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第二話『微睡む竜の半眼』-3-

 悠太郎は光莉の誘いにのって、近所のファミリーレストランへと立ち寄った。蒸気が立ち込める熱環境都市の道は暗い。省電力体制で照明は半分になっているが、インプラントの目は暗闇でも足の運びを見ているし、位置測位システムはいつでも居場所を理解できているので問題はなかった。


 ファミリーレストラン・ゲットオン。


 新品の店舗というには、少し、薄汚れた壁面が照明に照らされている。月に腰掛けた少女のシルエットの看板がネオンに輝く。


 全国展開のどこにでもあるチェーン店の一席に、五人ばかしの人が集まった。悠太郎は少し、居心地の悪さを感じながら自己紹介を聞いていた。彼自身については、全員と顔見知りである光莉に勝手に進められ、背中を押されもして終わっている。


「どこの大学かなんて省略でいいよな?虎徹だ」


 虎徹。勇ましそうな名前だ。実際は天然かそういう髪型にしたのか、パーマな丸縁眼鏡だ。アクが強いなと悠太郎は思った。


「榊ちゃーー榊です」


 自分をちゃん付けというのは、ぶりっ子のような感じが強いが『彼』は真っ赤になるほど恥ずかしがっていた。悠太郎は聞かなかったことにして流した。


「重秀です!よろしくお願いします!」


 一番小さい重秀は一番声が大きかった。悠太郎のグラスで炭酸を弾けさせるサイダーが、少し揺れていた。


 自己紹介もそこそこにテーブルに並べられる資料の数々と、飛び交う言葉で満たされた。データリンクから外れた悠太郎でもアイボールで捉えられたデータを見れば、それがどれも、光莉が趣味としている研究とまったく関連の深いものであるとわかった。


 悠太郎はそんな『濃いオカルトマニアたち』と同じファミリー席の端で、もそもそとタラコスパゲティの特盛とドリア大盛りを食べる。


 タラコとオイルがスパゲティとよく絡まり、刻んだ紫蘇が口を爽やかにするアクセントになっていた。悠太郎は特に喋ることもないだろうと、ハムスターの頬袋のよいにもしゃもしゃと食べる癖をしていた。だがそう油断していた直後に、


「悠太郎さん」


 突然、名前を呼ばれた悠太郎は、むせながらもサイダーで喉と口の物を流し「なんでしょうか」と答えた。声をかけてきた人物の正体はどうやら、虎徹だ。


「サイダー、新しいのを入れてきましょうか」


 見れば確かに、グラスを空けていたが、


「いえいえ、自分でいきますよーー」


 悠太郎は一番奥の席であり、ジュースサーバーに行く為には、光莉と榊という二重の防壁を越える必要があった。対して虎徹は、一番外側、つまりは悠太郎とは真逆の対面通路側だ。


 忙しそうなな店員が、奇妙な刺青の横顔に晒しながらクルクルと忙しそうに滑っている。忙しそうなだけで、客の相手をしているわけではないようだが。


「ーーすみません、お願いします」


 悠太郎はお願いした。善意には乗っかるものだ。乗りすぎるのも問題だが、これくらいならいいだろうと悠太郎は思った。


「おまちどうさま、です」


 早足の虎徹が新しいサイダーの注がれたグラスをくれた。言葉のクロスファイアー感があった。光莉を含めた他の人間も、悠太郎が見る限りでは、議論は白熱しているようだ。ただ、空いた店内では声がよく響いた。店員はいつも笑っているので、注意するつもりなのか呆れているのか、何も感じていないのか察することはできない。


 虎徹が話の種を蒔いた。


「俺は創作という前提で、この古代遺跡を追っているんですよ。面白いと思いませんか。銃に魔法、ガンファンタジーだ。フリントロックファンタジーだと言う人もいますけれど、フリントかはわかりませんし」


 気を遣ってくれているのだろうか。気にしなくてもいいのに、内心ではそう思う悠太郎だが、ちょっぴり嬉しかったりする。彼は寡黙だがおしゃべり好きなのだ。


「そうですね。銃と魔法、もっと言えば科学と魔法は別物であるというのは、少し前のファンタジー作品の普通でしたからね、えっと、虎徹さん」

「どうも、虎徹です。正確には銃らしきものであって、銃とは違うのかもしれませんが。その辺は、悠太郎さんどう思いますか」

「うーん。クー・フーリンの槍、ゲイ・アイフェあるいはゲイ・ボルグは投げれば三十の鏃に変わって降り注ぐこともあるそうですし、それって自動小銃のようで、銃の項目でこの槍が紹介されることもありますよね。確かに、銃と思っている形ではないのかもしれません」

「いいですね。X物語……あぁ、これは身内内であの粘土板や発掘品関連に紐づけたものの仮名なんですが……」


 虎徹は、満足な答えを聞いたような表情だ。


「銃、あるいは銃らしき何か。これが本格的に現れるのは、第Ⅲ軍団が編成されるよりも前なんですけれど、本格的にかつ大々的に表現されるのはエクランドスが導入したからなんですよ」


 第Ⅲ軍団、魚と黄金手の軍団旗を掲げるエクランドスの拳だ。だが、どうしてエクランドスは第Ⅲ軍団をもったのか、悠太郎にはわからなかった。兄たちに負けたくないと、同じものを望んだからなのか。あるいは別の目的があったのか。目的、道程、その結果。


 悠太郎には理解がおよばないことだ。


「第Ⅲ軍団の編成が引き金で色々起こるけど、私としてはヒストリカルな面はあんまりなんです。でも神話の類似性、それも原典とは真逆の、既存の神話を下手に逆引きしたような設定の数々が、何よりも過去という形で再現されているのは変な話ですよね。だからこそ、興味があるんですが」

「例えば、何があるのでしょうか」


 虎徹は少し考えて、


「第Ⅲ軍団編成の前になるのですが、エクランドスの辺境種族花婿旅でしょうか。あっちに引っ張られこっちに引かれ、色々な文化と技術がめまぐるしいのが、なんといいますか、お腹一杯になるのです」


 虎徹は、第Ⅲ軍団が少数の歴戦兵を連れてサリサス人の土地に入った話をしてくれた。狼の群れを引き連れて、『人間とは言えない者』を繋いでいくのだ、と。

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