを観察する。



すると、おそらく、私の好奇心を読み取ったのだろう。

奇妙な申し出がなされた。

「・・・どうする?一応、氏子の新規開拓も頼まれてるから、入るなら話を通すけど・・・。」

週一の氏子総代は、熊に向かって顎をしゃくる。


・・・なんだと?この手の与太話は大概

「運が良ければアンタも行けるぜ・・・」

的なオチに終結するのに・・・。

怪異そのものへの接触を打診されるなんてあり得るのか?


しかし、私は確信してしまった。

売り上げ(文字通り)倍増の原因は、この話の中にある・・・と。

咄嗟に口を突いたのは「お願いします」と言う、依頼の言葉・・・引き返し不能な事態への参加表明と伴う危険に対する全面全権白紙委任依頼だった。

週一の氏子総代は、了解の意を示しつつ言った。

「うん、まあ、この熊に気が付いてる時点で、拒否の選択は無いんだろうけどなあ」



週一の氏子総代に続いて入店する。

店内のレイアウトは、変わらない。

・・・が、店内にはあの若い店員は見当たらない。

・・・そもそも、テーブルや椅子などの備品はだいぶ違うし、雰囲気はかなり猥雑な感じになっていた。

ほぼ満席の店内には、先ほどの居酒屋と違ってほぼ全員が酔客で、しかも、かなり出来上がっている感じだ。

大いに、呑み・・・かつ、食っている・・・。

一変した店内に唖然としている私をよそに、週一の氏子総代に向かって声がかかる。


草臥れた店員から「今日は混んじゃってるんで、相席いいすか」と。

週一の氏子総代は、それを了承する。


そのやり取りの途中、店内の中ほどから聞き覚えのある声がした。


「じゃあ、もう少し進んだら、また報告に来ます」

あの、さっき消えた赤ぶち眼鏡の女だ。

同席相手に何か報告をしているみたいだったが、それが終わって、席を立つところだった。

草臥れた店員は「・・・今、ちょうど空いたぞ・・・・」と告げると、私たちをその席へと誘導した。


案内された席は、少し小さめの四人用テーブルだった。

そこでは、赤髪に2本の銀メッシュと言う似合わない髪形のさっきの男が、甲斐甲斐しく食器を片付けている。

「あーあー、こんなに食い散らかして・・・。

片付けるって単語は知らないの?

こんなんだから犬娘とか言われちゃうんだよ・・・」


言われた赤ぶち眼鏡の女・・・犬娘は、正面の人物へ愛想笑いを浮かべながら視線もむけずに真横に拳を突き出す。

・・・つまり、赤髪に2本の銀メッシュの男の頭を殴りつけた。


「口を慎めや、セコ!・・・あたしが大人しくしてるからって、調子に乗ってんじゃないよ・・・。

御ふざけが過ぎるとぶん殴っちゃうよ?」


と、ドスの利いた声で口にした犬娘に、赤髪に2本の銀メッシュの男・・・セコは、反論する。

「殴ったよ。もう、既に、殴ったよ?」


犬娘は、言われて初めて気が付いたかのように自分の手を見て答えた。

「ああ、無意識に殴っちゃったか。

・・・まあ、次は本気でいくからな?」

そして、対面に座る人物に向かって無理やり愛想よく笑顔で退出を告げた。

「じゃあ、まとまったら、また来ます。」

対面の人物が、ぞんざいに答える。

「せいぜい励むといいですの。

次は、話としてまとまってると、良いですの。」

氷下魚の尻尾を口に放り込みながら、対面の人物は愛想よく見送っていた。


狭いテーブルの間を抜けて出て来る犬娘一行は、すれ違いざまに私たちを見る。

「ああ、さっきの・・・コッチに用だったんだね?」

ややぶっきらぼうに、しかし、最大限に愛想よく、こちらに声をかける。

そして、私の顔をまじまじと眺めて一言・・・

「ふうん。

一見さんって訳でも無さそうだね。

でも・・・ちょっと薄くなってる?

まあ、今後の展開は無さそうな感じ・・・」


私は少し身じろぐ。

・・・確かに、総白髪と化した頭髪は、今現在、微細ながらも後退を始めている・・・。

だが、まだ・・・そう、まだ慌てるほどの状態を呈しては居ないハズだ。

「そ、そうかね。気を付けるとしよう・・・」

私は、目の前の人物の態度に対する不愉快さと、自らの頭部に対する理不尽さの為に、やや乱れそうになる口調を無理やり制して応えた。


犬娘は笑う。

馬鹿にした様子は無い。

ただ無邪気に私に笑いかけて言った。

「何をする気か分からないけど、頑張んな」

と。


そして、去り際にアドバイス?を小声で残していった・・・。

「気を付けな。

覚えては無いかも知れないけどね・・・。

怒らせなければ、基本的にほとんど危険は無いから・・・。

時々は、異常なほど導火線が短い時があるけど・・・。

あと、地雷を踏んだ時には・・・諦めるんだね」


・・・それは、危険は無い状況なんだろうか?

私の疑問を置き去りに、犬娘とセコはレジに向かって行った。

草臥れた店員は、一旦レジへ行って対応し、戻ってきた。

そして・・・彼?彼女?の前の席へ案内する。

で、テーブルの上を片付けて、台を雑巾でふくと顎をしゃくる。


週一の氏子総代が、先客の前に腰を下ろす。

「どうも、よろしくお願いいたします。」

と一声かけつつ。


テーブルの人物は、鷹揚に頷くと、タッチパネルを押し付けて来る。

それを横目に、私も会釈しつつ週一の氏子総代の隣に腰を下ろす。



「薄くなってる」・・・おっさんの言われたくないセリフの中でも上位を占めるフレーズですね。

普段は気にしてないつもりでも、面向かって言われると来るものがあります。


・・・犬娘さん・・・コレって頭髪の事・・・ですよね?

何か見えてらっしゃる?


さて、お店に乗り込んだ上で途方に暮れてた白眉オーナーさんですが、良き導き手に巡り合えたみたいです。

いよいよ、異常事態の本命に面会できそうな雰囲気で何よりですね。

まあ、目的地に到着できたという意味では、良き先導者ですが・・・ついた先がアレだと、感謝していいのかどうかは・・・。


取り敢えず、酒席にて初対面の相手と交渉です。

景気づけに煽るお酒は、何がお勧めですかねえ?

皆さんの、ココ一番の勝負時に嗜むお酒って、何ですか?

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