↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/76

大好きな人達の守り方


 注文したスープパスタを食べ終えたセレッソ達は、食後のミルクティーを飲みながらまったりと話をしていた。

 話題は主にイサーク一座の舞台の事や脚本の事だ。

 わいわいと楽しく話している時に、ふっとセレッソは、先日イサークがベナード隊の隊舎に来た時の事が浮かんだ。

 あの時、イサークを見送っていたマルグリートが、何かを言いかけた事を思い出したのだ。


「そう言えばマルグリートさん、この間、隊舎にイサークさんがいらっしゃった時に、何か言いかけていませんでした?」 

「え?」


 尋ねられたマルグリートは目を瞬いた後、ピエールを見た。少しだけ不安げである。

 そんなマルグリートにピエールが「大丈夫です」と頷くと、彼女はやや緊張した面持ちで話を始めた。


「セレッソはさっき、イサークさんの所に来ていた人の事、覚えてる?」

「ええ。イサークさんと話をしていた男の子の事ですわね」


 思い出しながらセレッソが言うと、マルグリートは頷く。


「あの子けだじゃないんだけどね。ああいう人達がイサークさんの所に良く来るの」

「それは仕事の話とかではなく?」


 セレッソがそう言うと、マルグリートは首を横に振った。


「イサークさんが仕事の話をする時は、もっと楽しそうな顔をするわ。セレッソと話をした時はワクワクした顔をしていたもの」


 言われてみれば生き生きとした顔をしていた気がする、とセレッソは思った。

 セレッソは付き合いが短いので『気がする』くらいの感覚だが、はっきりと言い切れるくらいにマルグリートは彼らの事を見て来たのだろう。


「だけど、あの男の子や、あの子みたいな人が来た時は、楽しそうな顔をしていなかった。その時のイサークさんは、決まって難しい顔ばかりしているの」


 マルグリートはセレッソを見る。

 真っ直ぐで綺麗な目だとセレッソは思った。


「でもね、あたし達が傍にいると、その人達は直ぐにいなくなるの。それで、あたし達がいる時は寄り付かなくなるの」

「マルグリートさん達がいるとですか?」


 セレッソの言葉にマルグリートは頷く。


「あたし達が一緒にいたり、さっきみたいに現れると、あの人達はサッといなくなっちゃうの。あたし達だけじゃなくて、お客さんとかもそうだったと思う。とにかく、他人に見られるのが嫌みたいで、さっきみたいに渡そうとしていた物だって隠して、直ぐにいなくなっちゃうの」


 マルグリートの話を聞きながら、セレッソが右手を頬にあてて考える。

 彼女の話から推測するに、マルグリート達が現れると直ぐにいなくなるのは顔を覚えられたくないからだろう。

 顔を覚えられたくないのは、基本的に後ろめたい何かがあるからだ。他人の前で物を渡す事を躊躇う事も合わせると、その可能性は高くなる。

 そんな彼らはイサークに何かを頼んでいる。それが明るい内容ではない事はセレッソにも分かった。


「……その人達がいなくなった時ね、イサークさんが一瞬ほっとした顔したの」


 マルグリートは視線を落とす。膝の上で組んだ手がぎゅっと強く握られた。


「もしかして、嫌なんじゃないかなって。その人達の事を好きじゃないのかなって思ったの。……だから、あの人達が来ないように、あたし達が近くにいたら良いんじゃないかって思ったのよ」


 だからマルグリートとピエールはイサーク一座の近くにいたのだ。どこへ公演に向かってもその後を追いかけた。迷惑がられても、鬱陶しがられても引っ付いていた。

 それが彼女達が考えた大好きな人達を守るための方法だったのだ。

 手放しで褒められる行動ではないのかもしれない。だが、それでも二人は純粋で、真っ直ぐだ。自分達に出来る事を考えて実行したのだ。

 セレッソはそれを尊いと思い、共感を覚えた。そして何とか力になりたいと思った。


「だからマルグリートさんとピエールさんは、イサーク一座に入りたかったんですのね」


 セレッソがそう言うと、マルグリートは顔をかいて笑った。


「あっでもね、もちろんそれだけじゃないよ。あたし、イサークさん達の舞台、大好きなの!」


 胸を張って言うマルグリートに、ピエールは優しい眼差しを向ける。イサーク一座を守りたいマルグリートを、ピエールもまた守りたいのだろう。

 セレッソはマルグリートの言葉に頷くと、イサーク一座に近づく人間の話を聞いた。


「イサークさんの所に来るのは、あの少年以外にもいるのですわよね?」

「うん。見たことがあるのは、フードを被った大柄の男の人とか、綺麗な女の人とか……あと商人っぽい人も見たかなぁ」

「商人っぽい人ですか?」


 商人っぽい、という言葉を聞いて、セレッソの脳裏にふっとロシオの顔が浮かんだ。

 ロシオはコンタール山で意識不明で倒れており、今日になってようやく気が付いたという連絡を受けたばかりである。

 マルグリートの話と、あのコンタール山で倒れていた事が合わさり、セレッソは妙に気になった。

 ロシオは今、イサーク一座のジャンヌが向かったと言う診療所にいるはずだ。


「ロシオさんもいる事ですし……ジャンヌさんの様子を見がてらお見舞いに行ってみようかしら」


 商人という言葉が頭から離れず、セレッソが呟く。

 それを聞いたマルグリートが手を合わせて嬉しそうに言った。


「えっジャンヌさんに会いに行くの!? いくいく!」


 どちらかと言うと会いに行くのはロシオの方なのだが、マルグリートは乗り気だ。ピエールも止める様子はない。

 これは連れていかざるを得ないだろう。

 セレッソは苦笑しながら、


「それじゃあ、シュークリームでも買って、お見舞いに行きましょうか」


 と言うと、シュークリームという言葉が聞こえたらしきパステルが、笑顔で「まいどー!」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。