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砕け散る

 薄暗い王都の裏路地。太陽の光もほとんど届かないその場所に、甲高い金属音が響いていた。


「くっ……!」


 両手で構えた大盾が、激しく震える。ミリアの身体が後方へ押し戻された。腰まで伸びた髪を揺らしながら、女性は左右の手に握ったナイフを弄ぶように回していた。


「ふふ。なかなか頑丈ね。楽しいわ」


「……まだ、終わりません!」


 ミリアは盾を強く握り、構え直す。女性は笑みを浮かべたまま、地面を蹴った。正面から迫ってきたかと思えば、瞬く間にミリアの右側へ回り込む。


「っ!」


 ミリアが盾を傾ける。ナイフが盾の縁を叩いた。女性はその反動を利用して身体を捻り、今度は反対側へ。ミリアが盾を戻すよりも早く、もう片方のナイフが脇腹へ迫る。


「させない!」


 アリサが2人の間に剣を滑り込ませ、何とか刃を受け流した。しかし、完全には防ぎきれない。鎧の表面をナイフが掠め、小さな傷が刻まれた。


「ミリア!」


「大丈夫です!」


「でも!」


「今は目の前の相手に集中してください!」


 アリサは剣を握り直し、女性へ向き直った。女性はそんな2人を眺め、舌なめずりをしながら楽しそうに笑う。


「仲が良いのね。でも、仲良しごっこで勝てる相手かしら?」


「ごっこじゃない!」


 女性を強く睨み、アリサが踏み込んだ。


「はああっ!」


 剣を斜めに振り下ろす。女性は身体を傾けて回避。続く横薙ぎも、ナイフを使って軌道を逸らした。火花が散る。アリサはそのまま剣を引き、下段から斬り上げた。女性は後方へ跳ぶ。刃先が黒い装束の裾を掠めた。


「……あら、今のは惜しかったわね」


 女性の目がわずかに細くなる。


「次は当てる!」


「そう。楽しみにしているわ」


 女性が地面を蹴り、今度はアリサへ向かって一直線に迫る。ナイフが閃いた。


「っ!」


 アリサは剣で受け止めようとする。だが、女性は直前で軌道を変え、刃をアリサの腕へ滑らせた。


「危ない!」


 今度はミリアが2人の間に盾を差し込む。ナイフが盾に弾かれる。


「ありがとう、ミリア!」


「お礼は後!」


 ミリアは女性を押し返す。しかし、女性はその力に逆らわず、軽やかに後方へ退いた。距離が開く。その隙を逃さず、後方からセラの魔法が飛んだ。


「《ツインファイア》!」


 小さな2つの火球が女性へ迫る。女性は視線だけを向け、身体を横へずらした。火球は壁面へ着弾し、焦げ跡を残した。


「……当たらない!」


「焦らないで、セラさん!」


 リゼットが声をかける。彼女は両手を胸の前で組み、女性の動きを観察していた。アリサの剣を受け流すタイミング。ミリアの盾を避ける角度。そして、攻撃を終えた後に生まれるほんのわずかな隙、そこを狙う。リゼットが魔力を練り、


「《ライトバインド》!」


 女性の足元に淡い光が走った。


「っ!」


 光の帯が足首へ絡みつく。女性の動きが一瞬だけ止まった。


「今です、アリサさん!」


「任せて!」


 アリサが踏み込む。今度は大振りではなく相手の逃げ道を塞ぐように、低く鋭い斬撃を放った。女性はナイフを交差させて受け止める。火花が激しく散り、衝撃でアリサの足が半歩下がった。その瞬間、ミリアが前へ出る。


「はあっ!」


 盾を突き出し、女性の体勢を崩そうとする。女性は拘束を振りほどきながら、後方へ跳んだ。地面に着地した彼女は、足元に残る光の残滓を見下ろす。


「……なるほどね」


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「あなたが魔法で邪魔をしているのね」


 艶っぽく見つめる視線の先には、リゼット。


「……はい。そうですが」


「随分と厄介なことをしてくれるじゃない」


 女性の笑みが、少しだけ深くなった。アリサは歯を食いしばり、剣を構え直した。状況は決して良くなかった。アリサの攻撃は当たらず、ミリアは防御に追われている。後方ではセラが魔法を構えていたが、女性の動きが速すぎて狙いを定められない。そしてリゼットも、回復や補助を行う隙を見つけられずにいた。


「……このままでは、じり貧ですね」


 リゼットが小さく呟く。女性はそんな彼女たちの様子を眺め、口元に笑みを浮かべた。


「どうしたの?もう終わり?」


「まだまだ!」


 アリサが前へ出る。その一撃を女性は左のナイフで受け流し、身体を沈めた。


「甘いわ」


 次の瞬間、女性の姿が消えたように見えた。


「え――」


 アリサの視線の下からナイフが迫る。


「アリサ!」


 ミリアが叫んだ。間に合わない。そう思った瞬間。


「《スモーク》!」


 リゼットの手元から、灰色の煙が一気に広がった。視界が遮られる。


「なっ……!」


 女性の動きが一瞬止まった。その一瞬を、アリサは逃さなかった。体を逸らしナイフが顎をかすめる程度の被害に留める。


「今だっ!」


 姿勢を戻し剣を横薙ぎに振るう。女性は咄嗟に短剣を交差させた。衝撃で女性の身体が後退する。


「へえ……煙幕?」


 煙の向こうから、感心したような声が聞こえた。リゼットは祈るように両手を組む。


「《ライトバインド》!」


 女性の足元に淡い光が走った。光の帯が足首へ絡みつく。


「っ、また……!」


 拘束は長く続かない。それでも、数秒あれば十分だった。


「アリサ!」


「任せて!」


 アリサが斬り込む。女性は拘束を振りほどきながら身を捻る。だが、剣先が頬を切り裂いた。


「……やるじゃない」


 女性の表情から笑みが消えた。その隙に、ミリアが動く。攻撃をミリアは盾を傾け、短剣を受け流した。そのまま盾の縁を押し出す。女性の体勢がわずかに崩れた。


「今です!」


「《ファイア》!」


 セラの放った火球が、女性の進路を塞ぐように飛ぶ。女性は後方へ跳び、炎を避けた。


 その間に、リゼットが戦場の端で倒れている男性のもとへ駆け寄る。


「大丈夫ですか! 聞こえますか!」


「う……ああ……」


 男性はかすかに頷いた。


「今、助けます。《ヒール》!」


 淡い光が男性の身体を包む。傷が完全に癒えるわけではない。それでも、意識を保ち、歩ける程度には回復させられるはずだった。


「セラさん!こちらへ!」


「う、うん!」


 セラが男性の反対側へ回り、肩を貸す。


「立てますか?」


「ああ……すまない……」


「無理しないでください」


 2人は男性を支えながら、戦場から距離を取った。その様子を視界の端に捉えた女性が、面白くなさそうに舌打ちする。


「余計なことを……」


 女性が地面を蹴った。狙いはセラとリゼット。


「させません!」


 ミリアが割り込む。盾が短剣を受け止めた。重い衝撃。ミリアの腕が痺れる。


「くっ……!」


 女性は止まらない。短剣を引き、今度は盾の側面へと刃を滑らせた。ミリアは姿勢を崩しながらも、何とか踏みとどまる。


「しつこいわね」


「あなたこそ……!」


 アリサが横から斬りかかる。女性は身を引いてかわした。だが、その表情には先ほどまでの余裕がない。こちらの連携を警戒し始めている。それでも、実力差は埋まっていなかった。女性の一撃一撃が重い。速さも、技術も、こちらを上回っている。このまま戦い続ければ、いずれ誰かが倒れる。その事実を、4人とも理解していた。


「……セラ」


 リゼットが短く呼びかける。


「な、なに?」


「応援を呼んできてください。私たちだけでは勝てません」


「えっ……でも!」


「私たちだけでは勝てません」


 その言葉に、セラの顔が強張った。これまで、4人で何度も戦ってきた。苦しい修行も、危険な依頼も、互いに支え合って乗り越えてきた。だからこそ、今の言葉は重かった。自分たちだけでは勝てない。認めたくない現実だった。


「大丈夫です。私たちが時間を稼ぎます」


 リゼットは女性から目を離さずに答えた。


「セラ、あなたは応援を呼ぶことに集中してください」


「……分かった」


 セラは唇を噛み、頷いた。その時、ミリアは一瞬だけ視線を動かした。


「もし、王国騎士の方がいれば……白いマントを付けた方を連れてきて」


「白いマント……?」


「ええ」


 セラは不思議そうにしながらも、浮かんだ疑問を振り払い。路地の外にある大通りへと走り出した。


「絶対、呼んでくるから!」


 女性がその背中を追おうとする。


「逃がさないわよ?」


「行かせません!」


 ミリアが女性の前に立ちふさがり盾を突き出した。女性の短剣が盾にぶつかる。アリサも踏み込んだ。


「こっちを見て!」


 剣を振るう。女性は舌打ちしながら後退した。


「……面倒な子たちね」


「面倒でも、諦めないから!」


 アリサは剣を握り直す。ミリアが隣に並んだ。リゼットも男性の避難を確認し、2人の後方へ戻ってくる。


「セラさんが戻るまで、何としても持ちこたえましょう」


「うん!」


「はい!」


 3人は再び構えた。


 ◇


 戦況は、決して良くなかった。アリサの攻撃は何度か女性を追い詰めている。ミリアも、相手の攻撃を受け止めながら、後衛へ通さないよう立ち回っていた。リゼットの補助魔法も機能している。だが、それでも女性には届かない。こちらが連携を組むたび、女性はその隙間を見つけて抜けてくる。攻撃を仕掛ければ受け流され、防御を固めれば死角を突かれる。まるで、こちらの戦い方を少しずつ理解しているかのようだった。


「はぁ……はぁ……」


 アリサの呼吸が荒くなる。剣を握る手にも汗が滲んでいた。ミリアも同じだ。盾を支える腕は重く、何度も受けた衝撃が肩に残っている。リゼットは、仲間の状態を確認しながら、次の行動を考える。その時だった。女性が不意に動きを止めた。


「……そういえば」


 ナイフの切っ先を、ゆっくりとリゼットへ向ける。


「あなた、さっきから随分と私の邪魔をしてくれるわね」


「……っ」


 リゼットの背筋に冷たいものが走った。今までとは違う明確な殺気。


「拘束に、補助に、煙幕。あなたの魔法がなければ、もっと簡単に終わっていたでしょうね」


 女性は不敵に笑う。


「先に殺してあげる」


 次の瞬間、地面が弾けた。


「リゼット!」


 アリサが叫ぶ。女性はミリアの横をすり抜け、後衛へ向かって一直線に駆けた。ミリアが盾を動かす。しかし、女性はその動きを読んでいた。盾が前へ出るよりも早く、身体を低くして脇を抜ける。


「《ライトバインド》!」


 リゼットが両手を掲げた。光の帯が女性の足元から伸びる。


「また、それ?もう見飽きたわよ」


 女性は地面を蹴って跳び上がり、拘束を避ける。だが、その着地点へアリサの剣が迫った。


「そこだぁっ!」


 女性は空中で身体を捻り、ナイフで剣を弾く。着地と同時に後方へ跳び退いた。


「……上手に連携するわね」


 女性の表情から笑みが消えた。リゼットは息を呑む。自分が狙われている。それでも、目を逸らすわけにはいかなかった。


「仲間を守るためです。妨害を止めるつもりはありません」


「そう」


 リゼットの言葉に短く答えると女性が再び地面を蹴った。今度は、先ほどよりも低い姿勢。


 アリサの剣を避けるように、地面すれすれを滑る。


「っ!」


 アリサは慌てて向きを変える。しかし、間に合わない。女性のナイフがリゼットへ迫った。大盾が割り込む。


「通さない!」


 ミリアだった。ナイフが盾に弾かれる。女性は一瞬だけ目を見開き、次いで笑った。


「……あなた、まだ邪魔をするのね」


「当然です!」


 ミリアは盾を押し出した。女性は後方へ跳び、距離を取る。その隙にリゼットが詠唱する。


「《スモーク》!」


 灰色の煙が一気に広がった。


「っ、また煙幕?」


 女性の視界が遮られる。煙の向こうで、アリサが剣を構えた。


「今度こそ!」


 女性は気配を察知し、ナイフを交差させる。剣とナイフがぶつかり、火花が散った。しかし、煙幕によって女性の視界は制限されている。アリサはそのまま剣を引き、続けて斬り込んだ。


「はあっ!」


 女性は後退する。そこへミリアが盾を突き出した。逃げ道を塞ぐ。女性は身体を捻り、何とかその場を抜け出した。だが、完全に体勢を立て直す前に、リゼットの魔法が飛ぶ。


「《ライトバインド》!」


 光の帯が女性の足首へ絡みついた。


「っ……!」


 今度は避けきれなかった。


「アリサ!」


「分かってる!」


 アリサの剣が迫る。女性はナイフを使って受け止めたものの、衝撃で腕が弾かれた。その隙にミリアが踏み込む。


「はああっ!」


 盾を叩きつける。女性の身体が衝撃で大きく後退した。ようやく、攻撃が通った。


「……ふふ。あははははは」


 女性は口元を拭い、笑った。


「いいわ。少しだけ、遊び方を変えましょう」


 その視線が、再びリゼットへ向けられる。


「あなたを殺す」


 女性の攻撃が変わった。今までは、アリサとミリアを相手にしながら、隙があれば後衛を狙う戦い方だった。だが、今は違う。最初からリゼットを狙っている。アリサが斬りかかれば、最低限の動きでかわす。ミリアが盾を構えれば、正面からぶつからずに回り込む。そして、リゼットが魔法を使おうとした瞬間、真っ先に距離を詰めてくる。


「っ!」


 リゼットは詠唱を中断し、後方へ下がった。


 ナイフが頬すれすれを掠める。


「リゼット!」


 アリサが横から斬りかかる。女性はそれをナイフで受け流し、アリサの腹部へ蹴りを放った。


「ぐっ!」


 みぞおちに鋭い攻撃が入り、アリサの身体が後方へ吹き飛ぶ。


「アリサさん!」


 リゼットが叫ぶ。女性がリゼットへ迫った。ミリアが割り込む。ナイフが盾に弾かれた。


「何度も何度も……!あなた邪魔なのよ!」


 女性が苛立ったように呟く。


「それでも……!後ろには通さない!」


 ミリアは盾を押し返す。女性は一度距離を取った。そして、ナイフをくるくる、回し構え直す。


「……そう」


 目が細くなる。


「あなたが守るのね」


「ええ!私はこのパーティーの盾!私がいる限り後衛には手出しさせない!」


 ミリアは盾を構えたまま、力強く答えた。その言葉には、迷いがなかった。アリサは痛む腹部を押さえながら立ち上がる。


 リゼットも、ミリアの背中を見つめていた。ミリアは決して強がっているわけではない。恐怖がないわけでもない。それでも、後ろにいる仲間を守る。それが自分の役割だと、心から信じているのだ。女性は、その言葉を聞いて楽しそうに笑った。


「じゃあ、その盾を砕いてあげれば通してくれるのかしら」


「……くっ!」


 ナイフが閃く。狙いはミリアの盾。重い衝撃。腕が痺れ、身体が後退した。女性は止まらない。左右のナイフで、ひたすらミリアの盾を攻め立てる。


「ミリア!」


 アリサが駆け寄ろうとする。しかし先ほどの攻撃は重く、ふらついてうまく立ち上がれない。女性はミリアから視線を外さない。


「あなたは、どこまで耐えられるのかしら?」


 金属が軋む音が、徐々に大きくなっていく。


 ミリアは盾で受け止め続けた。受け止める。受け流す。身体を捻り、衝撃を逃がす。ラントとの修行で何度も繰り返した動き。ただ攻撃を受けるのではない。相手の力を逸らし、姿勢を崩し、反撃の隙を作る。


 しかし、目の前の女性はその技術すら上回っていた。受け流そうとすれば、ナイフの軌道を変えてくる。体勢を崩そうとすれば、逆にこちらの腕を狙ってくる。そして何より、攻撃の速度が速すぎた。


「くぅ……!」


 ミリアの額から汗が流れ落ちる。


 腕が重い。盾を持ち上げるだけでも、肩に痛みが走る。それでも、下ろせない。後ろにはリゼットがいる。そのさらに後ろには、負傷した男性。セラは応援を呼びに向かった。ここで自分が倒れれば、全員が危険に晒される。盾が度重なる攻撃で悲鳴を上げているのがわかる。


「《プロテクション》!」


 リゼットの補助魔法がミリアを包む。淡い光が身体を覆い、痛みをわずかに和らげた。


「ありがとう、リゼット!」


「無理はしないでください!」


 ミリアは盾を強く握る。連撃はまだ止まらない。むしろ速度が増していた。表面に亀裂が走る。


「……っ!」


「あはははははははははは!あなた、いいわ。楽しいわ」


 女性の笑い声が響く。ミリアの瞳が揺れた。だが、まだ壊れてはいない。まだ守れる。そう自分に言い聞かせる。この攻撃を耐えきって、隙を作れればアリサが―――


 ――バギィィンッ!


 乾いた破砕音が響いた。


「……え?」


 ミリアの大盾が、中央から砕け散った。破片が宙を舞う。衝撃でミリアの身体が後方へ吹き飛ばされた。


「ミリアッ!」


 アリサは腹部を押さえながら叫んだ。剣を地面に突き立て、震える足で何とか立ち上がる。ミリアを助けようと一歩踏み出すが、痛みで身体がよろめいた。ミリアは地面へ倒れ込み、何とか起き上がろうとした。だが、腕に力が入らない。盾を失った両手が震えている。


「そん、な……」


 女性はゆっくりと近づいてきた。


「これで、通れるわね」


「やめて……!」


 リゼットが声を上げる。女性は彼女を一瞥し舌なめずりをしながら、


「あなたは後よ」


 そして、倒れたミリアへナイフを向ける。


「まずは、あなたから。楽しませてくれたお礼よ。一撃で楽にしてあげる」


「ミリア!」


 アリサが震える体を叱咤し駆け出した。だが、間に合わない。女性のナイフが振り上げられる。ミリアは目を見開いた。身体が動かない。盾もない。守るべき仲間が、目の前にいる。それなのに、自分は何もできない。


 ――死ぬ。そう思った瞬間だった。


 鋭い風切り音。透明な刃が横合いから飛来し、女性のナイフを弾き飛ばした。


「っ!?」


 女性は咄嗟に後方へ跳び退く。風の刃は地面を切り裂き、土煙を巻き上げた。ミリアは呆然と目を見開く。アリサも、リゼットも、動きを止めていた。膨大な魔力を込めた剣撃が戦場の鬱屈とした雰囲気すら断ち切ったようだった。


「……誰かしら?」


 女性が警戒するように呟く。路地の向こうから、複数の足音が近づいてきた。先頭に立つのは、白いマントを翻した騎士。その背後には、数人の王国騎士たち。そして、息を切らしたセラの姿もあった。


「み、みんな……!」


「セラ!」


 アリサが声を上げる。白いマントの騎士は、倒れたミリアと砕けた盾を一瞥した。次いで、ナイフを構える女性へ視線を向ける。その表情に、怒りはない。ただ、静かな威圧感だけがあった。騎士は一歩前へ出る。


「あなたは国際指名手配犯......『黒迅』イリアス・ブランディアだね。そこまでだ」


 その一言が、薄暗い路地に響き渡った。


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