41話 物語のあとで
物語には、形がある。
選ばれる者がいて、倒される者がいて、救われる世界がある。
それは疑われない。
疑う必要もない。
始まりがあれば終わりがあり、終わりには歓声があり、歓声のあとには静けさが訪れる。
役目を果たした者は、そのまま物語の外へ退く。
名前だけが残り、記憶はやがて薄れていく。
正しい流れ。
あまりにも、正しい。
だからこそ、ときおり思う。
本当にそれで良かったのだろうか、と。
何かが奪われたわけではない。
守るべきものは守られた。
それでも、胸の奥にわずかな空白が残る。
終わったはずの先に、続きが見えない。
救われたはずの未来が、どこへ伸びていくのか分からない。
同じ形が、またどこかで用意されているような感覚。
同じ始まり。
同じ選択。
同じ結末。
それが世界の自然だと言われれば、否定はできない。
繰り返すことは、安定でもある。
変わらないことは、安心でもある。
だが――もし、ほんの少しだけ、違っていたなら。
大きく壊す必要はない。
正解を否定する勇気もいらない。
ただ、揺らぎを一つ。
筋書きの外側に立つ存在。
選ばれず、役割を与えられず、それでも物語の近くにいる者。
その小さな揺らぎが、流れをわずかに変えるかもしれない。
勇者が勇者であることに縛られずに済むように。
魔王が魔王という形に固定されずに済むように。
役目を終えたあとも、歩き続けられるように。
けれど、それが正しいのかは分からない。
整った結末の方が、優しい場合もある。
綺麗に閉じた物語の方が、救いになることもある。
揺らぎは、不安でもある。
それでも、未完成のまま続く物語を、一度くらい見てみたいと思う。
誰かが役目だけで定義されない世界を。
救いが、終わりと同じ意味にならない未来を。
今度の物語には、ひとつだけ揺らぎがある。
それが偶然なのか、意図されたものなのか。
あるいは――ただの希望なのか。
それはまだ、分からない。
分からないままでいいのかもしれない。
物語は、閉じない。
閉じないまま、少しだけ柔らかく続いていく。
それだけで、十分なのかもしれない。




