↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詩乃とハムオ、ときどき一颯  作者: 朝凪 紡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

二人で残業…?

時は、詩乃と一颯がまだ一緒に働いていた頃まで遡る。


二十二時二十分——

夜営業のレストランの退勤時間まで、あと十分。

比較的忙しくない今の時期は、人件費削減のため、ラストまで残る人数も絞られていた。

それでも料理長は、変わらず忙しなく動き回っている。

アルバイトの私と彼はすでに片付けを終え、いつでも退勤できるよう、最後の作業を進めていた。


そして——

二十二時三十分。

(よし!上がれる!)

早く帰りたいと心の中で叫びながら拭き掃除をしていた私は、時計を確認するなり、跳ねるように身体を起こした。

その日は、少し忙しい一日だった。

(早く、帰りたい…お風呂に入って、布団に飛び込みたい)

そんなことを考えながら辺りを見回して、ふと気付く。


(あれ?)

彼がいない。

いつもなら、退勤時間の二分前には入口付近に集まっているはずなのに。

私は、料理長に声をかけ、後輩を先に上がらせる。


(緒方さん、どこだろう?)

辺りを見渡すと、厨房奥にある備品庫の前に、その姿を見つけた。

(え?まさか…)

私は時間を見間違えたのかと、もう一度時計を見る。

けれど、間違いなく退勤時間を過ぎている。

小さな疑念を抱えながら近づいていくと、彼は発注用紙を手に、備品の在庫を確認していた。

(今から…?)

正直、私は明日でもいいと思っている。

急ぎのものがあるわけでもない。

今やらなければ困ることでもない。

少なくとも私には、今やる必要性を一切感じられなかった。

「……」

何も言わず、じっと彼へ視線を送る。

「……」

それに気付いた彼が、こちらを向いた。

「…やっとかないとね」

(いや、いいよ。明日で)

そう言えるはずもなく、私はただ首を傾げる。

「………先、帰っていい?」

(もう、帰りたい)

「……」

彼は私と視線を合わせたまま、少しだけ止まった。

そして何も言わず、再び発注用紙へ視線を落とす。

(え、帰るなってこと?)

分からない。

(私に何をしろと?)

別に、彼が一人になるわけでもない。

少し離れたところでは、料理長が相変わらずパソコンに苦戦している。

厨房内の締め作業も、もう終わっている。

私が残ったところで、できることなんて特にない。

本当に、彼の意図が理解できなかった。


(……まぁ、いいか)

小さく息を吐く。

そして、少しだけ格好をつけるように告げた。

「…なら、付き合ってあげよう」

言った直後、なんだか急に恥ずかしくなった。

彼がどんな顔をしているのか確認することもできず、そのままくるりと背を向ける。

(……何言ってんだ、私)

誤魔化すように、離れていき、すでに終わっているはずの磨き作業を始めた。


しばらくして、彼がこちらへ歩いてくる。

どうやら、終わったらしい。

「終わった?」

「終わった」

そのまま私たちは、料理長に挨拶を告げる。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

そして、それぞれの更衣室へと入っていった。


***



私の着替えは、とにかく早い。

長年培われた癖なのか。

それとも、いつだって一刻も早く帰りたいという気持ちが強すぎるのか。

今日も彼より先に着替えを終えた私は、さっさとタイムカードを切り、そのまま帰ろうと廊下を歩く。


その途中、向こうから歩いてくる彼とすれ違った。

「おつかれ~」

「おつかれ。今日、真っ白じゃん」

「せやで」

その場で立ち止まり、見せびらかすようにポーズを取る。

白いトップスに、白いボトムス。

意識していなかったが、確かに、上から下まで真っ白だ。

私はボケているつもりなので、羞恥心はどこかへ行っている。

その間にできたはずの数秒の差は、いつの間にかなくなっていた。


「……」

「……」

どちらからともなく、隣を歩き始める。


特に何かを約束したわけでもなく、自然と歩調は揃っていく。

他愛もない話をしながら、二人で駅までの道を歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。