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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
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15/18

居酒屋奇譚⑥「お子様の採用活動」4/4

前回は、結構緊迫したシーンで、引きを演出しつつ終われました。

さあ、クライマックスを迎えつつの最終話です。


・・・居酒屋のテーブル上でのチマチマしたやり取りにも、決着の時です。

気合を入れて・・・まずは一杯。

居酒屋奇譚⑥「お子様の採用活動」4/4


目の前に生ビールのジョッキが勢いよく置かれた。

私はそれに飛びつくようにして口を付ける。


恥とか外聞とかは、背後に開いた墓穴にケリ入れて、ほぼ一息で飲み干してみせた。

上手い不味いも、絞首台のロープへ投げ上げて、とにかく冷たいアルコールを胃の腑へ流し込む。


冷えたビールが通過する喉の感覚が、脳を冷やし、冷静さが戻ってくる・・・。

冷えたビールで満たされる胃の感触で、腹が座って、落ち着いてくる・・・。



・・・私は・・・私だ・・・ココに居る・・・座ってる。



テーブルの縁は真っすぐに、丸椅子の座面は真ん丸に・・・並べてこの世は事も無し・・・か?


テーブルの上には、空のジョッキと、なかなか可愛いお皿に乗ったティラミス・・・そして、梅水晶。


お子様が、しょっぱいモノでも口にしたかのように、小さな鼻にしわを寄せながら、梅水晶を眺めている。


「それは、好きにすると良いですの。」


吐き捨てるように言うと、お子様は不機嫌そうに熱燗を徳利から直接煽って見せる。

かなり気分を害した感じが伝わってくる。


と、草臥れた店員が、慌てた様に、お子様の前にもティラミスを差し出した・・・三つも・・・。

お子様の鼻がヒクヒクして、視線がそちらにくぎ付けになった・・・。

更に、熱燗の二合徳利が脇に置かれると、あら不思議、お子様の機嫌は一気に改善した。

口角が上がり、フォークを手に取るのももどかし気に、せわしなく口を動かし始める。


「さて、なんのお話でしたか・・・ですの・・・。」

鼻歌交じりに、ティラミスをパクつきながらお子様が尋ねて来る。



・・・態度の急変を目の当たりにして・・・でも、私の思考は冷静だった。

先ほどの混乱は、ビールと一緒に居の腑に収め、心機一転、戦局挽回、注意一発、起死回生ってな感じだ。

ビール・・・スゲー。

きっと、私の守護天使はビールなんだろう。

ビール万歳だ。


それはともかく・・・。


気を取り直して、私もティラミスを齧りながら、再度、取材の趣旨を説明した。

合うのかどうかも気にせずに、ビールを追加しつつ・・・。


お子様の回答は「宇宙人に知り合いは居ない」だった。



その後も、色々と、今度は信じられないほどすんなりと、話が聞けた。


さっきの現象についても、遠回しに聞いてみると、意外にも回答が有った。

ただ、話の内容は胡乱なモノで、それを更に私の文章能力でメモを取ったのものだから、自分で読み返してみても意味が分からない代物となったが・・・。



取材が終わり、私がお礼を言いながら、この話(先ほどの体験を含む)を記事にして良いか尋ねたところ、お子様から質問があった。

「それは、つまり、方々へと情報を流布するという事ですの?」と。


それを聞いた草臥れた店員が、コイツ本気かって顔をして私を見てる。


しかし、私としても、良く分からないけど、危ない橋を渡って得た情報だ。

記事にしないでなど、居られる訳がないじゃないか。


しかも、私の嗅覚は、このお子様に対して最大の賛辞をもって評価している・・・つまり「絶対に面白い」と・・・。

このままバイバイは、余りにも勿体なさ過ぎる。

・・・もっとも、危機感知能力の方もレッドゾーンを振り切っては居るのだが・・・。


まあ、頭の中を駆け巡る警報も、慣れれば気にならなくなるもんだ。



とにかく、私は、断固として、お子様の事を記事にする。

そう決めた、今決めた、もう決めた。


「機嫌を損ねる前に取り下げろ」と、目で訴える(器用な事だ)草臥れた店員を無視して、私は応えた。

「ええ、我が雑誌の能力が及ぶ限り、津々浦々まで」と。


それを聞いたお子様は、一瞬目を丸くして「津々浦々・・・ですの・・・。」と、口にした後、満面の笑みで「許すのですの。ぜひ広めるのですの。」と、たいそう乗り気で騒ぎ出した。

「神社を構えて活動するなら、分かりやすい神楽が入用でしたの。」

うんうんと頷きながら弾む声でお子様が口にする。

「でも、文章でも広められれば同じことですの」


・・・そうかなあ・・・とは思ったけど、それは、言の葉に乗せない。

なら、本当に踊って見せろと、舞台に放り出されても困るから・・・。


お子様は、ご機嫌で続ける。

「絵巻にする手間も省けて、一石二鳥ですの」


どうだろう?

雑誌の記事の一つってだけだから、そこまで目立つとも思えないなあ・・・とも感じたけど、指摘はしない。

白紙の巻物が出てきても、私には何もできないから・・・。


相互の認識に、若干の違いを孕みつつ、取材の記事化は許可された。

その後は、いくつか確認事項を照合して、その日の飲み会は終わりの時を迎えた。


私は、連載の可能性を説明しつつ、会計を済ませて外に出た。



またあのおかしな空間に引き戻されませんように・・・私は守護天使である聖ビールに祈りつつ、暖簾を潜る。


右足が、草臥れた居酒屋の敷居をまたぐ。


続いて、左足が、半地下の階段を踏む。


・・・そのまま交互に足を動かして階段を上り・・・表通りのアスファルトに踏み出す。


・・・そう、外に出られた。




私は現実に帰還した。




ホッとするのもつかの間、明らかにお子様の分の会計も混在した支払いは、経費に回すことにしつつ、得た内容をまとめるという大仕事を思い出して、暗澹たる思いに浸っていると、背後から声がかかった。


振り返ると、例の草臥れた店員が立っていた。

方法は分からないけど、おそらく、私を助けてくれた相手に、礼をしつつ何の用か聞いてみる。


草臥れた店員は言ってよこす。

「単刀直入にいうぜ。あんた、アイツの巫女になったんだよ」


「・・・なに?巫女って、袴はいてお御籤売ってる人の事?」

私は、やっと回り始めた頭を何とか回転させて答えた。


「あんたの巫女観は、どうなってるんだ?

・・・ああ、まあいい・・・。

あんたは、アイツに取り込まれて、アイツの氏子を増やすための、巫女にされたのさ」

草臥れた店員の話は続いた。


・・・さっきまでの体験が無ければ、私が取材したくない手合い同様に聞き流して当然の内容の話を・・・。


つまり、私は、取材=託宣を得て、雑誌に掲載=神楽で神の遺業の広報を実施する係に任命されたのだそうだ。

・・・強制的に・・・。


「なんで!いつ!」

私はつい語気鋭く問いかける。

ちょっと詰問調になったのは、精神的余裕の無さの表れだったんだろう。

・・・そう、不可抗力だ。


草臥れた店員の回答は、なんともつかみどころの無い話だった。


私が何故選ばれたのかは分からない。

そう、草臥れた店員は、言葉をつづり始めた。


「そもそも、神様ってのは気まぐれなモノで、その思考は人間とは一線を画する。

ひょっとしたら意味なんて無いのかも知れないし、理解できないほどの深慮遠謀の結果なのかもしれない。

どちらにしろ、知れないのだから、分からない。」


・・・なるほど、「なんで」は、回答不能なんだね。


「いつに関しては、答えは簡単。ついさっきだ。」

草臥れた店員は、疲れた声で答えた。


「私が、ついさっき、巫女就任契約に同意の意を示したって、そう言ってんの?」

と言う私の確認にも、草臥れた店員は、首肯してよこす。


「被雇用者の承諾なくして、雇用契約は成立しないのでは?」

と、尚も問い詰めたが、草臥れた店員は悪びれる事も無く回答して見せた。


「あんたは、取材(託宣)を請うて、その答え(神託)を得たじゃないか。

実作業に従事しておきながら、雇用関係に疑義を唱えるのは難しいんじゃないかな。

まあ、もしなおも不服があるなら、申し立ててもいいんだろうが、申立先は裁判所じゃなくてアイツになるぞ。

勇をふるって挑むのは勝手だが、次は助けようがないからな」


なんじゃそりゃ?

じゃあ、連載話も有効って事?


私は慌てて訴えた。

「私、文章があれ何で、直ぐに連載とか難しいかもですけど・・・」


草臥れた店員は言います。

「その辺りの都合は、アイツにとっては関係が無い。

ただ、神の前で言ったことは実行した方が、面倒が無いのは確実だ。

俺が言えるのはそこまでだな・・・。」


私は途方にくれる。

守護天使たる聖ビールの加護も、発動する気配がない・・・。


何かとリテイクを連発する編集長の熊顔を思い浮かべながら、茫然としていると、あのボーイソプラノが聞こえてきた。


「ふむ、昔から神薙は、余人に伝わらぬ話を言の葉にのせるものですの。

正しく解釈する神官が必要とうわけですのね。

・・・じゃあ、コレはお返ししますの。有意義に使うといいですの。」と。


すると、草臥れた居酒屋の暖簾をくぐって、一人の男が退店してきたじゃないか・・・。


赤毛に銀のメッシュが二本。セコだ・・・。


セコは、胡乱気な目で周囲を見回すと、私に目を止める。


途端に慌てて言い訳を始める

「いや、アンタを出し抜くとかじゃなくて、この辺を歩ってたら良い感じの店を見つけて・・・そう、なんか悪だくみとかじゃないんだ」

とか喚くセコに、私は私のメモ帳を叩きつける。

「可及的速やかにこれを編集会議に乗せられるレベルまで文章化して。」

と命令する。


セコは、一瞬呆けた顔をしたが、「ナウ!」と私が怒鳴ると、手帳を抱えて走り去った。


おそらく帰社して解読作業に入るのだろう。


草臥れた店員が言う。

「アンタ、ひどい奴だな」


私は応える。

「だってあれ、私の下僕なんでしょ?」


草臥れた店員は呆れたように言った。

「アンタの神官観は、どうなってんだ?」


私は応える。

「だって、あれを連載して津々浦々まで知らしめなきゃなんないのよ。

どちらかと言うと、尻に火がついてんのは私の方なんだけど!」


草臥れた店員は、諦めた様に口にした。

「なるほど、アンタはアイツの巫女に向いている気がする。

きっと罠にかかったんじゃなくて、呼ばれた口なんだな・・・」と。


私は、反論する。

「この件は、私が探知して掴んだ話なの。

なんたって狩人なんだから」



草臥れた店員は、諦めた様に踵を返して店に戻っていった。

ただ、去り際にボソリ言った言葉を私は聞き逃さなかった。

あの野郎は言いやがった。

「疑似餌に見境なく喰らいついてんだから、猟犬の方だろ?

・・・挙句に吊り上げられたんだってんだから・・・駄犬じゃないか・・・」


私は、あと追って攻撃することはしなかった。

・・・別に、あの空間に引き戻されるのが怖かった訳じゃない・・・。

ただ、私には、ひたすら長いレシートを経費にねじ込む為の経理課との戦いと、今回の記事を雑誌に掲載する為のリテイク熊との戦いというイベントが控えている。


どうせ長い付き合いになるんだろう。今日のところは、見逃してやらあ。



終わり


ティラミス・・・美味しい

熱燗・・・美味しい


ティラミス + 熱燗・・・美味しい?


あまり賛成できない注文の仕方ですね。

でも、たまに呑みの席でも、串盛と一緒にデザートの注文をする人がいます。

好き好きですが、ちょっと胸焼けしちゃいます。


・・・まあ、吞んじゃえばつまみは何でも大丈夫になっちゃうもんですが・・・。

何はともあれ、守護天使たる聖ビールに乾杯です。

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