火葬8
人は、生まれる理由を選べない。
だが――
どこで終わるかは、時に選ばされる。
火葬師という仕事は、誰かに憧れてなるものではない。
華やかさも、救いも、そこにはない。
あるのは、ただ一つ。
終わりと向き合い続けること。
誰もが目を背けるもの。
触れたくない現実。
形を失い、名前すら曖昧になる瞬間。
それを、確かに「終わった」と認める役目。
だが。
その役目を選んだ者は、何を見てきたのか。
何を知り、何を手放してきたのか。
なぜ、人は“終わらせる側”に立つのか。
これは、一人の火葬師が。
その理由に至るまでの、静かな記録である。
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火葬8 ― 火葬師になった理由
火は、昔から嫌いではなかった。
暖かいからでも、明るいからでもない。
ただ――
終わるからだ。
少年だったダルスは、村外れの焼け跡に立っていた。
黒く崩れた家。
焦げた木材。
そして、何も残っていない空間。
「……これで……終わりか……」
誰に言うでもなく、呟いた。
その家には、人がいた。
笑う声も、怒鳴る声も、確かにあった。
だが今は。
何もない。
骨すら、残っていなかった。
「……わからない……」
終わったのか。
消えただけなのか。
それすらも、判断がつかない。
そのとき。
背後で足音がした。
振り向くと、一人の男が立っていた。
煤に汚れた服。
無表情。
だがその手には、見慣れない道具があった。
「……誰だ」
少年の問いに、男は短く答えた。
「火葬師だ」
それが、初めて聞く言葉だった。
「……何をするんだ」
男は、焼け跡を見渡し、そして言った。
「終わらせる」
その後のことは、よく覚えている。
男は灰を集めた。
わずかに残っていた骨を拾い上げ、砕き、整えた。
まるで。
“まだそこにいるもの”を扱うように。
「……もう、いないだろ」
少年は言った。
「全部、燃えた」
男は手を止めずに答えた。
「だからだ」
「残っているものを、終わらせる」
その言葉は、奇妙だった。
だが。
どこか、納得してしまった。
「……終わるって……何だ」
男は少しだけ考え、そして答えた。
「区切りがつくことだ」
「戻らないと決まることだ」
少年は、焼け跡を見た。
何もない。
だが――
「……これで……戻らないのか」
男は頷いた。
「戻らない」
その瞬間。
胸の奥にあった、曖昧な何かが。
すとん、と落ちた。
「……そうか」
それが。
初めて“終わり”を理解した瞬間だった。
それから数年後。
ダルスは、その男のもとで働いていた。
骨を拾い、砕き、均す。
灰を整え、送る。
同じ作業の繰り返し。
だが。
一度も迷ったことはなかった。
「……終わらせる……か……」
ある日。
まだ見習いだったダルスは、ふと尋ねた。
「なんで、この仕事をやってる」
男は少しだけ手を止めた。
そして、珍しく遠くを見るような目をした。
「残るからだ」
「終わらないものは、残る」
「残れば、歪む」
その言葉の意味を。
ダルスは完全には理解できなかった。
だが――
「だから、終わらせる」
その一言だけは、深く刻まれた。
やがて。
男は死んだ。
誰にも看取られず。
静かに。
ダルスは、その体を炉に入れた。
火を入れる。
燃える。
崩れる。
灰になる。
そして。
骨を拾い、砕き、均す。
いつもと同じように。
一切の迷いなく。
「……終わりだ」
それが。
ダルスが初めて、自分の手で“終わらせた”瞬間だった。
――だから。
あのとき。
迷わなかった。
戻ることを望む声も。
救いを求める叫びも。
すべて。
“終わっていないもの”だと、わかっていたから。
火葬師は、送る者だ。
戻す者ではない。
それが。
ダルスが火葬師になった理由だった。
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登場人物(火葬8)
ダルス(少年期〜青年期)
焼け跡で「終わりの曖昧さ」に触れた少年。
火葬師となり、“終わらせること”の意味を理解していく。
老火葬師(師匠)
ダルスを導いた火葬師。
「終わらないものは残る」という思想を持ち、それを教えた人物。
焼け跡の住人たち(不在の存在)
火災で形すら残らなかった人々。
ダルスに“終わりとは何か”を考えさせるきっかけとなる存在。




