表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
PR
14/19

居酒屋奇譚⑥「お子様の採用活動」3/4

取材を兼ねて楽しい昼呑み。

盛り上がっていたはずが、ちょっと変な地雷を踏んじゃってみたいですね。


草臥れた店員さんも、その警告って役に立つんだか立たないんだか・・・。


上手く切り抜けるためにも、まずは一杯・・・

居酒屋奇譚⑥「お子様の採用活動」3/4


囁きを聞いて、それまで何となくの感覚だったものが、正真正銘の危機として認識された。


全身から汗が噴き出ます。


「どうしましたの?顔色がすぐれませんの。」

お子様が、私の顔を覗き込みます。


体調不良って訳じゃないけど、渡りに船だ。

決断は迅速に、特に撤退は速やかにってのがウチの家訓だ。

私はこれ幸いと飛びついた。

「ええ、ちょっと体調が良くないみたいです。

今日は、ここまでにしたいと思います・・・」


そう口にした言葉にかぶせる様にお子様は口にする。


「まだ、お礼が済んでいませんの。」と。


主賓の体調を無視してまで、提供されるお礼って、お礼なの?


私が、声にならない悲鳴を上げているのを、お子様はチェシャ猫の様なニヤニヤ嗤いで眺めている。

漂う雰囲気が急速に悪化していく。

機嫌を損ねた訳じゃない。

妙な感じに気に入られてしまった感じだ・・・。


今のやり取りで明確に中座を許さない空気になってしまっている。

切り出すタイミングが悪かっただろうか?


「狩人さんは、こう考えたことはありませんの?

自分が狙い定めた獲物は、自分が見つけたものであってるのか?逆に、獲物と見定めた相手が、狩人さんをエモノと見定めて、罠にはめているのでは・・・と。ですの」


・・・ですのは、付けないといけないんですの?

・・・いや、現実逃避で面白い思考に陥り始めている。

私は何を聞かれているんだ?


私は、ビールのジョッキを手に取る・・・空だ・・・。

習慣で、ついタッチパネルを操作してしまう。

・・・生ビールを追加・・・あとは・・・エシャロットと冷やしトマト・・・。

私こんなに健康志向だったっけ?

愚にも憑かない自問に反射的に答える指先・・・梅水晶を追加・・・。


・・・違う違う、何やっとんじゃ私は?

今何してた、今何すべき?

私の頭が、ガタピシ言いながらも再起動した。

お子様からの問いかけを、再度頭に浮かべて再検討する。


・・・あれ?なんかいきなり不穏なトーンが混じってないか?


私は本能的に察した。

沈黙はまずい。と。


慌てて空転した思考は、いつもなら考えもしない突飛なアイデアを口にさせた。

「ええと、つまり・・・私が取材すべき怪異を選んだのではなく、怪異の方が私を選び、ココへ導くべく情報を流布した・・・と、言っているのかな。」


無駄な虚勢を語尾に乗せたが、何の効果も示さなかったみたい。

手汗がすごい・・・手に汗握るって本当なんだ・・・。

違う、そんなことはどうでも良いんだ。

一人でジタバタしている私・・・挙動がおかしくなってきたのは自覚してる・・・。

そんな私を眺めながら、お子様はニヤニヤしてる。


ただ、私のブラフは通じなかったけど、解答はまあまあ合格点だったみたい。

お子様は、上機嫌に頷いている。

そして、いけ好かない学年主任の先生が、出来の悪い生徒の追試で見せるような態度・・・つまり、上から目線で語りだした。

ただし、見てくれは小柄なお子様の視線は、私のあごより下にある。

自信満々な雰囲気の目つきは、困っしゃくれた子供の上目遣いにも見えてちょっと微笑ましくも有る。


まあ、何の助けにもなっちゃくれないんだけど・・・。


「察しが良いですのね。

まあ、あなたを特定してと言う訳でも無いんですの。

・・・疑似餌ってご存じですの?

餌によく似せた偽物の創りもののおもちゃですの。」


お子様は、そこにそれが有るかのような手つきで、アユの天ぷらをひらひらさせて見せる。


「これ、見分ける能力が無いと、単なるおもちゃなのですが、見分ける力が有ると、狩るべき獲物に見えるんですの。」

お子様の指が、アユの天ぷらをユラユラと蠢かせて見せる。

・・・まるで、遊びに誘う猫じゃらしみたいに・・・。


「チョウチンアンコウって、ご存じですの?

あの、チロチロ動かす例のあれですの。

気にしない、気が付かないモノたちは、ただの風景の一部として無視してしまいますの」

お子様は、さも「残念でした」と言うように、眉を下げて見せる。

アユの天ぷらは、動きを止めている。


「でも、それとわかる手合いなら、狩り取るべく行動を起こしますの。」

お子様の口角が上がる。

アユの天ぷらが、再び、蠢き出す。

・・・そう、まるで、何かに身を隠しながら、何かに狙いを定めているかのように・・・。


「ポイントに潜んだ狩人を、逆に狩りだすのはちょっと手間ですの。

じゃあどうするか?

潜む前に・・・。」


文字通りパクリ・・・アユの天ぷらが、お子様の口の中に消えていった。


成す術も無く・・・当たり前だ、だって、アユの天ぷらなんだから・・・でも、じゃあ何でこんなにザワザワするんだろう・・・。


「その為に、狩人さんには疑似餌を見せて行動を起こして貰うのが手っ取り早いと言う訳ですの。」

ちょっとモグモグしながら、お子様は朗らかな笑みをコチラに向ける。


・・・期待に満ちた目・・・美味しいお菓子の包みを見つけた子供の様な・・・新しいおもちゃを与えられた子猫の様な・・・。

ナントカ期待に応えたいと思わせる様な目つきだ・・・が、・・・その期待の中身が私の安全と天秤関係にあるのでは無いか?


馬鹿な考えだ・・・馬鹿な発想なのは分かってる。

でも、私は、全く落ち着かない。



「そうそう、このお店・・・数は少ないですけれども、デザートもございますの。」

お子様が、目をキラキラさせながら言い出した。


「ティラミスがお勧めですのよ。」

視線はタッチパネルを見ている。


・・・ああ、私、注文係だったっけ。

私は、ノロノロと操作をする。


お子様はそれを見ながら話を続ける。

「疑似餌に気が付いた狩人は、意気揚々と準備を啜んてポイントに陣取りますの。

そこが、既に、狩人を狩るモノの口の中だというのに・・・」


いかにも滑稽だと言わんばかりに微笑んで見せるお子様。

玉たちが、ブルブルと震えている。

畏れを体現する様に・・・。


・・・それって、意気揚々と取材に乗り込んだ私を彷彿とさせる話だね・・・。

お子様の微笑みに、笑顔で応える私・・・が・・・引きつっているのが自分でもわかる・・・。


「彼らの各々の必殺のタイミングで、狩を成就させんと引き金を引いたタイミングで・・・。」

パクリ・・・アユの天ぷらが、また一尾、一口でお子様に平らげられます。


なんの関係もないはずなのに、私はビクリと震えます。

あれはアユ。

私は人。

・・・なのに・・・同じに見えるのは何故?


その時、セコ玉がまたこっちへと、転がってきます。

恐怖にかられ、対象から一目散に逃げてくるように・・・助けを求める様に・・・。


しかし、直ぐにお子様に摘まみ上げられた。

残念ながら、草臥れた居酒屋のテーブルは、昭和仕様なのだろうか、そんなに広くない。

逃げおおせるのは、難しいだろう。


・・・逃げおおせる?

バカバカしい・・・あれはおもちゃ・・・だよね?


「まあ、偶には、間違えて、違う獲物もかかってしまうんですの。」

セコ玉を、掌の上で転がして見せるお子様・・・。


「ほかの狩人の上前を撥ねようとすると、結局、同じポイントに入ってきますの。

捕まえてからじゃないと、疑似餌に気が付いてたのか、気が付いていなかったのかは分からないんですの。」

お子様は、困ったもんだと言わんばかりの表情を浮かべながら、セコ玉をテーブルの上に戻す。


私は、かすれた声で「つまり・・・それは・・・」言葉にならない。


もう、頭では理解してしまっているのに、心がその理解を拒む。


おそらく、セコは、私を出し抜いてこの店に来て・・・取り込まれた・・・んだろう・・・。



だから・・・つまり・・・あの玉は・・・。



お子様の笑いが深く濃くなっていく。

・・・私の理解の深さと比例するみたいに・・・。


「まあ、捕まえたのち、保管するだけならそんなに手までもありませんの。」

手近な玉をつついて見せる。


玉は慌てた様に指と反対方向へ転がりだすが、お子様が揶揄うように箸で行き先をふさいだり、手で押さえたりして忽ち虜にしてしまう。


「チャチャっと入れ替えて・・・あとは・・・この通り・・・ですの・・・。」


お子様は、手品師がショーの終わりにするように、両手を広げて見た。


その、お子様の前のテーブル上には、10個近い玉がズラリと並んでいた。

黒いの赤いのピンクの・・・丸が描かれたモノ・・・唇が配されたもの・・・様々な・・・玉・・・。


それらが、コレクションの様にテーブル上に整列して見せる。



「さあ、チョウチンアンコウの口の中に陣取った、間抜けな狩人さんは、どんな柄になると思いますの?シンキングタイムですの・・・」



同時に、世界から音が消えた。



周囲の酔客が上げていた喧騒が、スイッチを切ったかのように、無音に・・・。


お子様のニヤニヤ笑いが一層深く、濃くなる。

口角がさらに上がる・・・。

・・・口が耳まで割けて・・・もっと大きく・・・私を一飲みにできるほど・・・。

周囲の酔客は、全てが尖った何かに・・・ああ、お子様の口に並んだ乱杭歯・・・ズラリと並んだ酔客だった牙は、私を眺める葬列の様・・・。


「ちょうど、ティラミスが届いた様ですの・・・」


お子様の口の奥の方から何かが転がってくる。


コロコロ、コロコロと。


ティラミスってあんな形だっただろうか・・・思考が千路に乱れる。


コロコロ転がって来た・・・それは・・・玉・・・。


紺色の地に赤いメガネの模様。

・・・業界人を気取って購入した赤ぶち眼鏡・・・あれ・・・私の・・・玉・・・。


思考がグニャグニャして来て・・・。

視界がグラグラして来て・・・。

床がトロトロして来て・・・。


椅子が・・・テーブルが・・・照明が・・・柱が・・・全てが急速に形を失っていく・・・。


並んだ玉が、溶けて流れて・・・。


重ねた皿が、崩れて落ちて・・・。


・・・そして・・・・・・


私が・・・。




ドン・・・。


視界が曲がって、世界が歪んで・・・。


さて、取材対象としてロックオンしたはずが、自分がおいしく頂かれちゃいそうな勢いですね。


それにしても、無遠慮にパクリ、パクリと、アユの天ぷらを平らげてしまったお子様。

最後はフードファイターばりに大口空けて一口です。

やっぱり、美味しいものは温かいうちに口いっぱい頬張るのが最高ですよね。

で、食べたものの余韻があるうちに、日本酒とかをキュッと・・・日本酒いいよね。


皆さんは、てんぷらに合わせるとなると、どんなお酒が思い浮かびますか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ