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詩乃とハムオ、ときどき一颯  作者: 朝凪 紡


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6/9

風呂、長くね?

「お風呂入ってくるね~」

(いってら)

そう言って、彼女が部屋を出ていった。


それからしばらく。

俺はベッドの上を適当に歩き回ったり、布団に潜ったり、出たりを繰り返していた。

特にやることもない。


ぼふん——

(暇だな)

ハムスターになってからというもの、時間の流れがやたらと遅く感じる。


スマホも触れない。

本も読めない。

テレビをつけることすらできない。

ゲームもできない。


できることといえば、寝るか、食べるか、走るか。

(暇すぎるだろ)

仕方なく、布団の中へ潜る。


彼女が戻ってくるまで、寝ていよう。

そう思って、目を閉じた。


***


(……)


目を開ける。

何の音もしない。


(まだ戻ってない?)


身体を起こして、部屋を見渡す。

(いない)


遠くで水が降る音がしている。

俺は、机の上の時計へ視線を向けた。


(……ん?)


もう一度見る。


(いや、長くね?)


彼女が部屋を出てから、もう一時間以上経っている。

女性の風呂が長いことくらいは知っている。


髪も長いし、乾かす時間だって俺よりは長いだろう。


(まぁ、そんなもんか…?)


もう一度、布団へ潜る。


***


そして、再び目を覚ました。


(……いない)


時計を見る。

(……いやいや)

二時間——


さすがに長すぎる。


(何してんの?風呂に二時間もかかることある?)

いや、あるのかもしれない。

知らないけど。


(……)


時計を見る。

扉を見る。

また時計を見る。

彼女が部屋から出て、何度時計を見ただろう。


(大丈夫だよな?)


ふと、嫌な想像が頭をよぎる。

寝てる、とか。

体調悪くなってる、とか。

風呂場で倒れてる、とか。


(……)


じっと扉を見る。


(いや)


さすがに気になる。

俺は布団から這い出した。

ベッドの端まで行き、下を覗き込む。


(……高)


今の身体では、床までが異様に遠い。

それでも、どうにか降りられないこともない。


(行くか)


そう思った瞬間——

ぴたっ、と動きが止まった。


(……いやいやいや、待てよ…どこへ…?)


風呂だぞ。

そう心で制止する。


(ダメでしょ)


いくらハムスターとはいえ、中身は俺だ。

何食わぬ顔で風呂場へ突撃するのは、違う。


(何しようとしてんだ、俺)


引き返す。

二歩。

止まる。

振り返る。


(……でも二時間だぞ?)


また進む。

止まる。


(いや、だからダメだって)


戻る。

(……)

進む。

(いや)

戻る。


(……)

我ながら、何をしているんだろう。

そもそも——

(どう頑張っても入れねーじゃねーか)

この身体で風呂場まで辿り着いたところで、扉を開けられない。

心配するだけ無駄だった。


(……寝よ)

諦めて、布団へ戻ろうとした。


その時。


がちゃ——

扉が開く。


「入りすぎたぁ…」


(……ほんとにね)

髪を乾かし終え、少し疲れたような顔の彼女が戻ってくる。


「ハムオ、起きてたの?」

(起きてたよ)

「お風呂長くなっちゃった」


(長くなっちゃった、じゃないよ)

「いや~、湯船入ったら出られなくなっちゃって」

(出ろよ)

「のぼせたぁ」

ベッドにダイブする。

(でしょうね)


その姿を見て、身体から力が抜けた。

(……まぁ、いいけど)

何もなかったなら、それでいい。


「ハムオ?」

差し出された手に、素直に乗る。

「もしかして、待ってた?」

(……)

「寂しかった?」

(違う)

「ふふっ、ごめんね」

(違うって)

嬉しそうに笑いながら、俺を頬へ寄せる。


(……)

否定したところで、どうせ伝わらない。

だから、そのまま大人しく撫でられておくことにした。


けれど次から彼女が、

「お風呂入ってくるね~」

と、言うたび。


(今日は浸かりすぎんなよ)


そう思うようになる、ハムオだった。


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