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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑧「お子様の人生相談」1/5

専用のドアマン(リテ熊ツー)を配備して、だんだん充実してきたお子様神社の陣容。

組織が立ち上がってくれば、構成員のやる気も上昇するってもんです。

第一印象に比較して、意外と勤勉な巫女様が、良い仕事をしているみたい。


仕事の成果をつまみに、勝利の美酒で乾杯です。

居酒屋奇譚⑧「お子様の人生相談」1/5


事の発端は、塾帰りの中高生の間で、最近俄かに騒がれだした幽霊騒ぎだった。


細部には差異があるものの、話の筋としては簡単だ。


夜の神社の辺りで、十数名の幽霊が隊列を組んで練り歩いているというモノだ。

特に襲い掛かって来るとかそういう話では無いのだが、それでも死人の行進は怖いモノだろう。


大概は、出くわした瞬間に悲鳴を上げて逃げた…と言う顛末なのだが、中には勇敢(バカなだけかも・・・)にも危険を顧みずに接近を図った者が数名いた。

そいつらも、結局は近づいたって程度で、大した情報は持っていなかったが、中に興味深い事を伝えて来た勇者がいた。



なんでも、その隊列を組んだ幽霊達は、何かを探している様なのだ。


何か、と、言うより誰か・・・だ。


なんでも、指揮官らしき幽霊が、いらだたし気に呟く時があるとの事。

それは、途切れ途切れで、全体は判然としないが、逸れた仲間の捜索している状況のようだ。

で、うかうかしていると、その仲間の代わりに連れていかれる・・・という有りがちなオチが付く。


もっとも、いくら探っても、実際にさらわれた例は確認できなかったが・・・。


何てことない、目撃者が攫われる類のバカ怪談の一つだ。



・・・だが、私の鼻が異常を嗅ぎ分けた。



目的をもって徘徊する幽霊・・・それが、長年語り継がれていたのであればバカ怪談なのだが、これは、ある時期を境に急速に広まっている。

つまり、何らかのトリガーとなる事象が存在し、それに触発されて幽霊が発生した・・・と、推理した。


で、そのトリガーだが、私が見つけた地方紙の端の端に出ていた記事である。

その、某市民団体が主催で行われた遺骨収集云々の記事と結びつけたのは、私の勘である。

犬娘と揶揄される私の勘は、この記事に記載された収集された遺骨が帰国した時期と、幽霊の噂が広まりだした時期が、微妙にリンクしていると訴えかけて来た。


双方ともに、詳細な日程情報がある訳じゃ無いから、完全に一致している保証はない。

ただ、幽霊軍団の話を耳にしたときに、私の中の電探が反応したのだ。

・・・感あり・・・。



早速、調査に乗り出した私は、しかし、今のところ幽霊とは接触できていない。


遺骨の収集情報に関しても、芳しくない。

見つかったのは偶然で、タコつぼ陣地にて布陣していた日本兵は偽装が施されてるので、配置図が無いと探せない。

結局、一人分しか見つからなかったという、不景気な顛末。


しかし、まあ、進捗状況だけでもあのお方に伝えておくことで、定期連絡のネタとして使うのはアリだろう。

何せ、あのお方はこう言った与太話が大好きなのだから・・・。

私は、セコに調査途中のネタをそれなりの報告書にまとめさせて、例の草臥れた居酒屋を目指した・・・。


・・・あのお方・・・なんか、悪の親玉っぽいね・・・。





「珍しい!」そんな言葉が思わず口をついて出て来る。


定期報告の為の週一回の訪問。


今まで、結構な回数を訪れて来たが先客がいた事は無い。

いつも、草臥れた居酒屋の草臥れた暖簾をくぐると、草臥れた店員がこの席まで案内してくれる。

店内は酔客でいつもいっぱいだけれど、お子様の前の席に相席できなかった事は無かった。


・・・お子様の前の席以外を選べた事も無かったが・・・。


どうやら、居酒屋の入り口に新しく鎮座あそばされた熊のぬいぐるみ(私命名「リテイク熊マークツー」)を冷やかしている間に、先を越されたらしい。

来店目的を知っている草臥れた店員も、若干、戸惑っている感じがする。


しかし、流石はこの居酒屋の草臥れた店員のプロだ。


異常事態と言うには些細だが、無視できない事象を前に躊躇いがちにではあるが、いつものセリフを絞り出す。

「相席でいいすか?」と。


私に否やは無い。

「ええ、お願い。」

と、伝える。


すると、草臥れた店員は、いつもの様に、いつもの席へ案内し、顎をしゃくって座るように促す。


・・・・・・いやいやいやいや・・・確かに四人掛けを想定されたテーブルではあるが、昭和世代の規格なので若干小さい。

いつもは、お子様と私とセコの三人(セコだけは、テーブルから半分と少しはみ出す)で、ギリ着席しているが、今日はもう一人先客がいる。

ココにさらに二人追加は、ちょっと難しく思える。


・・・ただでさえ、お子様が広げて見せるお皿の数々でテーブルはいっぱいなのだ。


ハッキリ言って狭い。


隣でセコが

「なんか、立て込んでるみたいだし、出直す?」

とか言っているが、その気遣いがお子様に正しく伝わる保証はない。


逃亡と見なされて、処罰対象になる可能性はゼロでは無いのだ。


セコが再び口を開く。

「狭そうだし・・・俺、帰ろうか?」

と。


私はコンマゼロ秒でセコに振り向き、睨みつける。

眼光に攻撃力が有ったら、今頃セコはぼろ雑巾だったハズだ・・・私に目から怪光線を出す能力が欠けていた事は僥倖だった。


運が良かったな。


「何言ってくれちゃってんの?

報告書も、説明の段取りも、お前のカバンと頭の中にしかないだろう?

それなしで、私がココに放り出されて、何とか出来ると思ってんの?

その、節穴から上の赤い部分は飾りなの?」

・・・私は一気にまくしたてる。


セコはゴニョゴニョと言い訳みたいな事を口の中で囁いていたが、私は愚にも付かない釈明を全く無視して言葉を重ねる。


「・・・それとも、・・・アンタが、お子様を侮って逐電したとか説明しちゃった方が良い感じ?」

吐き捨てる様に言い立てる。


すると、セコの顔色がみるみるうちに剝げ落ちていき、絞首台のハンギングロープに首をかけた死刑囚よりも死人に近い顔つきになる。

恐怖のあまり、言い訳しようとする意志に反して、意味ある言葉はその口から紡がれることはなかった。


「いいから、ココに居ろ。」

私が告げると、赤に二本の銀メッシュの似合わない髪色の頭を、ヘビメタバンドのボーカルよりも早く上下に振って見せる。


そんな事をしつつ、先客を観察するが、なかなか奇妙な格好をしている。


元は何色だったかも不明瞭な色あせた黄土色の上下は、少々厚手の生地で装飾は少ない。

土方の衣装にも見えなくもない。


被りっぱなしの帽子も、同様に厚手の布製。

コチラも、黄土色に退色している。特徴的な額の一の星が、このオッサンのこだわりポイントなんだろうか?


髭は、伸ばしているというよりも伸びちゃったって感じ。

無人島に流れ着いて生活している、遭難者とか、こんな感じになるんだろうか?

もちろん、髪もボサボサ。

無理やり帽子で押さえこんでいる感じだ。


全体に身に着けたものはヨレヨレのボロボロ。

小汚い感でいっぱいだ。

しかし、不思議と匂いはしないので、不潔な感じは受けない。

ただただ、だらしない服装って感じ。


一方、姿勢は良い。

髭で年齢はよくわからんけど、30~40代くらいかな?

背筋が伸びていて、細いながらも筋肉質の二の腕は、何かのスポーツ選手みたいにも見える。

・・・まあ、こんな髭もじゃが出場しているスポーツには覚えが無いが・・・。



このオッサン・・・髭さんは、お子様から押し付けられたタッチパネルを前に固まっている。

何度か操作を試みていたようだが、結果は芳しく無かったのだろう。

万策尽きて、降伏したいが、司令部から徹底抗戦を指示されたどこぞの守備兵みたいに、絶望的な表情でお子様を見つめている。


お子様はお子様で、ココまで役立たずとは想定外だったのだろう。

空のジョッキを両手で抱えつつ、ひもじそうな顔つきで、額に皺を寄せつつそんな髭さんを眺めている。


表情が語っている

「コイツは、いったいどの様な悪魔的間違えでこの身の前に現れたんですの?」

と。


私の面白い事態に反応する嗅覚は、確実に反応していた。

危機感知能力の方も反応していたが、私の場合、危機感知より嗅覚の方が優先度が上なのだ。

・・・だから、犬娘とか言われちゃうんかな?


膠着した状況を打開すべく、周辺監視を始めたお子様と、私の視線があう。

途端に、パアッと表情を明るくするお子様。

自分の対面の席(つまり、髭さんのとなり)を視線で指定しながら、ボーイソプラノで指示を飛ばしてくる。

「ちょうどいいんですの。これと同じものと、栃尾揚げのプレーンとネギみそ、ポテトサラダですの。」

と、髭さんからタッチパネルを取り上げると、私に押し付けて来る。


私は「お邪魔します。」と口にしつつ、髭さんの隣に腰を下ろす。

同時にタッチパネルの操作を開始した。


・・・その横で、セコがワタワタしている。


「俺は、どうすれば?」


私は視線でお子様の隣の席を指し示し、草臥れた店員直伝のあごしゃくりで、そこに座ることを指示する。

小柄なお子様の隣だ・・・いつもよりも余裕をもって座れるだろう・・・良かったな?

私の慈愛に満ちた顎しゃくりを見て、セコから表情が抜け落ちる。


泣きそうな顔で、実際に泣きながら、

「無理っす。絶対無理っす。」

と、私に縋りついてくる。


首がすごい勢いで左右に振られている。

上下左右によく動く首だ・・・。

私は感心する・・・が、その振動は縋った腕を伝わって私をも揺さぶる。


グラグラ揺らされて、タッチパネルの操作がままならない。

お子様は、その様子を見て取ると

「今日は、報告は良いですの。貴方は、ただ邪魔ですの。」

と口にする。


セコは一瞬喜色を浮かべて

「じゃあ、俺はココでおいとま・・・」

・・・セコの気配が消える。掴まれていた私の服に、皺だけ残して・・・。

コロコロ・・・テーブルの箸立ての陰から、赤に二本の銀メッシュの玉が転がり出る。


・・・バカな奴・・・。



疾風怒濤の勢いで退場しちゃったセコさん。

せっかく人間に戻れたのに、速攻で玉へと逆戻りです。

まあ、再生怪人って脆いもんですしね。


それにしても扱い酷いなあ・・・。

絶体絶命のセコさんの運命や如何に・・・明日は、どっちだ?

取り敢えず、ビールで水分補給しつつ、来週にご期待です。

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