40話 触れかけた真実
「そろそろ、本来の仕事でもするか」
ノアが召喚者ではないのにも関わらず、勇者パーティーに選ばれたのは意味がある。
賢者は戦闘要員ではない。導くものだ。
ガイド役とでも言うべきか。ルートを作り、配置を整え、パーティーが無事に魔王の元へ辿り着けるように導く役割。
それはこの世界の者にしか出来ないことだった。
いつも通り、魔力の揺らぎを確かめ、最適な行軍ルートを緻密に計算する。
しかし、
「これは……」
魔王城付近を探ろうとした瞬間、違和感が走った。
防壁。いや、違う――拒絶だ。
魔力の流れが、まるで何かを隠すかのように、断絶している。
以前ここを調べた時には、こんなことは起きなかった。
「我々が、近づいているからか?」
ノアは分析する。魔王城に近づけば近づくほど、魔力の流れは明瞭になるはず。
だが、今は読めない。読みたくても、何かに阻まれている感覚。
隠された"何か"があることは明白だ。単純に考えれば、ただの目眩しか時間稼ぎだろう。
だが、確かに――今、触れかけた。"何か"に。
「馬鹿らしい」
しかし、ノアはその感覚を放り捨てる。
感覚論など、論理的ではない。
ノアが信じるのは、あくまでも事実とそこから導き出される推論のみ。
ペンを取り、手帳に書き留める。
・魔王城付近の魔力の流れが不明確となった
・何かを隠している疑い有り
隠された"何か"を知ることさえできれば、推論は立てられる。
しかし、今のままでは情報が不足している。現象の説明はつけられない。
「だが、」
胸の中に残る感覚が消えない。
何かを掴みかけたような、確信に触れたような奇妙な感覚。
そして――今まで積み上げてきたものが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちるような違和感。
「私は……どうすればいい」
その呟きを聞く者はいない。
ランタンの灯りが揺れ、ノアの横顔に暗い影を落とした。
◇
灯りのない玉座の間。暗い影が座す。
「気付いた者が、いるな」
声は淡々としている。感情の色はほとんどない。
だが、微かに、楽しげな気配が混じっている。
「さて――この世界に君はどう出る?」
玉座の影が微かに身を沈める。
何者かの動きを待つ、静かな余白が、部屋を支配していた。




