54、岡崎城包囲
俺は床几に座ると諸将の顔を見回した。梶川平九郎を始め、新顔の村井吉兵衛貞勝もいる。岡田助右衛門、近藤九八郎といった面々は大高城の守備に回した。怪しい動きをする清須方は勝幡の父上を始め、那古野の今川氏豊が抑え込んでいる。
これは松平清康を始末する絶好の好機だ。俺が大高城でじっとできなかった理由はやはり今川家の動きだ。今川は俺と友好関係にある。当主として君臨していた今川氏親は死んだ。後継者は若い長男の五郎氏輝。どのような人物かは分からないが家臣の子弟を選抜し、馬廻り衆を作っている。
今川は武田・北条と緊迫した関係にある。すぐに動くとは思えないが、可能性は捨てきれない。
そこで俺は清須方が動けないと知ると、初陣のために岡崎にやってきたわけだ。
「岡崎には六千が籠っているようです。無理に攻めれば、こちらも手傷を負いましょう」
滝川八郎が渋い表情で言う。そう、岡崎城は堅固だ。籠られると厄介だった。これなら野戦の方が楽だ。
岡崎城はあの史実での武田信玄ですら到達できなかった城で清康は曲輪を作り、城塞化した。正直、この城はこれまでの城と比べ物にならない。
「城内には本多平八郎が籠っておりまする。若のいる本陣が狙われるやもしれませぬ」
梶川平九郎が心配そうに俺を見る。本陣は精鋭部隊で固めてある。そう、易々(やすやす)と崩されんぞ。
「これでは長引くな……」
俺は悩んだ素振りをする。降伏はしないなら一つ一つ曲輪を攻略していくしかない。
「攻めるしかない。各々(おのおの)持ち場に付け。すぐにでも攻めかかるのだ」
こちらには攻城兵器がある。それ程、苦戦はしないはずだ。
衝撃音が響いていた。攻城兵器によって門を攻撃している。ただ櫓からの弓矢が多い。敵の戦意が高い。松平家は三河に巨大な勢力を有している。岡崎が落ちても各地でゲリラ戦が展開できる。
「近づけぬか……」
岡崎城の守りは想像以上に堅固だった。門も突破できない。時間だけが過ぎていく。
「若、清康ですが城内におらぬようです」
「何……」
忍びの瀬田孫十郎が報告する。俺は孫十郎の顔をまじまじと見た。
「清康の弟で戦上手の松平蔵人が総大将となり、岡崎衆をまとめているようです。清康め、どこへ行ったのか」
清康が消えた……。やはり尋常の者ではない。正攻法ではなく、敵の裏を掻こうとする。知略・武略に優れている。配下にすれば、これ程、頼もしい武将はいないだろう。
「ほう……楽しませてくれるではないか」
ゾクゾクとしてくる。武者震い、というのがこれだろう。俺は震えながら、床几を立ち上がった。




