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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑧「お子様の人生相談」5/5

色々あって、盛り上がった楽しい時間もそろそろ終わりです。

さて、後片付けにかかりますか・・・。

宴会の喧騒が耳に残った状態での、ちょっと物寂しい余韻の時間です。

さあ、気を付けて帰宅しましょう。無事に家へ帰るまでが宴会です。


・・・寂しい気持ちを振り払う景気づけに・・・もう一杯だけ・・・。

居酒屋奇譚⑧「お子様の人生相談」5/5


気がつくと、草臥れた店員が私の顔を覗き込んでいる。

私はビックリして飛び起きた。

草臥れた店員は言った。

「なんだ生きてたか。そろそろ看板だよ。・・・支払いは貰ってるから、さっさと店から出て行ってくれ。」


・・・了解だ。

私も別に、夜通し草臥れた店員の顔なんか眺めていたい訳じゃない。

久々に酔いつぶれるまで飲んで、若干アルコール漬けになっている脳みそを再起動しつつ、帰り支度を始めた。

終電は・・・走れば間に合うかもだが、このまま走ったら、途轍もなく酷い事になりそうだ・・・タクシー・・・かな?

幸い、飲み代はお子様持ちだったみたいで、何とかお足は足りそうだ。

と、周囲に私以外の気配を感じる・・・。


隣を見ると・・・髭さん・・・まだ居るの?

成仏してないんだ・・・。


髭さんも、今日まで現世に留まっていた理由を失ったはずなのに、まだここに居ることが不思議なようだ。

酔いが抜けずに半眼になった私と、不可解にも現世に留まってしまって呆けている髭さんが、顔を見合わせる。

・・・が、特に状況を説明できるアイディアは、湧いて来なかった。

知恵の泉の女神さまは、酒の池に耽溺した敬虔なるバッカス信者の我々に恩寵を下される気は無さそうだ・・・。


状況が確認できず、無為な沈黙が訪れた・・・。



すると、草臥れた店員がココで揉めて退店時間が更に遅くなるのを嫌ったのか、自発的に解説しはじめてくれた。

「お前、あいつに奢って貰ったろ?つまり、同じ卓を囲んで、アッチの存在と食事を共にしたって事だよ」


「・・・ああ、黄泉戸喫・・・。」

反対の横からセコの声がする。

あんた、戻ったのか。

良かった、タクシー代は心配しなくても良さそうだ。

・・・ヨモツヘグイってなんだ?


草臥れた店員が、セコの言葉に頷く。

「そうだ、つまり、飯を共有することで、ヤツの眷属に組み込まれたんだよ。」

私は、まだ本調子じゃ無い頭への、新たなインプットに音を上げる。

「何言ってんの?」

セコが呆れたような眼をして、呆れたような態度で、呆れたような言葉を発する。

「わかんないの?その髭の人は、お子様の配下となったんだよ。つまり、もう幽霊じゃない。だから、成仏もしない・・・ウグッ」

私は座ったまま、セコのボディに拳を叩きこんで黙らせる。

「じゃあ、お子様によって、髭さんはリユースされたって事だね。」

草臥れた店員は、かぶりを振る。

「お前さんの眷属観は、どうなってんだ?・・・まあ、とにかく、アンタはお子様の所有物ってこった。」

髭さんが目をむいている。

「・・・つまり・・・自分は・・・」


草臥れた店員は続ける。

「その髭が、この世ならざる住人なのは一見して察しがついた。

・・・ただ、単なる幽霊だったら、この店には入れない。

・・・一応、神域だからな・・・。」


その後の解説は、搔い摘んでこんな感じだった。

お子様の鎮座するこの居酒屋は、居酒屋であると同時にお子様神社の本宮的な空間となっている。

祟り神とか疫病神とかに近い性格を持っていても、一応、お子様がこの場を管理している以上、この場は聖質を持っている。

便宜上「聖質」と呼称しているが、別に正義とか善とか言う意味じゃない。

単に、神的な何かが管理している物件ってだけだ。


まあ、縄張りとして認定し、保護するべき領域としてお子様が指揮下においているってだけの事らしい。

だから、余程の意思とか能力とかを持ったものか、許可された者・・・そして関係者以外は、基本入れない。

それ以外は「お呼びでない」から・・・。


この辺の精度はかなり高い。

入口のリテ熊ツーは、伊達じゃない。

(ああ、あれ、リテ熊ツーで名前が決まったんだ・・・)。


で、髭さんだ。

髭さんは、一応軍人なんだけど、コッチ側的には別に強力な存在って訳じゃない。

つまり、一つ目の条件はクリア出来ていない。


初来店だから、当然、お子様とも面識はない。

つまり、許可なんかない。

二つ目の条件もクリア不可。


消去法で残るのは、三つ目の条件だ。


でも、初対面の関係者ってあるの?って私の疑問を察する様に、草臥れた店員が言った。

「風が吹けば桶屋が儲かるって感じかな。

直接的には接触が無くても、巡り巡って繋がる事は、無い話じゃない。

一度もあった事が無い遠い親戚とか、小説家とその読者とか・・・。

今回は、シンドウ家云々を介して関係者と見なされたんだろうな。」


草臥れた店員は、続ける。

「もっとも、アイツも遺品を見るまでは気が付かなかったみたいだから、関係者とは言ってもかなり薄い関係者だけどな・・・。

俺も、会わせれば何かわかるかな程度の心算だった。

まさか、眷属に組み込まれるとは思わんかったよ。」


髭さんが、突っ伏したまま恐る恐ると言った感じで発言する。

「それは・・・辞退とか・・・出来るのでありますか?」


草臥れた店員は、アメリカ人がドラマで良くやるあの肩をすくめる仕草をしながら答える。

「・・・申し立ては出来ると思うが・・・お勧めはしないぜ。

あの手の存在は執念深い。

一度、自分のモノにしたら、それに執着すると思う。

まあ、アイツに訴えれば意外とすんなり解放するかもしれないが、可能性は低いんじゃないかな。

むしろ、裏目に出たときに、何をするか・・・」


髭さんが、ガバッと顔を上げる。

「・・・なんともならんか・・・。是非もなし。」


苦しそうに呻くその顔には、諦念の表情と一枚の紙が貼りついていた。

「なんかついてるよ」

私は、紙を剥がしてやる。


・・・それは、手書きの地図だった。


「・・・これ!財宝の地図!?」

私の驚愕の叫びに重ねる様に髭さんが答える。

「では、ござらん。

これは、最終防衛線時の我が部隊の配置図であります」


髭さんによると、戦闘終了後の戦果報告などに使うので、自分の部下の蛸壺陣地の配置図を作ったのだそうだ。

「まあ、報告を聞く司令部が無くなった今となっては意味のない書類でありますな・・・。」

寂しそうに笑う髭さんを脇に置いておいて、私の鼻が楽しみを嗅ぎつけていた。

「その地図、頂戴」


横でセコが眉をひそめて

「飴玉をねだってるわけじゃないんだから」

とか言ってるが、無視。


私の突然の申し出に、怪訝な顔をした髭さんだったが、もはや自分には不要なモノと、快く渡してくれた。

これは、多分、持っていくべき場所へもっていくと、それなりに価値を発揮する。

私の勘が、そう告げている・・・。


そんなこんなで、わちゃわちゃしていたら、痺れを切らした草臥れた店員が実力行使をしてきやがった。

私の襟首を後ろから掴むと

「カンバンだよ」

と一声、外に放り出しやがったのだ。


店頭で尻もちを搗く私を追って、セコも慌てて退店してくる。

その日は、それでお開きだった。

もちろん、地図は私のポケットの中だ。



その後、お子様へ定期報告へ行くと、お子様の斜め後ろに直立不動の姿勢でたたずむ髭さんが見られることがあった。

お子様の、来客が無い間の遊び相手になっているのだろう・・・。

たまに、リテイク熊と交代して店頭に立っていることもある。

ローテーションを組んで仕事を分担しているのだろうか・・・。



「で、進展はありましたの?」

お子様が聞いてくる。


私は自信満々に回答した。

「地図を、遺骨収集団体に持ち込んだんすよ。

最初は、怪しまれたんすけど、公開されていない指揮官の名前が記載されていたから、俄かに信ぴょう性が増した感じでしたね。」


つまり、髭さんは、最近帰国した収集された遺骨の本人って訳だ・・・訳だと思う。

で、遺骨収集団体は、おそらく髭さんの骨の周囲にも防衛線を構築していた兵隊さんの骨があると踏んでいたのだが、ただでさえ偽装性が高い蛸壺陣地が経年劣化でジャングルと一体化してしまい他の骨は見つけられなかったのだそうだ。


で、この地図だ。


髭さんの性格なのか、やたら詳細に書かれたこの配置図は、通称シンドウ中隊(定数の10分の1も残っていない上に、指揮官は既に脱落していたが、所属兵のたっての願いでそう呼称されたそうだ)各員の居場所を克明に示しているのだそうだ。

しかも、陣地の配置兵の名前も分かる。

出所不明の怪文書ではあるものの、ほしい情報が記載されているという事で、大変感謝された。

たまたま居合わせた、元軍人と名乗るお爺さんからは、敬礼までして貰った・・・髭さんを彷彿とさせる、颯爽とした敬礼だった。

やっぱり、本物は違うね。

謝礼を申し出る遺骨収集団体の責任者に、私は、この顛末の記事化の許可だけを貰って地図を引き渡したという次第だ。

と、報告した。



お子様は、嬉しそうに頷いて言った。

「面白くオチが付きましたの。素晴らしいですの」

私は謙遜しつつも、ドヤ顔だったと思う。


・・・そこへ、必殺の突っ込みが・・・。

「で、幽霊軍団の方は、どうなりましたの?」


・・・忘れてた・・・。


「詰めが甘いでありますな。戦場では命取りとなるでありましょう。」

鼻でふふんと嗤いながら、直立不動の髭さんがお子様の後ろから口にする。


この野郎!


未だにタッチパネルが使えない原始人の分際で!



私の視線が攻撃モードに切り替わったのを見て、セコが口にする。

「狂犬じゃないんだから、なんにでも噛みつこうとするのはどうなの?」


・・・敵増援の横合いからの援護攻撃に流石に形勢不利を悟って私は沈黙する。

ただ、同時に私は、お子様から見えない様にボディブローをテーブルの下で繰り出した。

不意をくらって悶絶するセコを横目に、私は現状打破について、愚にも憑かない事を考えていた・・・。


口撃は単体攻撃だから、複数対象からの挟み撃ちには不利だ。

広範囲に打撃を与えるには、光線兵器での薙ぎ払いが有効だろう・・・。

目から殺人光線を出す方法って、どこかで教えて無いかな・・・。




終わり


「怒れる狂犬」犬娘 VS. 「過去からの帰還兵」髭さん 勃発!

「全周囲無差別攻撃型駄犬」犬娘が、目から怪光線を含む42の必殺技を引っ提げてリングに降臨。

迎え撃つ「彷徨える帝国軍人」髭さんの、戦場帰りの男が見せる帝国式格闘術がベールを脱ぐ。


これぞ前代未聞、仰天動地の大死闘! 積年の恩讐を越え、二人の漢が己のすべてを賭けて今、激突する!


次回「狂犬 対 戦鬼」乞うご期待!

※嘘です。

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