55、岡崎攻め
「牛久保城から牧野右馬允成勝が出陣した由。総勢一万とのこと!」
家臣が陣幕に入って来ると大声を張り上げた。見覚えのない男だ。孫十郎の家臣だろうか。
家臣たちは落ち着いている。想定内ということだろう。松平家は広大な領地を持つ新興の戦国大名だ。駿河の今川、信濃の小笠原も警戒する強い武士団。岡崎城が包囲されたくらいでは降伏することはない。
それは分かっている。だが悠長に籠城戦を待つこともできない。
「若、攻めますか」
側にいた梶川平九郎が聞いてくる。
「攻める。平九郎、先陣を任せる」
「ははっ」
平九郎が元気の良い返事をする。城を攻める。岡崎衆に揺さぶりをかける。平九郎は城攻めでも力を発揮する。任せても問題ないだろう。
喚声が起きた。何が起きたのか分からなかった。城門を開いて松平軍が曲輪から討って出てきたのだ。
「あれは石川、林の軍ですな……」
村井吉兵衛がぽつりと言う。諸将は立ち上がり、城門の方を見ていた。迎え撃つのは梶川平九郎の軍だ。
「開城よりも武名を求めたのでしょう」
村井吉兵衛が涼しい顔で言う。そうは言うが、梶川軍で支え切れるか。相手は死に物狂いだ。突破されかねん。
「蜂屋兵庫、水野忠政の軍を援軍に送れっ、平九郎を負けさせるな!」
家臣に命じる。敵も必死だ。こちら気が緩んではいられない。
日が落ちる頃には勝負はついた。梶川軍が猛烈に敵を追い返し、曲輪まで落とした。上出来だ。
「使者を城に送る。降伏するように呼びかけよ」
俺はすぐに決めた。敵が弱った時が好機だ。このまま籠城戦に持ち込まれると不利になる。ここは一気に降伏させてしまおう。




