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オヤクメを背負いしもの、この世が埋もれた果てで、希望の光を受け取る。  作者: ヒゲ博士
第一章 【岩の塔】

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変化の兆し 後編

 音を追いかけて歩いていると、階段にぶつかった。1階から10階までを繋ぐ階段は、暖房の音だけがうごめいていた。

 ただの人なら音に埋もれた生活の痕跡に気づかないだろうが、エルドラフは気づく。筈だった。


「……車輪の音が消えた。」


 ここ8階の上には水根栽培や豚が飼われているエリアである。その上は採掘された鉱物の精錬所だが、車輪の音が聞こえたのは7階だ。6階の精錬所には溶鉱炉があり、人が居座るには適していない。


「畑で病気を探る??変だ……よな…。…………気になる。」


 少しだけ悩んだ後で、エルドラフはゆっくりと足を進めることにした。


 一歩一歩大切に踏み入り、階段の踊り場を経て、7階の扉の前にたどり着いた。


 このホスト内部に点在するインフラ設備にはドアの横にはめ込まれたカードリーダーを使用しなければならない。だから今の状態でエルドラフは内部に潜り込むことは不可能だ。

 だが彼は潜り込むことを必要としない。掌を吸着させるだけで、部屋の様子が分かるのだから。


「盗み聞きして…ごめんな____うわ!!」


 扉に手をつけようとした途端に、扉は自動的に左右の壁の隙間にはまり込んだ。


「え…ええ?」


 掌で中の音を聞こうとした途端に、いとも容易く扉が消えたのだ。恐らくだがセキュリティを解除されていた。

 平時なら大騒ぎが起きているのだが、今は消灯時間で誰もいない。加えて第一発見者はエルドラフだった。


「……これは入っていいという事だな。」


 恐れ知らずを通り越せば、愚か者。その先は死人であるという事を少年はまだ知らなかった。


 左右に伸びた農作物達の絨毯。真ん中には通路が奥まで伸びていて、目を凝らせば鉄のドアが1枚だけ、先行きを防いでいる。

 好奇心に負けたエルドラフは勇ましくも身をかがめ、プールの中で自生している農作物にまぎれながら、先へと進んだ。


(やっぱり水辺なら音が立たない。いい勉強になった。)


 そうしてゆっくりとドアに近づいていくと、あることに気がついた。


(ドアが開いている。)


 鉄のドアは閉まりきっておらず、中から音がしていた。


(………まずいな。)


 ドアの隙間から、沢山の音が聞こえてきていた。音というよりは気配に近い。

 何か液体を送り出すポンプの駆動音。管から水が抜ける音。中身が空洞な硬いものを折る音。

全てがどこにでもありそうでなくて、全てが気色が悪い音だった。少年は、その音に聞き覚えがある。

 それは食事をする前に行われる、生きた材料の解体と酷似していた。


(……中で、人間が解体されているのか。……まさかな。理由がない。ここの文化と背反してる。動物という線か。。)


 これ以上はここにいてはいけないと、頭の中で警戒アラームがなっていた。だが状況は彼を離さない。


「うわぁ……ァァァああ!!」


 悲鳴が部屋から溢れて、エルドラフの胸を締め付けた。

 なぜなら悲鳴に聞き覚えがあったからだ。アカバネという男の子、アニューとアンの密会を見つけた人物。

 だがコレで検疫の運び先がわかり、状況がより分からなくなった。


(……な、中でなにをしてる。なにがしたいんだ。)


 目の前の見えない空間で何が行われているのか、想像ができなくなった。それは今日による混乱であり、脳の処理が連鎖的にバグを引き起こし始めたからだ。

 だからエルドラフは胸に手を当てて、ゆっくり浅く呼吸を始める。


(落ち着け俺。分析するんだ。整理すればいろんなことがわかるはずだ。…音を、順序立てて…繋げていくんだ。)


 跳ねる鼓動が少しづつ、収まっていくと、ほつれていた思考が正しさを取り戻していく。


(何かが折れる音、管から水が漏れて…ポンプ…送り出し、管から……)


 頭の中に浮かんできたのは、肋骨を折るイメージだ。解体する際に内臓を取り出す時、肋骨が邪魔になることがある。その時の音に似ていたのだ。


(解体!!!アカバネを、解体し____)


 恐怖がせり上がる前に、先回りしてきた思考で冷静さを取り戻した。それはしばらく姿を見せていなかったアンだ。

 




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