ウルフキング
――辺境。
リドーアの街を出発してから、数時間。4人の少女たちは、ラント達と共に荒れた街道を進む馬車に揺られていた。舗装された道路から獣道のようになっており、これまで見てきた景色とは明らかに違う。道の両脇には背の高い草が生い茂り、その向こうには人の手がほとんど入っていない森が広がっている。鳥の鳴き声すら少ない。風が吹くたびに木々がざわめくが、それ以外には何も聞こえなかった。その静けさが、逆に不気味だった。
「……ここが、キルディス王国の辺境」
アリサが周囲を見回しながら呟く。
「思ってたより何もないね」
「何もないというより、人の生活圏から遠いってことでしょ」
セラの独り言にミリアが答える。
「馬車が通れる道は一応ありますけど……かなり荒れていますね」
リゼットが馬車の外を見ながら言う。
「人があまり通らないからでしょうね」
セレナも周囲を見渡した。そして、眉を寄せる。
「……」
「セレナさん?どうしたの?」
アリサが声をかける。
「……恐らくこの先、魔物がいます」
「え?」
アリサが当たりを見渡す。しかし、そこには何もおらず、気配も感じられない。
「どこ?」
「あそこの洞穴が巣だろうな」
ラントが少し先に見える洞穴を指さす。指さされた方には大きめの洞穴があり、入り口付近にウルフが数体。リンクスが手綱を引き、馬車を止める。
「ここからは歩いて近づく。降りてくれ」
リンクスの言葉に、皆が馬車を降りる。洞穴から数百メートルの距離。歩いて洞穴まで数十メートルのところにある岩陰まで移動する。ウルフたちにはまだ気づかれていない。
「セレナ」
「はい」
セレナがラントの呼びかけに応じる。セレナはアリサたちを見ると、静かに口を開いた。
「あなたたち、私の近くに集まって」
「え?」
「早く」
いつもの柔らかな口調ではなかった。その声を聞いた瞬間、4人は反射的に動いた。アリサ、ミリア、セラ、リゼットがセレナの周囲に集まる。
「今からあなたたちに隠匿魔法をかけるわ。それであなたたちから仕掛けなければ、ウルフに見つかることはない。この岩陰で見学すること。いい?」
「はい」
4人はセレナの問いかけに頷き、返事をする。ウルフに気づかれぬよう、声を小さくして。セレナはその返事を聞くと、右手を前に出した。
「《ハイド》」
淡い魔力が広がった。4人の身体を包み込み、すぐに消えていく。
「……これで、見つからないの?」
ミリアが自分の腕を見ながら呟いた。
「あなたたちの気配を隠したの。匂いや音まで完全に消えるわけじゃないけれど、魔力による探知や気配察知からはかなり見つかりにくくなる。この距離だったら大声を出したりしなければ見つからないわ」
セレナが説明する。
「すご……」
アリサが自分の手を見つめながら目を丸くする。実感はできないが効果は既に発動しているのだろう。
「こんな魔法も使えるんですね」
「賢者だからね」
リゼットの呟きにセレナは微笑んだ。
「お前たち、しっかり見ておけよ」
ラントが4人を見つめる。4人はそれぞれラントの言葉にうなずく。
「よーし!いいところみせなくちゃな!」
「足を引っ張るなよ。リンクス」
「お前こそな」
憎まれ口を叩きあうラントとリンクス。やれやれといった様子で2人の後ろを歩くセレナ。3人が洞穴に近づいていく。まだ言い合いをしているラントとリンクスの姿を捉えたウルフの一体が唸り声を上げる。
「グルルル……」
「グルル……」「ガルッ」「ガウッ!」
最初の1匹の唸り声で敵に気づいたほかのウルフたちも次々と姿を現しては唸り声を上げる。灰色の毛。鋭い牙。黄色く光る目。
「あれがCランクの魔物、ウルフ……」
リゼットが息を呑む。1匹や2匹ではない。見える範囲だけでも10匹以上。さらに森の奥には、まだ気配がある。
「いっぱいいる……」
セラが小さく呟く。アリサは岩陰からラントを見る。
「ラントさん……」
ラントはリンクスとの言い合いを止め、腰の剣に手をかけた。その隣に、リンクスが並ぶ。
「来るぞ」
「分かっている」
リンクスの言葉にラントが答える。セレナは2人の少し後ろに立ち魔力を練る。
「私が補助するわ」
「ああ」
「任せる」
ラントとリンクスが前に出る。ウルフたちも一斉に身構えた。次の瞬間―――
「ガウッ!」
1匹のウルフが飛び出した。地面を蹴り、一気に距離を詰める。ラントは動かない。ギリギリまで引きつけてから、身体を僅かに横へずらす。
「――ッ!」
ウルフの爪が空を切った。ラントはすれ違いざまに剣を振る。急所への一閃。ウルフが血を噴きだしながら地面に転がる。
「速い……」
アリサが思わず呟く。左右から3匹ずつ、さらに正面から4匹。ラントに迫る。
「リンクス!」
「分かってる!」
リンクスが前へ出た。槍を回し、正面の3匹へ横薙ぎ。4匹の顔面に一撃、3匹のウルフの命を一瞬で刈り取る。その勢いにウルフたちが怯む。そこへラントが踏み込む。
「そこだ」
剣を横薙ぎ、1匹。返す刃で2匹目。さらに踏み込み、3匹目。動きに一切の無駄がない。
「……」
アリサは目を離せなかった。自分も剣を使う。だからこそ、ラントの動きがどれだけ異常なのかが分かる。
「剣を振っているというより……」
ラントは大きく動いていない。ウルフが攻撃する。避ける。そのまま斬る。次のウルフが来る。身体の向きを変える。斬る。まるで敵の動きが最初から分かっているかのようだった。
「すごい……」
リゼットも呟く。
ラントの左から3匹のウルフが迫る。ラントは左からの接近に気づいたが、目の前のウルフを対処することを優先。ウルフの鋭く尖った牙がラントに迫り―――
「《ウインドカッター》!!」
セレナの魔法がウルフの牙がラントに到達するより先にウルフの体を切断。鮮血が散る。ラントはあえて避ける動作をしなかった。セレナの魔法の方が速い、任せられると分かっていたから。
「まだ来るぞ!」
リンクスが2人に声をかける。さらにウルフが洞穴から飛び出してくる。数が多い。10匹、20匹と次々と現れる。
「あんなに……」
セラの顔が青ざめる。
「ウルフは群れで行動する魔物ですけれど、この数は......」
「率いられている可能性が高い。ここにいるんだろう」
セレナが洞穴の奥を見る。太陽の光が奥まで届いておらず、先が見えない。
「まず、周りを片付けましょう」
その言葉を待たずしてウルフが襲い掛かってくる。ラントが1匹のウルフを斬り伏せた。リンクスも別のウルフを吹き飛ばす。セレナは魔力を練り、ラント、リンクスに向けた。
「《パワーブースト》」
淡い光が2人を包む。
「助かる!ラント、左」
「分かった」
「リンクス、後ろから3匹」
「任せろ!」
セレナは戦場全体を俯瞰して見ている。ラントとリンクスの補助をしつつ、ウルフへの攻撃も怠らない。
「リンクス、1歩下がって!」
セレナの声を聞き、即座にリンクスが下がる。その直後、ウルフが数秒前リンクスがいた場所に飛び込んできた。
「そこ!《ショックボム》!」
小さな爆発がウルフの眼前で起こり、ウルフは思わず怯んだ。リンクスの攻撃がその一瞬の隙を逃さない。
「……完璧」
アリサが呟いた。
「ラントさんもリンクスさんも......強い」
「セレナさんが戦場を動かしてる」
ミリアが答える。リゼットも頷いた。
「ラントさんたちだけじゃなく、敵の動きまで……」
4人は食い入るように戦いを見ていた。
やがて、最後のウルフがラントによって切り伏せられ、倒れた。だが、ラント達は臨戦態勢のまま洞穴の奥を見つめている。
「来たな」
洞穴の奥から大きな遠吠えが聞こえた。
「……え?」
リゼットが息を呑む。地面が揺れる。洞穴の奥から、何かがゆっくりと姿を現した。それは巨大な狼だった。普通のウルフとは明らかに違う。体長は人間の2倍近い巨躯で2足歩行、灰色の毛並み、頭部には傷跡が走り、鋭い牙が口元から覗いている。そして、その目は、他のウルフとは比べものにならないほど鋭かった。
「……ウルフキング」
セレナが呟いた。
「嘘……」
アリサの顔が強張る。
「さっきの全部……こいつの群れ?」
「そういうことね」
セラの呟きにリゼットが応じる。
「気をつけて。さっきまでとは別物よ」
「グルルルル……ウオォォォォォォォォォォォン!!」
ウルフキングの遠吠えが響く。その声だけで空気が震え、ラント達に衝撃が伝わる。ラントが一歩前へ出る。
「リンクス」
「分かってる」
「正面は任せる」
「お前は?」
「隙を作る」
「了解」
短いコミュニケーションで作戦を共有する。セレナも少し後ろへ下がる。
「私が補助するわ」
ウルフキングが地面を蹴った。踏み込んだ地面が砕かれている。
「速い!」
アリサが叫ぶ。灰色の巨躯が一瞬でリンクスとの距離を詰める。リンクスが槍を構え、ウルフキングの攻撃を防ぐ体勢に入る。
「ぐっ!」
巨大な爪がリンクスを襲う。リンクスは槍の柄で攻撃を防ぐが、衝撃までは殺しきれず後方の岩壁に打ち付けられた。
「リンクス!」
ラントが吹き飛ばされたリンクスに声をかける。その時、ラントは、ウルフキングの灰色の瞳が自分を鋭く見つめていることに気づいた。ウルフキングがラントへ標的を変えている。鋭い牙の並んだ口が開く。
「ラントさん!」
セレナの叫びを聞き、瞬時にラントが横へ跳ぶ。その直後―――
ウルフキングの口から放たれた魔力の弾が、先ほどまでラントがいた場所を吹き飛ばしていた。半径5メートルほど、地面が半球状に抉れている。
「……危なかったな」
ラントがウルフキングから距離を取る。
「今のをまともに受けたら、腕を持っていかれるわ」
「分かっている」
ラントは剣を構える。その表情が、少しだけ険しくなっている。
「こいつ……強いな」
岩陰にいる4人も息を呑む。ラントが苦戦している。それだけで、ウルフキングの強さが分かった。
「ラントさんが……」
セラが不安そうに呟く。
「大丈夫」
ミリアが言う。
だが、その声にも僅かな緊張が混じっていた。リンクスが立ち上がる。
「うぐっ......痛ぇ……」
「《ヒール》。まだ動ける?」
「ああ、問題ない。助かった」
リンクスはセレナの回復魔法で傷を癒すと槍を構え直す。
「だが、真正面から受けるのはやめたほうがいいな」
「同感だ」
ウルフキングが再び向かってくる。今度の標的はラント。ラントが迎え撃つ。
「――ッ!」
剣と爪がぶつかり金属音が響く。ラントの身体が僅かに後ろへ押される。正面で受けなければ間に合わず、爪で引き裂かれていたであろう。
「重い……!」
そのままの体勢でウルフキングが頭突きを繰り出す。ラントは剣を横に逸らし、爪を受け流した。しかし、ウルフキングは身体を回転させ、巨大な尾を叩きつける。
「くっ!」
ラントが腕で防ぐ。衝撃が全身を貫き、身体が横へ飛ばされた。ラントは地面を転がりながらも、すぐに立ち上がった。
「……平気だ」
口元を拭う。血が少し付いている。
「でも、まともに戦えば押し切られるわ」
「なら、まともに戦わなければいい」
「どうする?」
リンクスがラントに問う。
「こいつは力が強い。だが、予備動作が大きく動きに僅かな隙がある」
「その隙を突く?」
「ああ」
セレナが頷き、
「私が動きを止めるわ。ラントさん、3秒程度隙があればいけますか?」
「3秒なら」
「リンクスは?」
「十分だ」
ウルフキングの咆哮が空気を揺らし再び突進、狙いはラント。
「今!《チェーンバインド》!」
地面から魔力の鎖が伸び、ウルフキングの四肢に絡みついた。鎖の擦れる音が響く。
「ガアッ!」
ウルフキングの攻撃が鎖によって妨害される。だがウルフキングが暴れ、耐えきれず魔力の鎖が次々と砕ける。
「長くは持たない!」
「十分だ!」
リンクスがウルフキングの懐に潜り込み、槍を横薙ぎに振る。ウルフキングが身体を捻るが、完全には避けられず槍が肩を切り裂いた。
「ガアアアッ!」
ウルフキングが吠える。切り裂かれた痛みで動きが一瞬硬直する。その隙に、ラントが懐へ入り込んだ。
「そこだ」
剣を振る。しかし、ウルフキングが身体を捻ったことで剣は深く入らない。
「……浅い!」
ラントが舌打ちする。ウルフキングの口が動く。さっきの魔力弾と判断し咄嗟に防御姿勢をとる。しかしウルフキングは咆哮を上げた。威嚇の咆哮ではなく攻撃手段として。音の衝撃波としてラントを襲い、衝撃で服が裂け、口から血がこぼれる。
「ラントさん!」
「まだいい!」
回復魔法を使おうとするセレナをラントが静止する。
「今は補助を!」
「分かった!《スピードブースト》!」
ラントとリンクスの身体が淡い光に包まれる。
「行くぞ!」
リンクスが踏み込む。セレナの補助魔法もあり、さっきより素早く距離を詰める。槍と爪がぶつかり、金属音が辺りに響く。
「ぐっ……!重すぎるだろ、こいつ!」
リンクスの足元が沈む。リンクスの横をラントが駆け抜ける。ラントの動きにウルフキングが気づき、魔力弾を放とうと口を開ける。
「《フォースファイア》!」
セレナの魔法が飛んだ。4つの炎の弾丸がウルフキングの顔面に直撃、一瞬怯む。ほんの一瞬。それだけだった。だが、ラントにとっては十分だった。
「――そこだ!」
剣が閃く。ウルフキングの肩。先ほどリンクスが傷つけた場所へ斬り込む。刃が深く食い込み、鮮血が辺りを赤く染め上げる。
「ガアアアアッ!」
ウルフキングが絶叫し、身体を大きく振る。ラントは剣を抜き、その勢いを利用して後ろへ退避した。
「効いた!」
アリサが思わず声を上げる。しかしウルフキングは倒れない。むしろその目に、強烈な怒りが宿っていた。
「グルァァァァッ!」
それまでで最も大きな咆哮だった。辺り全体が震え、その場にいた全員が思わず耳を塞いだ。
「なに……この声……!」
「威圧……?」
セラ、ミリアが各々呟く。
ウルフキングがラントたちを鋭く睨む。そして一気に加速し、間合いを詰める。
「速い!」
リンクスが叫ぶ。それぞれが武器を構える。だが、今度はウルフキングのほうが速かった。
「ぐっ!」
爪がラントの胸元目掛けて振るわれる。服が裂け、薄皮1枚で何とか回避するが続いて反対側からもう一撃。ラントは剣で受けるが剣が大きく弾かれた。その瞬間、ラントの胸元が完全に空く。対してウルフキングは次の攻撃動作に入っている。
「マジックシュート!」
リンクスが槍をウルフキングに対して投擲する。淡い光を纏った槍がラントの斬りつけた肩に突き刺さり、鮮血が散る。ウルフキングが怯み、その隙をついてラントがウルフキングの攻撃範囲から離脱する。
「よかったラントさん……」
「でもリンクスさん……武器が」
ミリアがラントの危機回避に安堵する。その隣でリゼットは青ざめる。ラントから気を逸らすために投擲した槍が、まだウルフキングの肩に刺さったままになっている。
「次で決めるぞ」
ラントの言葉に2人が頷く。ウルフキングも身構えた。傷だらけで肩にリンクスの槍が刺さり傷を少しずつ広げているが、まだ倒れない。ラントとリンクスも傷を負っている。3人とも、最初より明らかに消耗していた。
「リンクス!正面から止めて」
「任せろ」
「ラントさんは……」
「分かっている。次で終わらせる」
ウルフキングが吠え、槍のない丸腰のリンクスに向かって突進する。一番殺しやすいと判断した。その判断は―――
「グオオオオオオッ!」
「正しいが......残念だったな!」
槍に込められた魔力がリンクスの右手と繋がり、槍が回転しながらリンクスの手元に戻った。ウルフキングの傷口が抉られる。
「グオオオオッ!」
痛みに耐えつつ爪をリンクスに突き立てる。しかしリンクスはもう丸腰ではない。槍の柄で爪を防ぐ。リンクスの身体が押されるが今までほどの威力はない。確実に弱っている。
「《オールアップ》!」
セレナの補助魔法によって、ウルフキングとの距離を詰めるラントの身体が光に包まれる。そして同時に―――
「《チェーンバインド》!」
地面から無数の魔力の鎖が伸び、ウルフキングの四肢を絡め取る。ウルフキングが血をまき散らしながら身をよじり、鎖を次々と砕く。
ウルフキングが鎖を引き千切り視線を上げ、ラントの姿を捉える。口を開き、魔力を込める。だが―――
「――遅い。終わりだ」
ラントの剣が太陽の光を受け輝く。狙うのは、これまで何度も攻撃した肩。そして、心臓。剣が深く突き刺さる。リンクスが傷を広げた。セレナがラントの力を最大まで引き出した。剣はもう止まらない。
そして、ラントは剣を振りぬいた。
「ガ……」
ウルフキングの動きが止まる。巨大な身体がゆっくりと傾き地に伏せる。
「……終わった?」
アリサが岩場から出てきて呟く。セレナがウルフキングの近くにしゃがみ確認する。
「終わったわ」
その言葉を聞いて。
「はぁ……」
リンクスがその場に座り込んだ。
「疲れた……」
「お疲れ」
ラントも剣を鞘へ戻す。しかしラントの呼吸も乱れている。服も破れている。肩には浅い傷。リンクスも腕を押さえている。
「……ラントさんでも、あんなに苦戦するんだ」
アリサが呟いた。これまでラントはいつも余裕があった。自分たちがどれだけ必死になっても、簡単に攻撃を避けられていた。だから、どんな魔物が相手でもラントなら簡単に倒せる。どこかで、そう思っていた。だが違った。それでも―――
「……強かったですね」
リゼットが言う。
「ええ」
ミリアも頷く。
「ラントさんたちでも、正面から戦えば危険だった」
セラは黙ってウルフキングを見る。そして―――
「……私たちが戦っていたら」
その先を言うことができなかった。セレナが4人のもとへ歩いてくる。
「怖かった?」
「……はい」
セラが素直に答える。
「それでいいのよ」
セレナは微笑んだ。
「怖いと思えることは、悪いことじゃないわ」
「でも……」
アリサが拳を握る。
「私たちも、いつかあれくらい……」
「戦えるようになりたい?」
「はい!」
アリサが即答する。ミリアも。セラも。リゼットも。それぞれがラントを見る。ラントはそんな4人を見て、少しだけ笑った。
「なら、まずはよく見ておけ」
「え?」
「今日の戦いで、俺たちが何をしていたのか」
ラントが倒れたウルフキングを見る。
「力だけで勝ったわけじゃない」
そして。
「相手の動きを見ること。仲間の位置を把握すること。自分の役割を忘れないこと。そして――」
ラントがセレナとリンクスを見る。
「仲間を信じることだ」
4人は黙って聞いていた。
「アリサ」
「はい!」
「お前なら、どうやってあいつと戦う?」
「私なら……」
アリサは考える。剣を握る真似をしながら。
「真正面から行く……のは駄目ですよね」
「なぜ?」
「力負けするから」
「そうだ」
「じゃあ……相手の攻撃を避けて、隙を作って……」
そこでアリサは黙った。
「……分かりません」
「それでいい」
ラントは笑った。
「今は分からなくてもいい。だが、考えることをやめるな」
「はい!」
「ミリア」
「はい」
「お前なら?」
「私は……仲間を守ります」
「それだけか?」
「……いいえ」
ミリアは少し考える。もし自分があの場に立っていたら。
「守るだけではなく、相手の攻撃を受け止めたあと、反撃できる位置を作ります」
「そうだ」
ラントが頷く。
「盾は、ただ攻撃を受けるための道具じゃない。そのことはよくわかってるな?」
ミリアの目が輝いた。
「はい!」
「セラ」
「は、はい……!」
「お前は?」
「わ、私は……」
セラはウルフキングを見る。そして、
「相手を弱らせます」
「具体的には?」
「攻撃を妨害したり……仲間のピンチを助け……ます」
「よく見ていたな」
ラントが頷く。
「魔法使いは攻撃するだけが仕事じゃない」
セラが小さく笑った。
「はい……!」
「リゼット」
「はい」
「お前は?」
「私は……セレナさんのように戦場を俯瞰して的確な動きができるようになりたいです」
「よく見ていたな。それを身に着けるためには経験が必要だ」
リゼットが目を見開く。
「分かりました」
ラントは4人の顔を見回す。
「今日、お前たちは戦わなかった。でも、それは何もしていないという意味じゃない。見ることも修行だ」
「……」
「強い相手と戦うとき、何を考え、どう動くのか。それを見て、自分ならどうするのかを考える。それを繰り返せば、いつか自分の戦い方が見えてくる」
4人は黙って力強く頷いた。そのとき、
「ところで」
リンクスが口を開いた。
「こいつ、どうする?」
「……あ」
アリサたちも気づく。巨大なウルフキング。その死体が目の前にある。
「持って帰る?」
「無理でしょう」
ミリアが即答する。
「これを運ぶ馬車なんてないですよ」
「素材だけ剥ぐか」
リンクスが言う。
「牙とか毛皮とか」
「そうね」
セレナが頷く。
「そういえば、素材採取はやらせたことなかったな。経験だ。やってみろ」
「じゃあ、俺が教えてやる!よく見ておけ!」
「はい!」
リンクスの言葉に4人は目を輝かせた。




