なんの前触れもなく
クリスマスイヴ。
期待していたお泊まりデートはなくて。
蓮くんの家では、横山くんの家族と夕食を食べるのが恒例みたいで。
今年も家族で過ごすイヴ。
でも、
明日は蓮くんと過ごせるから。
約束通りケーキを作ったの。
生クリームたっぷりのイチゴとみかんのケーキ。
スポンジには初挑戦だったけど。
愛情をたっぷりこめたよ。
蓮くん。
気に入ってくれるかな?
クリスマスプレゼントはいらないって話してたけど。
手作りケーキが私からのクリスマスプレゼントなのです。
お風呂に入って。
ベッドの上で。
壁に寄りかかって。
スマホとにらめっこ中の私。
画面には、ネズミーランドで撮った写真たち。
他人には見せられない。
見てるだけで。
顔もゆるゆる。
こころも体もほんわかしてきて。
想い出すだけで。
私の周りに満開の星が煌く。
まだかな。
蓮くん。
家に帰ったらメッセージをくれるって。
素直に待ってる私って。
いい彼女だよね。
画面の中の蓮くんの顔を指先で撫でる。
うーん。
もうすぐ21時。
ピコン。
きた!
抱えた膝の上に顎をのせて。
画面をみる。
『待った?』
「うん、少しだけね。ご飯美味しかった?」
『美味しかったけど、やっぱり結衣の料理のが俺には合うみたい』
「ありがと。じゃあ明日なんか作ってあげる。何がいい?」
『そうだな。結衣がいい』
へ?
ドクン!
もれなく。
破裂した鼓動。
途端に頭に血がのぼる。
「もう、なに言ってるろ?」
あっ。
間違っちゃった。
『照れて慌てる結衣もかわいい』
うう。
「ずるいよ蓮くん。会いたいよ」
『ごめん。食べたいものだけど、豚汁とこないだ作ってくれたジャーマンポテトがいいかな』
「分かった。いっぱい作ってあげるね。早く明日にならないかな」
『楽しみ。お腹空いてきた。結衣。星がきれいだよ。それに月も。今見てる』
「そうなの? ちょっと待って」
私は立ち上がって。
椅子に掛けてあるフリースを羽織って。
窓を開けた。
流れ込む冷たさに肩を寄せて。
サンダルを突っ掛けて。
ベランダに出た。
しんと静まり返った夜空に。
ゆらゆらと瞬く星と半月。
ピコン。
『結衣、どこ見てる?』
ん?
「空見てるよ。きれいだね」
『結衣、下を見て』
ん?
下?
私は視線を道路に落とす。
電柱の外灯がアスファルトを照らしている。
『そっちじゃなくて、玄関の方』
ん?
玄関?
!
薄明かりの中。
人が立っている。
帽子を被って。
サンタ……?
「メリークリスマス! 結衣!」
!
蓮くんの声!
しかも。
サンタのコスプレ。
「何やってるの?」
「結衣にプレゼントを届けにきた!」
「え? ちょっと待ってて!」
私は部屋に飛び込んで。
そのまま一階へと駆け降りる。
「ちょっと結衣。どうしたの?」
お母さんの声を背中で受ける。
「あ、蓮くんが来たの!」
私はサンダルを履いて。
玄関のドアを開けた。
パーン!
「メリークリスマス!」
クラッカーの紙吹雪が私の頭に降ってきた。
「もう、来るなら教えてよ」
私は蓮くんの手を引っ張る。
「驚かそうと想ってさ」
「そんなに、私に会いたかったんだね」
蓮くんのおでこをつつく。
「え? まあな」
蓮くんは背負っていたリュックを抱えた。
「取りあえず上がって」
「うん。お邪魔します」
「あら、ステキなサンタさんいらっしゃい」
リビングから顔を出したお母さん。
「お母さん。こんばんは」
お辞儀をする蓮くん。
その足で慣れた様子で。
洗面所で手洗いうがいをする。
まとわりつく私。
そして、腕を引っ張って私の部屋に連れて行く。
「蓮くん、プレゼントってなあに? 私にはいらないって言ってたのに」
「ああ、うん。ごめんな、でも、ちょっとね」
部屋に入ると蓮くんは、リュックの中から何かを取り出して。
私の方に向き直る。
「はい、プレゼント」
蓮くんが手にしていたのは。
きれいに包装され。
リボンがついた小さな箱、
「ありがとう」
「開けてみて」
リボンをほどいて。
箱の蓋を開ける。
中にはロイヤルブルーに輝く六角形の箱。
そっと蓋を持ち上げると。
「わあ」
鈍い光を弾く銀色の指輪。
「俺とお揃い」
蓮くんは私の目の前に左手をかざす。
薬指におんなじ光。
「シルバーだけど、直人の姉ちゃんに頼んで作ってもらったんだ」
「そうなんだ。ありがとう」
「ちょっと貸して」
蓮くんは、指輪をつまんで。
私の左手の薬指にそっと合わせていく。
ひんやりとして。
締め付けられる違和感。
胸がきゅーって。
「良かった。ぴったりだ」
満足気な蓮くんを見上げる私。
「ありがと」
「結衣、卒業したら結婚してくれないかな」
真っ直ぐな声。
けっこん?
?
?
?
「結衣?」
「え?」
「どう?」
「どうって、したいけど……」
「したい? したくない? 結衣が決めていいよ。今すぐ返事しなくてもいい。断っても今まで通りだから」
「お母さんとお父さんに聞かないと……」
「そうだね。でも、結衣のご両親にはもう話してあるんだ」
「え?」
「結衣の気持ち次第なんだ」
「へ?」
「もちろん、学生だから一緒に住めないし、親に頼らないといけない。自立してない身分だけどさ。俺たちの生き方があってもいいかなって」
蓮くんは私の両手を包み込んだ。
「籍を入れるだけで、すぐには結婚式もあげられないけどさ、大好きだし。愛してるから」
こくりとうなずく。
「私、蓮くんのお嫁さんになる」
ぎゅっと蓮くんが私を抱き締める。
「ありがとう。結衣」
「嘘じゃないよね。夢かな」
あっ。
蓮くんが私の唇を。
心も体も全部さらう。
離れそうになる蓮くんの頭を押さえて。
唇を重ねる。
息がぶつかりながら。
長い長い口づけを交わした。
お読み頂きありがとうございます。
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