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勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


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31/49

31話 固定された座標

 遠征隊は朝の支度を整え、森の中の開けた場所で休息を取っていた。


 私は馬車の横にしゃがみ込み、補給袋の中身を確かめている。乾燥肉、保存パン、水筒。数を確認し、紐を結び直す。いつも通りの作業。

 それなのに、胸の奥が静まらない。


 ――何かが起きるかもしれない。


 理由はない。ただ、その予感だけが消えなかった。


 瞬間――ガサリ、と葉が揺れた。


「魔物だ!」


 兵士が即座に武器を構え、アルトさんが剣を抜く。


 喧騒から距離を取るように、私はそっと馬車の後ろへ身を潜めた。

 補給係は前線に出る役目じゃない。

 求められているのは、自分の身を守り、必要なときに動けること。


 馬車の固定具を確かめながら、視界の端で戦闘を追う。


 魔物は三体。この程度の小規模戦なら、すぐに終わる。


 不意に、本来なら右へ跳ぶ軌道だった魔物が、なぜか左へ逸れた。

 そのせいで、アルトさんの立ち位置が一歩ずれる。


 ほんの一歩。

 けれど、その一歩で、私との距離はぴたりと保たれた。


 私は動いていない。

 近づこうともしていない。


 それなのに――距離だけが、正確すぎるほど維持される。


 戦闘はあっけなく終わった。

 私は救護袋を抱え、軽傷を負った兵士のもとへ向かう。


 進路の先にアルトさんがいる。

 ただ、それだけだ。


 声をかける気はない。

 明確な意思を持って近づくつもりもない。


 なのに――足元の地面が、わずかに崩れた。


 乾いた土のはずだった。雨も降っていない。

 それでも、私が踏み出した場所だけが沈む。


 よろめき、救護袋を落としそうになる。

 辛うじて踏みとどまった。


 顔を上げたときには、アルトさんの姿は兵士の背に隠れていた。


 ……まただ。

 距離が、維持されている。


 偶然。そう思おうとする。

 けれど、胸の奥がひどく冷える。


 足元を見る。

 さっき沈んだはずの地面は、何事もなかったように乾いている。


 崩れた跡もない。

 踏み跡すら、残っていない。


 風が吹く。

 森がざわめく。


 その瞬間――視界が、わずかに歪んだ。


 世界が、薄く軋む。

 音が遅れて届く。

 色が、ほんの少しだけ褪せる。


 ――要観察


 頭の奥で、誰かが囁いた気がした。

 おそるおそる振り向くが、そこには誰もいない。


 兵士たちは通常通りに動き、アルトさんも剣を納めている。


 何一つ、おかしなところはない。


 おかしいのは――私のほうだ。

 

 救護袋を抱き直す。

 手が冷たい。わずかな震えが止まらない。


 整える。

 揃える。

 崩れを戻す。


 それが、私の役目。


 物語の中心じゃない。

 聖剣も、奇跡も持たない。


 それなのに、考えてしまう。


 次に何かが起きたとき。

 私は、どこに“配置”されるのだろう。


 風が止む。

 森が、不自然なほど静まり返る。

 その沈黙が、やけに長く続いた。

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