表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
PR
16/18

居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」1/5

お待たせしました。

新章スタートです。


上司の抜き打ち監査・・・では無いけれど、犬娘さんの上長がご出勤です。

犬娘さんの飼い主っぽいのと邂逅を果たし、今後の展開や如何に!

さあ、取り敢えずビールで乾杯です。

居酒屋奇譚⑦「お子様の復職依頼」1/5


陰気な風貌のくせに話し出すと調子に乗るタイプなのか、先ほどから全く止まらずに俺の隣でしゃべり続けてやがる。

口調は丁寧ではあるが、何処か人を小ばかにした雰囲気があり、いけ好かない。

だから、俺に対して、交渉の優先権を要求されても譲る気になんてなりゃしない。

頻りに「家の事情」を訴える陰気な若旦那に対応するのに忙しくなっている俺。

この二人の攻防をテレビで正月のかくし芸大会を眺めるような眼で見つめながら、俺の皿から4本目の串モノを失敬しているのは、対面に座った本来の主賓。

小柄な体で器用に生ビールのジョッキを傾ける姿は、大衆酒場という舞台に馴染んでしまっているが、見てくれは作務衣を着た中学生であり、違和感がすごい。

なぜ、これで、酒場が似合うのか・・・。

年齢不詳・・・性別も良く分からない。

ビールが配膳されるのだから成人なんだろう。

見ている前で、今度は隣の陰気な若旦那の皿から最後の肉詰めピーマンを拝借し、大柄な俺から見ても若干大きめのそれを、二口で胃の腑に収めて見せる。

ジョッキは既に空で、草臥れた店員が慌てた様に次のジョッキをテーブルに置いていく。

お子様は、さも当然とばかりに、新しい杯に口を付けつつ俺に問う。

「・・・どうしますの?」

・・・俺が聞きたい・・・。



俺は、ある3流オカルト雑誌の編集長をしている。

この手の雑誌にはありがちな、与太話の類ならいくらでも入手できるし、何ならでっちあげる事も容易だ・・・だが、それでは、この業界では朽ちていくしかない。

同業は次々に出て来るし、最近はインターネット怪談とか、人の口を経由しないネタまである。


こんなご時世で、曖昧模糊とした与太話や嘘偽りで雑誌を作っても、直ぐにネタが尽きて飽きられる。


それを避けるための手段は二つ。


一つは、なるべく実物に(あるとすれば・・・だが・・・)近くまで実際に赴く事。


もう一つは、迫真の文章で情報を提供する事だ。


そういう意味では、俺の編集部はある意味、精鋭ぞろいだ。

・・・まあ、各個人は、ボンクラばかりで、チームで運用しないとどうしようもないのだが・・・。


一人は、ネタ探しに関してはピカ一の女編集。

業界人を気取って購入したらしい、赤いメガネの女だが、どうしたものか、良いネタを嗅ぎつける勘が鋭い。

100の中から、真実らしきものに到達できる1を嗅ぎ分け、それを追及する能力が高いのだ。

俺から見ても、ある意味で天才だ・・・が、・・・それを文章にする能力が壊滅的に欠けている。

語彙力も低く、提出してくる記事原稿は、小学生の読書感想文よりも漢字が少ないだろう。

悪い奴じゃないんだが、コミュニケーションに関しても課題が・・・取材対象と喧嘩になる事も多い。

行動力が無駄に高い分、不注意にトラブルに踏み込む事も少なくない。

・・・なんなら、本人がトラブルの発生源になる。

そして、情報管理が苦手だ。

この、鼻の利く女編集・・・犬娘は、とにかく何でも机に出しっぱなしだ。

だから、ヤツの絶望的なメモを解読できれば、何をしているのか、何をしたいのか、一目瞭然だ。

まあ、常人にはメモを読むどころか、文字であることを認識するのも困難な代物なんだが・・・。


もう一人は、赤毛に2本の銀メッシュという似合わない髪形を己のトレードマークとする男。

セコだ。

こいつはお世辞抜きで、優れた文筆家だ。

UFOだの八尺様だの、使い古されたネタでも、まるで新事実が発見されたかのような迫真の文章で表現してくれる。

お陰で、ネタ不足の時にはバックナンバーの記事をリメイクしてページを埋めるという事が可能だ。

言わば、こいつも天才と言っていいだろう・・・だが、コイツにはネタを見分ける能力が全くない。

下手をするとビー玉とダイヤモンドの見分けがつくかも怪しい。

自分で持ってくるネタは、その圧倒的な文章をもってしても駄作でしかない。

時々、目を見張るものを仕上げて来るが、大概ネタ元は犬娘のメモだ。

其のまま通しても、後で絶対に揉める。

なにせ、追加取材の取材先を自分で探せないのだから・・・。



この二人が交互に、判読不能な記事と読むに堪えない記事を提出してくる。

これに、リテイクを出すのが俺の主な仕事だ。

安い給料に見合った、素晴らしい仕事と言えるかも知れない。


俺が大柄な事も有り、アイツらはリテイク熊とか呼んでいるらしい。


さて、この二人だが、この頃、やっと役割分担というものを覚えたらしい。

犬娘がせっせと集めて来るネタ(この時点では、ほとんど暗号文に近いメモの束)を、セコが机に齧りついて翻訳し編集して記事に仕上げている。

これが、頗る上等な記事になっているのだ。

犬娘がセコから記事を隠すリソースと、セコが犬娘の記事をかすめるリソースが、一緒に仕事をすることで別方面に投入できるようになっているのだ。


お互いがお互いにリスペクトを持てるほど成長した・・・訳じゃ無さげだ。

どの様に折り合いをつけたのかは分からんが、犬娘が上でセコが下と序列が決まったらしい。

夕日の見える河川敷で殴り合いでもしたのだろうか・・・。


・・・まあ、過程はどうでもいい。

お陰で、ここんところの雑誌の内容は、実に充実している。



俺も、リテイク以外の仕事に目が行く程度には、余裕が出てきている。

その余裕を使って、雑誌の内容の更なるブラッシュアップを目指して原稿チェックをしていた。




さて、余裕がない時は、ただ既定の紙面を埋めるのを至上命題としていたので気が付かなかった事が、見えて来たのは良い事なのか悪い事なのか・・・。


その気づきの一つが、犬娘の提出してくるネタの傾向だ。

最近、妙にリアリティが上がってきて、非常に興味深いモノが散見される。

また、着眼点が洗練・・・と言うよりも、違う視点が混在し始めて見える。

まるで、誰かアドバイザーが付いたみたいだ。


何にせよ、面白いネタ(まあ、三流雑誌に相応しい、小ネタではあるのだが)は、大歓迎だ。


さて、この犬娘のネタだが、大概は一発ネタなのだが、中に一つだけ連載めいたものが混じっている。

特集記事になると、編集部総出の作業になるのだが、他人がネタに嚙んで来るのを警戒しているのか、特集にならない程度に加減しながら・・・しかし、執拗に同じ系統のネタを繰り返している。

どれも悪くない記事なので、編集会議でも通してしまうが、此れだけ連続すると気にもなって来る。

店名はぼかしてあるが、これだけ連続すれば特定するのも雑作もない。



・・・俺も、一度、現場を確認してみるか・・・。



そう思い立ったのは、お昼を少し回った時分。

今から出れば、ランチタイムが終わった頃にはつくだろう。




駅前の繁華街で少し迷った。

お陰で、件の大衆酒場にたどり着いたのは、遅めのランチタイムと言うより、午後のおやつには少し早い程度の時間になってしまった。


暖簾をくぐって店内を見渡す。

カウンター席と、テーブル席。

間口から察するよりも奥行きがあり、意外と広い店内だった。

まあ、ほとんどの席は、既に出来上がった酔客で埋め尽くされているのだが・・・。


こりゃあ出直しかな。

と、内心で帰社を選択したタイミングで声がかかる。


「お店が混んじゃってるんで、相席でいいすか?」

草臥れたお店にぴったりの草臥れた店員が、草臥れた声で問いかける。


ああ、記事で見かけたくだりだな。

ここまで一緒だと、偶然とは言え面白くなってしまう。

退店の決定を棄却し、俺はもう少し踏み込む事にする。


「構わない」

そう答えると、草臥れた店員は何とも言えない目つきで俺を席へと誘導する。


・・・お客を値踏みする様な感じじゃなかった。

何か・・・そう、ちょっと憐れんだような・・・出荷される牛を眺める牧場の従業員の視線・・・みたいな感じだろうか・・・。



・・・案内された席の対面には、小柄な人物が座っていた。


俺は内心焦っていた。


まさか、記事にある対象に最初から接触できるとは・・・。

いや、疑っていたわけでは無かったが、よもや実在しているとは・・・。

年齢不詳、性別不明、座ってすら俺から見下ろされるほど小柄な体躯は、作務衣の様な服に包まれていた。

そいつは、案内されてきた俺を見てほくそ笑むように口にする。


「相席ですの?商売繁盛で良い事ですの」と。



ちょっと現場確認とばかり、物見遊山の心算での現場確認で、現物に対面するとは・・・。

俺も犬娘の事を笑えないな・・・。


好奇心猫を殺す。


とは言うが、かなり不用意に踏み込んだこの始末はどうなるモノやら・・・。



・・・まあいい・・・。

年功序列の椅子取りゲームで編集長の座にありつけたのは、三文文士の俺の人生としては僥倖と言えるかも知れない。

だが、一方で自分の尻で編集長席の椅子を磨き続けるのも理想の生き方とは言い難い。


髀肉之嘆では無いが、座り続ける人生を望んだわけでもない。

そういう意味では、これはチャンスなのではないか?


そもそも、取材対象が自ら目の前に来てくれたのだ。

部下のネタ元に便乗してしまったことへの罪悪感は無いでも無いが、俺の視点で新たに得られるものが有るのなら、それはそれで価値があるだろう。

そもそも、俺も物書きの端くれだ。

例え少々の厄介ごとが想定されたとしても・・・だ・・・そこに新ネタが期待できる。

これを忌避する理由は、少なくとも俺は持ち合わせていない。


もっとも、ちょっと覗くだけのつもりだったので、財布の中身の持ち合わせも心許ないのが泣き所だ。

話の通りの健啖家なのだとすると、少々ピンチな気もする。


・・・給料日前の犬娘が負担できたのだから、何とかなるか・・・。

そう言えばアイツ、かなりドスの利いた声で経理と遣り合っていたが、経費申請は通ったんかなあ・・・。


腹をくくった俺は、お子様を観察する事にした。


同席相手がある程度ヤバ気な雰囲気なのはわかっていても、記事になりそうとなれば引く道はあり得ない・・・。

物書きの悲しいサガですね。

とは言っても、こちらも現場でもまれた海千山千の編集者です。

それなりに互角にやりあえる・・・かも知れません。


まあ、イザとなったら居酒屋の定番「同僚の噂話」で、盛り上がれるかも?

どうせ真面目に聞いてもショウガナイ話だし、煎りギンナンの殻でも向きながら・・・。

皆さんは、他人の愚痴を聞き流すときに突く定番のアテってあります?


取り敢えず、何はともあれ、週末の呑みの肴になっていると、嬉しいです。

応援の意味も含めて、取り敢えず乾杯です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ