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精霊祭の人探し

 コンタールの冬の精霊祭の目玉は何と言っても劇団の公演である。

 普段から娯楽の少ないコンタールの町の住人達は、数日前から今日と言う日を楽しみに待っていた。

 それはもちろんコンタールの町の騎士達も同様にである。

 

 公演の何日も前からセレッソやレアル達は妙にそわそわしていた。

 理由は精霊祭にやって来る劇団の事である。

 セレッソやレアルは言うまでもないが、普段ならばそれを注意しているであろうシスネまでもがそう(、、)なのだ。

 余程楽しみにしているのだろう。


 とは言え、精霊祭では騎士も騎士なりの仕事がある。

 精霊祭の当日の騎士隊の仕事は、そのほとんどが町の巡回と、あとは祭の熱に浮かれた住人達を程ほどに抑える事である。

 つまり、外回りだ。

 隊舎には最低でも誰か一人待機していれば良い為、精霊祭の当日はほとんど全員がコンタールの町の巡回に出る事になっていた。

 

 ちなみに今回、隊舎に残っているその一人というのは、ルシエである。

 精霊祭の前日、誰が隊舎に待機しているかという話になったのだが、真っ先にルシエが手を挙げたのだ。 


「私が残っているから大丈夫よ」


 そんなルシエの言葉にシスネが『とんでもない!』と首を振る。


「いえ、大丈夫です副隊長。ここは皆、平等に」

「そうだとも! 腕……相撲ではなく、ジャンケンで決めようではないか!」


 流石のレアルも今回ばかりは腕相撲は外したかったようだ。

 勝負に絶対(、、)はないが、可能性としてならば誰が負けるかは予想がつく。

 その言葉にルシエは困ったように微笑み、首を横に振ると、


「私は、その……ひ、人混みがちょっと……」


 そっと目を逸らしてそう言った。

 シスネとレアルの目が丸くなる。

 この間の冬の討伐の際に、慰労会まで普通に過ごしたものだから大丈夫かと思ったら、そうでもないらしい。

 以前ローロが「討伐が終わったら寝込む」と言っていたが、どうやら冗談でもないようだ。

 そんな理由で、精霊祭の日はルシエが隊舎に待機する事になったのだった。




「精霊祭~精霊祭~」


 ふんふんと鼻歌を歌いながらセレッソはベナードと共にコンタールの町を巡回していた。

 正確に言えばベナードが巡回をしていて、セレッソはその付き添いのようなものだ。

 スキップでもしそうな勢いのセレッソを見ながら、ベナードはカラカラと笑う。


「あんまりはしゃいでいるとすっ転ぶぜ?」

「大丈夫ですわ! 転んでもバク転してやりますの!」

「大丈夫な部分が見えねェんだが」


 ベナードがそう言うと、セレッソは「お任せ下さいな!」と言わんばかりに、片手で力瘤を作った。

 もう片方には相変わらずチェロケースが握られている。

 軽々と持ち運んではいるが、その中にあるのは言わずもがな、バトルアックスだ。

 このチェロケースはセレッソの荷物入れ兼武器ケースである。


「いつも以上に賑やかですわね」

「ああ、まぁ、祭りの時は大体こんなもんだなァ」

「それに、見た事のない方々もいらっしゃいますわね」


 ふっと真面目な顔になってセレッソが言うと、ベナードも周りを見回しながら頷いた。


「ああ。劇団の公演があるって聞いて集まってきたんだろう。多分、来る劇団が割と有名な所だからなァ」

「イサーク一座でしたっけ」


 ベナードの言葉にセレッソは顎に指をあてながら呟いた。

 イサーク一座とは、主にムーシカと呼ばれるアルディリアの王都に次いで二番目に大きな町を拠点として活動する劇団の事だ。

 元々は旅芸人の一座で、芝居をしながらアルディリア各地を回っていたのだが、その芝居が評判を呼んで数年前からムーシカに小さな劇場を持てる程となった。

 セレッソも噂には聞いていたが実際に見るのは今回が初めてである。


「でも、そんな有名な方々を良く呼べましたわねぇ」

「コンタールの商工会が今回は特に頑張ったらしいぞ」

「おお」


 セレッソは目を丸くして感心したように手を打ち鳴らした。

 有名な劇団を呼べば有名な分だけ費用は掛かる。

 だがそれ以上にコンタールはアルディリアの北にある田舎町だ。

 移動までの費用も掛かる為、依頼をしても大抵は渋られる。

 それらのどの点から見ても、今回のイサーク一座を呼べたのは相当に珍しい事である。


「……まぁ、気合を入れた理由は、何となく分かるがな」

「?」


 ベナードが小さく笑ってそう言うと、セレッソは首を傾げた。

 そんな話をしている時だ。


「セレッソ!」


 ハッと何かに気が付いたベナードが、セレッソの手を強く引いて、彼女の足を止めた。

 セレッソが目を瞬いてベナードを見ると、その次の瞬間、


「ま、ま、マルグリートお嬢さん! ま、ま、待って下さいよ!」

「もー! 早くしないと良い場所で見られないよ、ピエール!」


 と、二人の目の前を金髪の少女と、茶髪の少年が勢いセレッソ達の目の前をよく横切って行く。

 このまま歩いていたら間違いなくぶつかっていただろう。


「おーい、お前ら! ちゃんと周り見て走れー!」 

「ご、ごめんなさーい!」

「すみませーん!」


 ベナードがそう言うと二人は振り返ってそう言った。

 会話の様子からするに彼女達もイサーク一座の公演を見に来たようだ。

 セレッソは走って行く二人の背中を見送った後、


「あ、ありがとうございます」


 と、少し頬を染めて礼を言った。

 ベナードはセレッソの手を放すと「いいや」と笑って首を横に振る。


「あの子達も町の人間ではないですわよね」

「ああ。いやぁ、イサーク一座の人気はすげェもんだなァ」


 とは言え自分達の町の精霊祭の方は良いのかとも思わなくもないのだが。 

 セレッソとベナードがそんな事を考えながら再び歩き出すと、今度は先程の二人が走って来た方角から「お姉さん!」という声が聞こえた。

 足を止めてそちらを見ると、そこには何かを手に持ったクルトゥーラが立っている。

 セレッソが「クルトゥーラ?」と声を掛けると、クルトゥーラは二人に駆け寄って来た。


「こ、こんにちは、セレッソお姉さん、ベナードお兄さん」

「こんにちは、クルトゥーラ。どうしたんですの?」


 セレッソがしゃがんで視線を合わせて尋ねると、クルトゥーラは頷いて話始めた。


「あ、あの、金色の髪の女の子と、茶色の髪のお兄さんを見ませんでしたか?」


 クルトゥーラの言葉にセレッソとベナードは顔を見合わせる。

 つい先ほど、セレッソがぶつかりそうになった二人組。

 一瞬の事ではあったが、確かそんな髪の色をしていたはずだ。


「それなら、今しがた見たぞ?」

「あ、あの、どっちに行きましたか? その、落し物を、拾って」


 そう言ってクルトゥーラは右手を開く。

 そこには凝った作りの万年筆があった。


「なるほど、それじゃあ追いかけねェとな。俺達から渡しておこうか?」

「だ、大丈夫、です。あの、わたし……自分で、頑張って、みます!」


 ベナードの申し出にクルトゥーラは首を振ると、力強くそう言った。

 クルトゥーラの様子にセレッソとベナードは少しだけ目を見張る。

 口調こそまだおどおどとしているが、以前会った時よりもどこかしっかりとしているように見えた。

 セレッソは立ち上がると、


「それなら、一緒に探しましょうか!」


 と、にこにこ笑って言った。

 今日は精霊祭の日だ。コンタールの外からも、人が大勢やって来ている為、子供が一人で探すのは大変だろう。

 セレッソの言葉にクルトゥーラは大きく目を開き、ベナードを見る。

 ベナードもまた『任せとけ』と言わんばかりにニッと笑って頷く。

 クルトゥーラは二人の言葉に、


「はい!」


 と、嬉しそうに頷いた。




 それからセレッソとベナード、クルトゥーラは万年筆の持ち主を探してコンタールの町の広場に向かった。

 万年筆の落とし主はイサーク一座の公演を見に来たはずだ。

 それならば広場にいるはずだとセレッソ達も広場の方へと向かったのだが、広場の隅から隅まで探しても見当たらない。


「あー、こりゃ、どこかで迷ったか?」


 うーむ、とベナードは腕を組んだ。

 コンタールは田舎町と言だが、大通りを逸れて路地へと入れば意外と入り組んでいる。

 先程セレッソと万年筆の持ち主がぶつかりそうになった場所から広場へは比較的真っ直ぐではあるのだが、近道をしようと路地へ入れば全く違う場所へ出てしまう。

 急いでいた様子から見ても、その可能性は大いにある。


「あとは、万年筆を落とした事に気が付いて、探しに戻った、でしょうか」


 クルトゥーラが万年筆をぎゅっと握りしめて、眉尻を下げて困ったように言った。


「その可能性もありますわね。うーん、一度戻った方が良いか、それともここで待っていた方が良いか……」

「公演は夜だからなァ。暗くなるまで待っていると、顔が見えなくなるし……」


 どうしたものかとセレッソ達が考えていると、ふと、誰かが声を掛けた。


「おや、どうかされましたか?」


 顔を向けると、帽子をかぶった一人の男が立っている。

 セレッソはその男の顔を見て「あ」と口を開いて、軽く会釈をした。


「こんにちは、ロシオさん」


 そう、セレッソが先日教会で会った商人のロシオである。

 ロシオはにこやかな笑顔で帽子を取って「こんにちは」と挨拶を返す。


「何かお探しですか?」

「ええ、少し人探しを」


 そう言ってセレッソがロシオに探している二人組の特徴を言うと、ロシオは少し考えた後でポンと手を打ち鳴らす。


「それなら、一度来て、あちらの方へ戻って行くのを見かけましたよ」

「本当ですか!?」

「ええ、面白――――じゃなくて、賑やかな二人だったので、覚えています」


 ロシオの話では、その二人は勢いよく広場へ駆け込んで来たは良いものの「万年筆がない!」と叫んで、来た道をまた戻って行ったらしい。

 だが同じ道を来たセレッソ達が二人の姿を見ていない所から察するに、恐らく途中で迷ってしまったのだろう。


「私はイサーク一座の公演まで広場で手伝いをしておりますので、その二人が戻って来たら話をしておきますよ」

「良いのかい?」

「ええ、恩を売っておけば吉かなと」


 セレッソを見ながらさらりと言ってのけたロシオに、セレッソはこめかみに手をあてて曖昧に笑い返す。


「あらやだ、おほほほほ……そ、それでは、お願いしますわね!」

「はい、任されました」


 セレッソがそう言うと、ロシオはにこりと笑い返した。

 そのままセレッソ達は来た道を戻り始める。

 ベナードだけは一瞬ロシオを振り返ったが、何も言わずに顔を前へと戻す。


「商人に目をつけられるとしつこいぞ」

「ええ、本当に、レアルさんの腕相撲くらいしつこいですわね」


 セレッソがそう言うとベナードは噴き出して笑い、クルトゥーラは不思議そうに首を傾げて二人を見上げた。

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