プロローグ
精霊祭の当日、コンタールの町は普段よりも賑わっていた。
精霊祭の為に飾り付けられた町は鮮やかで、町のあちこちに作られた雪像の周りにはわいわいと人が集まっている。
中でも一番の力作は広場に作られた小屋くらいの大きさの城だ。
以前の雪合戦の際に教会で作られたものよりも遥かに立派で、細部まで凝った作りである。
言わずもがなレアルとサウセの力作だ。
雪の城は中に入る事が可能で、周りでは子供達がきゃいきゃいと楽しそうにはしゃいでいる。
子供達が中ではしゃいで壊れるかと思いきや、それも想定していたようで、雪の城は予想以上にしっかりと作られていた。
そんな雪の城を、感心した顔で見上げる中年の男がいる。
「こりゃすげぇわぁ」
男はただただ感心したようにそう呟く。
見た目は四十代前半くらいだろうか。がっしり筋肉のついた体格をした男だ。
ボサボサの髪と無精髭を生やしたその男は、見た目だけで言うなら冒険者のようだが、身に纏っているのは鎧ではない。
ごくごく普通の衣服である。
ただしその衣服の素材はとても質の良い物だった。
一見するとチグハグな組み合わせではある。
だがその服装は、ある場所へと立てば、一瞬でカチリと噛み合うように考えて作られた物だった。
「座長ー! 荷物を降ろし終えましたー!」
「おー、今行くー!」
仲間に声を掛けられ、男は手を振って返事をした。
そう、呼びかけられた言葉通り、男の職業は『座長』と呼ばれるものである。
座長と呼ばれる職業にも色々あるが、この男の場合は、コンタールの町の住人にとっては待ち望んだ物の座長だ。
「それじゃあ、イサーク一座のコンタール公演、頑張るとしますか!」
座長と呼ばれた男は空に向かって大きく両手を伸ばすと、楽しげにそう言った。
男の名前はイサーク。
コンタールの住人達が楽しみに楽しみに、それはもう楽しみに待っていた劇団、イサーク一座の座長である。




