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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」2/5

会話が可能な怪異とバッタリ同席して、ちょっとウキウキな編集長さん。

この際、色々と聞き出したいことがいっぱいです。


将棋の件で明らかなように、記憶力にはちょっと課題の多いお子様ですが、お役に立つと良いですね・・・。

まあ、とりあえず、お互いの口の滑りをよくする潤滑油・・・お酒で勢いをつけてみますか。

じゃあ、乾杯。

居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」2/5


彼(彼女?)は、自分の目線の少し上くらいの高さのジョッキを器用に傾けてビールをクピクピ呑みながら、目の前の皿(恐らくは、ネギまみれチャーシューと言うヤツだろう・・・)から、ネギを取り除く作業に没頭している。

チャーシューの調味液に浸されて、しっかり張り付いている白髪ねぎを、小さな手で握った割りばしで器用に剝がしている姿は、手術中の外科医を彷彿とさせた。


「・・・ウナギ・・・ですの・・・。」

突然、お子様が口にする。


・・・ネギがウナギと言う事なのか?

脈絡ない発言に戸惑う俺にチラリと視線を投げると、白髪ねぎでいっぱいになった小皿をコチラに押し付けながら、タッチパネルを箸で指し示す。


「かば焼き皿を一つ・・・あと、熱燗の二合徳利ですの。」

と、小さな子供に、こたつの上のミカンを数えて見せる様な、噛んで含める様な調子で話してくるお子様・・・。

チャーシューからの白髪ねぎ分離手術と言う人仕事を終えた、疲労と少しの満足感が綯い交ぜになった表情をコチラに向ける。



・・・・・・おお、俺に注文を入力しろと言っているのか・・・。


俺は、素直に注文を入力する・・・が、注文送信後、直ぐに例の草臥れた店員が慌ててやってきた。


「申し訳ありません。蒲焼は、終わっちゃってて・・・。」

顔面蒼白な彼は、しどろもどろになりつつ注文が通らない事を告げる。

俺は、注文を代行しただけの部外者なので、そっと様子を窺いつつ、配膳されたビールを啜る。

酔っぱらう訳には行かないので、舐めるように飲んだビールは、ただ苦いだけだった・・・。


お子様は、チャーシューを齧りながら、草臥れた店員の言葉を聞いていた。

そして、くるりと首を巡らすと草臥れた店員を確りと視線に捉える。


「・・・つまり、この身の注文が聞けない・・・と?・・・いう事・・・ですの?」

じっと見つめながら、声のトーンを落として口にする。


質問しているのではなく、状況を確認している様な・・・いや、確認しているのは、自分の指示を拒否する相手に、本当にその答えで良いのだなと、最後通告をしている様な感じだ・・・。


見つめているお子様の目は、まるでガラス玉の様に見えた。

幼げな顔の真ん中にポッカリ空いた・・・穴・・・。

その目のまま、器用にビールを飲み干す。

草臥れた店員は、土気色の顔で言い訳すべく口をパクパクしているが、意味ある言葉を紡ぐには至らない・・・。


彩色前の蝋人形のように顔色を失った草臥れた店員は、絞首台の前で死刑宣告を受けた被告人よりも死人に近く見えた・・・。

逃れられない絶対的で、猶予の無い破滅を理解した人間の姿だ・・・。


犬娘の物語の中だったら、ココで生ビールのジョッキが登場するのだろうが、当の提供主である草臥れた店員は、今まさに断頭台に架けられんとしている・・・。


・・・やれやれ、初対面とは言え、見捨てるのは忍びない。

何よりも、折角呑むのなら気分良くなければいけない。

と、言う俺の家の家訓に従い、何とか救出を試みる。


俺は、タッチパネルを操作し、草臥れた店員に問う。

「よう、蒲焼のストックは無いとして、蒲焼のタレはあるのかい?」と。


草臥れた店員は、横合いからの突然の質問に戸惑いながらも

「タレなら、提供前に最後に塗る用のが残ってる。」

と、答えた。


俺は続ける。

「なら、このウナギの白焼きってのに、そのタレを塗って、焼き鳥の焼き台で焼いてやれば、蒲焼になるんじゃないのか?」と。


草臥れた店員は、答える

「ちょっと焼き台が小さいので、時間はかかるが、ほぼ同じものが出来る・・・と、おもう」・・・「と、おもう」の部分にかぶせ気味に俺は言葉を継ぐ「だいたい同じなら良いんじゃないか?どうせ専門店でもないのだし、本物も代用もおおよそ同じようなモノだろう?」と、お子様に提案してみる。


横で、草臥れた店員は「コイツ正気か?」って顔をしているが、これが弁護人からの最終弁論である事は理解しているのだろう。

俺の言葉を遮る事は無かった。


さて、裁判官であるお子様の裁定は・・・?と、お子様の方を見ると、目を真ん丸にして俺を見ている。

自分の発言中に割り込まれたことに、驚いてる感じだった。


そして、徐に頷くと

「それで良いですの。・・・どうせ時間は余るほどありますの。せいぜい美味しく焼いてくると良いですの」

と、満足げに笑った。


いっそあどけないとすら言えるその笑顔は、しかし、自分の顎を見事に避け切った野ネズミを眺める肉食獣の嗤いにも感じられた。

いつでも、どうとでも出来るので、今回は見逃してやろうか・・・という感じだろうか?



草臥れた店員は、俺への例もそこそこに、バタバタと厨房へと走っていく。

まさに、脱兎のごとくだ。

うん、提供に不手際があったんだ、調理時間で不興を買いたくはないよな。

まあ、時間は貰ったんだ。

焦がして台無しになんて、してくれるなよ・・・。




蒸すという工程が無い分、ウナギの身は固く所謂蒲焼とは違う触感にはなっていた。

ただ、俺は食ったことが無いが、西日本では蒸さずに焼く蒲焼も有るらしいし、これは、こういうモノと思って食べれば意外と歯ごたえが面白くておいしいと感じた。

付けこまれることで中まで浸透したタレの甘味はないものの、代わりに白焼き独特の焼き魚感によるウナギ本来の味わいが・・・・・・とか、何となく分かったような単語を並べてみる。


何故、俺がウナギの白蒲焼の食レポをしているのかと言うと、お子様からご相伴に預かったからだ。

「・・・西の蒲焼って、蒸さないんですの?

コレ、それに似てますの?

味もちょっとアレですけど、歯ごたえあって美味しいんですの。」

お子様はご満悦だ。


2本目の二合徳利も、既に残り少ない感じで、既に3本目の手配も済んで、2本目の隣にスタンバっている。


これでやっと、落ち着いて話しが出来る。

なに、小手先の誤魔化しと、なあなあの調整は、俺の得意分野だ・・・得手としたかった訳じゃないが・・・。




お子様は、例によって取り留めのない話をしてくれている。

が、断片的過ぎるのと、話の構成が無茶苦茶なので、ほとんど理解できない。


どうも、土地神と屋敷神を兼任した様な存在だったらしい事は伝わって来たが、肝心の「どこで」「いつ頃」辺りは不明瞭だ。


能力についても


「大体何でもできますの」


と言う自己申告はあるが、俺の皿からサバのから揚げをくすねる様子からは、今一つ信用が出来ない。



歴史的な部分も、感知範囲がお子様の身の回り限定と言う事も有り、詳細が分からない。


そりゃそうか・・・(お子様の言が正しいと仮定してだが)時代の当事者なのだから、逆にマクロ視点は欠落しているのだ。

特に、体制に組み込まれた存在でもないので、時々の支配者が天皇だろうが将軍だろうが公方だろうが総理大臣だろうが、まるで頓着していない。


頓着していないから、割と混同も多く、支配者の呼称から時代を推測するのも難しい。


それらしい名称も、面と向かって教えられた訳でもない様だ。

お陰で、聞き覚えに基づいた発音なので、漢字変換できずに、何のことなのか分からない単語も散見される。

お子様に問いただそうにも、本人も理解した上で記憶している訳じゃないから、突っ込まれても皆目分からない。

俺が問うから、覚えている言葉を並べて見せているだけって感じだ。


意外とサービス精神に溢れているが、サービスレベルには課題が残る。



全体的には、人の浮世のよしなしを、傍の草むらから眺めていた様な感じだろうか。

自分の仕事の合間にみた、摺りガラスの向こうの景色・・・そんな印象だ。


時代に立ち会っていたが、事件の登場人物ではない、ただの傍観者なのだ。


大軍が里の道を行軍していたのは覚えているが、誰が、何の件で率いていたのかは知らない。

Aの事象が、Bの事象の前だったか後だったもうろ覚え。

基本的に、世の流れには無関心なのだ。

そんな中で、気にかけているのは、自分の本貫地と氏子の事だけ。



土地と血、それ以外は「外」の事。



それだけに、土地と血に関しては執着を見せる時があった。


正月の祝い膳の内容とか、田植えの前の振る舞いの準備とかは、非常に詳細だ。

当時の末っ子が、初めて釣ったコイを煮物にしてふるまった・・・とか、個人が登場することもある。

・・・詳細だが、内容がローカル過ぎて、事の真偽すら良く分からない。

まあ、類似の風習を耳にしたことは有るので、大体あってんだろう。

確認しようも無いが・・・。


お子様用の4本目の二合徳利を注文したころ、俺の取材も暗礁に乗り上げていた。


いろいろとアプローチを変えて質問もしてみたが、答えはフンワリとしていて、具体性には欠ける。

守護していた家が、ある殿様に仕えていた時期がある・・・と言う情報を貰って、殿様の名前を聞くと・・・「オヤカタサマ」・・・それ、名前じゃないよね?


結局、犬娘発セコ解読の記事の内容と大差無い情報しか聞き出せなかった。

歴史部分に関しては、2~3特定できそうな事象は有るものの、物証は勿論、確信できる固有名詞は皆無なので、どうしても推測の域を出ない。

こりゃあ、ココまでかなあ・・・。

と、思案していると、草臥れた店員が困惑顔で聞いてきた。



「相席、いいすか?」と。


やっぱり、当てにならない感じのお子様証言です。

ある程度の文章を構成できる情報を引き出せるのは、巫女特有の能力なんですかね?

こんな濃度のネタ元なのに、出来上がった記事は結構魅力的みたいです。


まあ、正体不明の怪現象と呑める機会は早々ありません。

貴重な体験と、まあまあ楽しんだみたいですね。


これ以上は不毛な感じだし、そろそろ切り上げ時かなあってタイミング・・・あれ?誰か来たみたいですね?

新しいお客を乾杯で迎えるために、今のこの一杯をさっさと空けちゃいましょう。

・・・うまい!もう一杯!

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