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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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19/30

居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」4/5

お子様の保護者らしき人物の登場に、ちょっと微妙な雰囲気に・・・。

家出し楽しんでる酒の席を身内に邪魔されて、不貞腐れてるお子様。


すんなりと連れ帰れそうにはありませんね・・・。

まあ、一杯飲んで落ち着きましょうか・・・さあ、乾杯。

居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」4/5


・・・一旦は祟りまで起こして対立した相手が、なんで協力してくれるってんだ?

俺は、陰気な若旦那に話してみた。

「俺の知っている限りじゃ、座敷童であれ行き会い神であれ、一度立ち去ったモノを呼び戻すのに成功した事例は無いぞ?

諦めて、自分たちで頑張るしか無いんじゃないか?」

と。


これに、陰気な若旦那は目を剥いて怒り出し、ついにはガバッと立ち上がりお子様に向かって口角泡を飛ばす勢いで説得を始めた。

「今代の無礼は必ず詫びを入れさせる。

要求があれば、可能な限り何でも応じる。

だから、ご帰参いただけないか?

長きに渡って守護してきたシンドウが傾いているんだ、協力を拒むなどあり得ないでしょう?」

と。


それに対するお子様の反応は予想外に静かな問いだった。

「・・・意味が分かりませんの。

あなたの家の神様と、この身が同じものだと、何を根拠に主張されてますの?」

と。


陰気な若旦那は、人(神)間違いの可能性に初めて思い至ったらしく、激しく狼狽し始めた。

「しかし、杜氏や蔵番が、この居酒屋で新しく神社を始めてるって・・・。

それに、何かの雑誌にそれらしい記事があったっていっていた・・・。」



・・・そうそう、それだよ。



全部が出所不明の伝聞情報であり、単なる噂を根拠にしてんだよ。

・・・雑誌・・・は、俺の責任も有るのか?

・・・だがな、あの手のオカルト雑誌ってのは「現実っぽい話を創作している」つまり「虚構」である事を理解して、現実と区別できる大人の嗜みなんだよ。

口裂け女でも人面剣でも同じことだ「実在はしない」事を前提に「実在しているっぽい雰囲気」を楽しむもんだ。

大人になってそんなもん信じてるなんて、サンタクロースを待ってる小学生並みのメンタルかよ。


・・・ああ、分かってる。

この呑みの席に座ってるコイツは、実在してるだろって言いたいんだろ?

常識にとらわれずに事実を見ろってな・・・。


ただな、常識ってのは人間が生存する為に世界を認識する際に前もって起動するルーティンみたいなもんだ。


これを共有する事で「現実」を共有し、同じ世界で生きていける。

ただ、偶にこの常識でカバーできない隙間が垣間見える時がある・・・。

この、お子様の様に・・・現実や物理なんてものは、人間が世界を理解しやすくするために「簡略化」して見せる仕組みに過ぎない事を思い出させる存在だ。

・・・だから、この手の存在は目に触れないし、見えても見えない振りをすべきなんだ。

うっかり触れば、障りが出る。

本格的に関わると、人間用の世界が共有できなくなる・・・。

安易に頼っていい相手じゃないんだよ。



でも、陰気な若旦那は、諦めない。

「しかし、雑誌に出ていたアンタの来歴は、シンドウ家ともリンクする。」

と喚く。


お子様はため息交じりに退屈気な声で答える。

「ディテールだけなら、共通項を示す事象は少なくありませんの。

特に、戦争とか疫病とかの大きな事象の周辺では、類似の現象が多く発生するものですの。

同じような環境の場所に、共通のインパクトを加える事で発生した現象が似て見えるのは、ある意味、当たり前の話なんですの。

人間は、自分の願望をそれらの事象に投影する事で、同じものと認識しがちですの。

でも、相関関係があるからと言って、それがそのまま因果関係を保証するわけでは無いんですの。」

と。

川エビが一匹、お子様の口の中へと消えていく・・・。


・・・いつの間にか、テーブルの上には、様々な色で彩色された「玉」が転がっている。

お子様は、退屈そうにそれらをつついている。

玉はてんでバラバラに転がっていき・・・テーブルの端まで行くと慌てた様に中心へ戻って来る。


お子様は続ける。

「だいたい、傾いた家運に干渉できるほどの存在が『ある』と仮定して、それは、貴方とは隔絶した存在値であるはずですの。

仮にそんな存在と相まみえたとして、その絶対的なレベル差はコミュニケーションに深刻な影響をあたえるはずですの。

隔絶した思考世界の差は、相互理解を遮断し、お互いが何を望んでいるのかすら理解できないんじゃないですの?」

と。

二匹目の川エビが、お子様の胃の腑に収まる・・・。


玉は増え続ける。

今、10個くらいか?

各々が、お子様から逃げようとでもするように、皿やジョッキの陰に移動しようとするが、お子様はそれを揶揄うように指でつついたり、手で遮ったりしている。


陰気な若旦那は、反論する。

「上位のレベルのモノが、思考レベルを下のものに合わせれば、会話は可能だろう?少なくとも、何を望まれているのかは推測できるんじゃないか?」

と。


お子様は応える。

「上位存在にとって何のメリットもありませんの。」

と。


更に言葉を継ぐ。

「だいたい、貴方はこの川エビのから揚げよりも程度が高い存在のはずですの。

なら、この川エビのから揚げの望みを察せられますの?」

と。

パクリともう一匹・・・。


陰気な若旦那は、叫ぶ。

「それは、すでに死んでいるじゃないか!」

と。


お子様は笑う。

「その、生き死にの差すら誤差の範囲内で無視できる相手の話をしているんですの。

貴方の交渉相手は、貴方とエビよりも隔絶した存在のはずですの。

・・・貴方、そんなもの認識できると思っているんですの?

たった二つしかない目で・・・ですの。」

追加で、もう一匹・・・嚙んでる感じがしない・・・ほとんど飲み込んでるみたいだ・・・。


・・・この玉は何なんだ。

まるで意思を持つかのように動いている。

・・・そして、恐怖するように震えているようにも見える。

・・・ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい・・・何かわからんが、とてつもなく厄介でつまらないことが進行している気がする。


お子様は嗤う。

「その、脆弱な視認能力は、視界も狭いし解像度も低いですの。

そもそも、光学現象しか認知できていませんの。

・・・貴方、自分の後ろに、今も、さっき見た光景があり続けてると、のんきに考えてますの?

どうして、大人しく世界が貴方の思った通りに居続けてくれると無邪気に信じてますの?

・・・貴方には全く見えない視界の外の後ろの世界なのに・・・。

貴方の認識領域外から、ひょいと貴方を摘まみ上げる様な存在が居ないと、なぜそんなに幼稚な思考能力でいられますの?

・・・隔絶した存在にとって、貴方なんて・・・。」

川エビのから揚げが更にもう一匹、お子様の口に消える。


・・・向けられているのは、・・・悪意?・・・害意?・・・分からない。

とにかく、厄介な事だけは確実だ。

直接向けられていない俺ですら、立つも座るも出来ない。

何故かこれだけは動く右手を使って、ビールのジョッキがを傾ける以外、何もできない。

ビールを飲みながら喉が渇くという怪現象を体験しながら、思考だけはグルグルと空転し続ける。

何か・・・何かしなくては・・・打開策のヒントは無いか・・・。


・・・何かの視線を感じて、俺の視線をテーブルに落す。

・・・茶色に2本の銀メッシュと大き目の赤眼鏡のイラストの玉が二つ、俺を見上げる様に止まっている。


・・・なんの表情もない玉(そりゃそうだ。玉なんだから)なのに、感情を感じる。


編集部で良く聞く声で脳裏で再生される。


メガネの玉が、せせら笑う。

「あーあ、引き際を誤っちゃったね」


赤銀メッシュ玉が、怯えた声で囁く。

「逃げ場、無いです」と。


畜生、分かってんなら警告位入れときやがれ。

どうやら、いつの間にか、事態は手遅れの用だ。




視界の先で、お子様がブツクサ言っている。

「そもそも、守護神として封じられるという事は、同時に、その場に封じ込められるという意味でもありますの。

その範囲の支配権を領有する代わりに、管理責任が生じてしまうってわけですの。

まあ、我儘を通す決裁権と引き換えに、自由に移動する行動権を失う感じですの。」


お子様はの講義は続く。

「封じられたモノは、その契約に応じて、一定の権能を発揮してみせる代わりに、信仰を得るものですの。

信仰は、そのものには何のエネルギーもありませんの。

ただ、高次存在に対して『自分が管理すべき対象が存在している』意識を喚起する事が出来ますの。

これにより、高次存在は、信仰する者どもを、守護対象として認識しますの。」


陰気な若旦那がボソボソと反論している。

「なら、今からでも、信仰する。そうすれば良いんでしょう?」


お子様の嗤いが濃くなりる。

ニヤリと、例の映画の猫の様な嗤いだ。

「わかって居ませんのね?

封じるとは、封じる側と封じられる側の相互契約ですの。

ただし、力量差は圧倒的に封じられる側が上ですの。

巨大な爆撃機をタコ糸で繋ぎ止めてる様なもんですの。

それでも、封じられる側がそれを許すから、封じ込める事が出来るんですの。」


お子様の声のトーンが落ちる・・・。

顔は笑ったままなのに・・・。

「貴方の一族は、その肝心なタコ糸を切ってしまったんですの。唯一、制御の意思を伝えるデバイスだったタコ糸を・・・。お釈迦様が垂らしたのは蜘蛛の糸でしたっけ?・・・ですの。」


結論が提示される。

「糸が切れた凧ですの。そりゃ、どこかへ飛んで行ってしまうんですの。」

Q.E.D.って訳だ・・・。

判決は「覆水盆に返らず」



だが、陰気な若旦那は食い下がる。

確かに、判決に不服があれば上告するもんだが・・・お前、現状が分かってんのか?

原告と裁判長が同一人物の法廷で、判定をひっくり返せると考えてしまうほど切羽詰まってんのか?


俺の内心の制止の声は、当然、陰気な若旦那には届かない。

まあ、届いたところで、方針転換可能なラインはとうに踏み越えちまってんだろうな・・・。


「だから、そのタコの糸でもクモの糸でも、再び結んで差し上げると、言っています。

信仰は必要なはずだ。

だから、新たに神社を作っているんでしょう?

そんな手間を省いて、信仰して差し上げます。」


お子様は、コテリと首をかしげます。

「信仰が必要だなんて、この身は口にしたことはありませんの。

こう言ったハズですの。


『信仰は、そのものには何のエネルギーもありませんの』と。


まして、この身にとって、信仰の有無は、必要絶対条件と言う訳ではありませんの。

有れば嬉しいけれど、無くても存在維持には差ほど支障はありませんの。

たぶん、自己認識が甘くなるくらいで、それだって別に消えて無くなる訳でもありませんの。」


・・・周囲から、酔客の喧騒が消える。

・・・驚くほどの静寂の中、再審の判決が下る・・・。


何やら、凄く賢げに話すお子様でしたね。

神様による神様談義・・・でも、何だか、話し方からすると神様本人(?)による暴露話ってよりも、仕組みを知ってるから教えてやってるって風にも聞こえる感じです。

まあ、饒舌な割には肝心な所がフンワリしているのも、ご愛敬でしょう。


川エビ・・・美味しいよね。

チマチマと一匹ずつ食べながら、呑み進める・・・。

揚げてあるジャンクな雰囲気でビールも行ける。

塩味に隠れたエビの風味は日本酒もぴったり。

もちろん、レモンサワーとかもOK。

・・・・・・無敵かよ?


味変でカレー粉とかも行けちゃいますよ。

同じお皿で心機一転、さあもう一杯。

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