表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/117

破滅の使者


「あれは…」


 …アルダガルド対岸で、岩に書きつけられていた文字の中にあった…魔方陣らしきもの。


 上空に浮かんだ魔方陣。それがゲートと同様の役割を果たすのか、その二次元の図面から体長50メートルはあろうかという竜…どこか非生物的な雰囲気のある黒竜らしきものを生み出した。


「おい、大食い火竜、お前の仲間だろう!? 何とか言ってやれ!」


「い、いや、違うぞ!?アイツらからは何も感じない!…本当に生き物なのか…?」

 カリューが狼狽えながら否定した。

 

 …カリューの疑問はもっともだ。大淵自身、あの黒竜らしきものからは生気を感じなかった。

 …そして、敵意も気配も薄い。

 …これはアルダガルドを襲ったあのタコ野郎…あれと同じ…?


「面白そうだ」

 同行させて以降、初めてレイスが生き生きとした顔を見せた。

「戦闘狂め。 …だが、確かにアレはヤバそうだ。お前にも手伝ってもらおう。 という訳で俺とレイスでちょっと行ってくる。 …ここなら無線は幾らでも通じるから、何か分かったら追って連絡する。黒島、ここの避難誘導と護衛の指揮は任せた」

「わかった。 ゲート坑内へ避難させた方が安全だろうな」


 公園内のどよめきと警察・自衛隊の警備部隊が展開し始める怒号と喧噪の中、大淵が立ち上がり、仲間達を見渡した。


「…例の高射機関砲はあるな? 尾倉、念のために拠点屋上で射方に合流しながら機関砲を設置しておいてくれ」

 もっとも、都内でこんなものを勝手に撃つわけにはいかない。 国からの許可・支援要請でもない限りは無用だ。 そして当然、尾倉もそれは百も承知だ。



 収納とアーマーの筋力アシストを利用すれば、例え数百キロになる装備でも訳なく設置可能だ。


「しかし、あんな巨大なモノを倒したとして、あの残骸が都内に落下したらそれだけで少なからない犠牲者を出すぞ…」

 藤崎が忌々しげに空を飛翔する無機質な黒竜を見上げた。


「ああ。何か工夫しながら戦わないとな。…自衛隊、警察、消防、今動けるギルド戦士…全員に協力してもらう必要がありそうだ」


 大淵は正門に向かって歩き始めた。


「…結局いつも通りで悪いが…皆、あとを頼む!」

 全員が立ち上がり、大淵に向き直った。

「「了解!」」


「…大輔くん、気を付けてね…?」

「ああ、ありがとう、香山」


 仲間達に見送られ、大淵とレイスは共に東京の夜空に聳えるビル群へと高々と跳び上がった。


 






「外の状況はどうですか?」


 強張りながらも余裕の表情を見せようとする岩田。 リノーシュ、マオ、大淵小隊の面々に案内されて避難させられたゲート坑内の、駐屯部隊談話室の簡素なテーブルについていた。


「大淵小隊からは大淵と、向こうの世界から連れ帰った現地協力員…元・勇者のレイスが例の巨大生物らしきものを迎撃に向かいました」

 黒淵が報告した。 続いて秘書から情報を告げられた不動が緊張した面持ちで報告する。


「出現した超巨大物体は現在、新宿、渋谷、千代田、港、世田谷にかけて遊弋し、破壊活動を開始しました。…既に第一師団隷下の担当部隊、及びスキル保有者を含む特殊対策部隊が出動し、対処にあたっていますが…」

 不動は言葉を濁した。


 …初期のスタンピードくらいなら、今の第一普連なら余裕で対処できる。直接戦闘部隊には全員23式を装備させ、銃・砲のみならず、有力なスキル保有者も積極的に集めた。 …それでもこの謎の超巨大物体には到底敵わなかった。砲兵による地対空誘導弾もまるで効果がなく、16式機動戦闘車の砲兵が決死の責任覚悟で高台から最大仰角で撃ち込んだという105㎜徹甲弾も表皮を傷つけただけにすぎず、出血などは見られなかったという。


 …あくまで不動の推測だが、隊員たちのスキルレベルが低い高いという次元の問題ではないと睨んでいた。 …憶測から一つの稚拙な仮定を導き出したが…防衛を担う最高責任者として、それは口にするのも憚られるものだった。

 まさか、スキル保有者ですら対抗すらできない存在の襲来など…


「…また、百里飛行場からは戦闘機の離陸準備が進んでいますが…これまでの過程からして、出撃させることは進言致し兼ねます」


「…自衛隊が何もしない訳には行きません。攻撃命令を」


「仮にアレを撃破・損傷させたとして、残骸が都内に落下すればどこへ落ちても少なからぬ被害が出ます。攻撃の為に出撃させるのは…」

「…なら、東京湾へ誘導しつつ攻撃する事は?」

 他の閣僚が提案した。


「…そもそも、戦闘機では損傷させる事すら困難と考えます。 仮に竜騎兵を乗せたとしても…スキル付与の対象は戦闘機自体であり武装ではないので…。 また、海上へ陽動してしまえば陸上の味方が攻撃する手段が限られてしまいます」


「そんな…一体どうすれば…?」


「…大輔とレイスに任せておけば大丈夫です。 最早、彼らの力は人の測れる領域を逸脱しつつありますから」

 

 リノーシュの声に閣僚たちが顔を上げた。

「それに、先ほど貴国の兵や憲兵を見ました。 …彼らも自分に出来る事を必死に探っているようでした。あなた達の配下を信じるべきです」


 …結局、また一民間人に過ぎない彼に頼ることになるのだ。

 しかしレイスとは…?あの大淵大輔と二人だけで出撃するほどの猛者なのだろうか…?


 岩田と不動は官僚が設置を急ぐ、何も映されていない液晶画面を見ながら、頭上で謎の巨大生物から攻撃を受けている東京を想った。


 廊下から慌ただしい足音が響き渡ってくる。


「東京上空の巨大敵性体が一体、消滅しました!」

 防衛省のスタッフが喜色を露わにしながら会議室に駆け込んで来た。

「…さすがね」

 岩田は苦渋滲む笑顔で頷いた。

 不動も忸怩たる思いを滲ませながら頷いた。





「…私達は現在、突如としてこの東京都上空に出現した謎の巨大飛行物体を追っています。…この巨大飛行物体は本日午後8時28分頃、渋谷、新宿…」


 …局のヘリから東京都内の夜桜模様…を中継する予定だった川木有栖アナウンサーは、微かに緊張した声で眼下の渋谷を見下ろした。 …往年の怪獣映画のような…50メートルにもなろうかという巨大な黒い竜が、ビルを薙ぎ払っている。…崩された階とその上階に居たであろう人々の最期を思い、軽い吐き気が込み上げてきた。


 …だが、被害はそんな単純なものでは済まなかった。竜に圧し掛かられたビル群はその下層や地上の人々も巻き込み、破壊されたビルの瓦礫が首都の道路に降り注ぎ、数えきれないほどの人々を押しつぶした筈だ。 まだ無事な歩道と車道はパニックに陥った群衆が巨大な竜から逃れようとしている。


 リポートも忘れ、その光景に慄然として…機内の誰もが言葉を失っていた。

 …局のベテランカメラマンが…狙った訳では無いが、完全にカメラの存在を忘れて立ち尽くしている川木に退けとも言えず、川木の豊かな胸越しにその惨劇を収めていた。 

 自衛隊・警察が命懸けの交通誘導を始めていた。

(交通誘導って…戦わないの?)

 思いかけて、この竜を仮に倒したとして、その巨体が倒れ込んだ際の被害を計算して、それが誤りだと思い直した。


 …その時、一つ向こう…新宿で暴れていた黒い竜が忽然と姿を消した。どこかへ去った訳では無い。 文字通り消えたのだ。


「えっ…今…」

 川木が呟く。


 眼下で破壊活動に勤しんでいた黒竜も、同類が消えた方角を振り向き、中継班同様に固まった。…しかし、行動は彼らより遥かに速かった。 巨大な翼を広げると、鳥類がより上位の猛禽から逃れるように空に踊り出し…


 自分達の方に向かって来た。


「ああっ、クソッ、ダメだァ!」

 パイロットが悲鳴を上げた。


 …竜は直撃しなかった。…だが、その風圧かそれとも羽が掠めたのか、大きな衝撃と共に機体のコンソールに素人から見ても警告と分かる表示が点滅し、警告音が響いた。


 制御不能になったらしく、ヘリは緩やかに旋回を繰り返しながら徐々に角度を鋭利にして地上へと向かっていく。


「何かに掴まれ!」


 それで一パーセントでも生存率が高まるのだろうか? 怒号と悲鳴が飛び交う機内で川木は座席に縋りつき、自分の運命を諦観しながら回りゆく東京の街並みを見た。


 …空中を落下するGによる、腸を抉られる様な不快感を堪え、マンションで自分の死後に残されるペットのハムスター…マメの身を案じ、次いで両親や交際を始めたばかりの恋人を思い出したその時。




 バン、と何かが機体にぶつかった。



 途端に機体の機首が緩やかに持ち直し、パイロットは歓喜のあまり怒号交じりの絶叫を上げた。

 …眼を開けると、機内にはまた別の異常が起きていた。

 機内には血管のような赤黒い筋が幾筋も走っていた。

 明らかに禍々しいその光景に反し、墜落まっしぐらだった機体は先ほどまでの絶望が嘘だったかのように平和を取り戻していた。

 

 恐る恐る覗き込むと、コンソールは未だ夥しい警告を示していたが、機体は平常通りに飛んでいた。


 バンバン、とヘリの窓が叩かれた。


「ヒッ…!」


 見ると…20代の逞しい青年が機体に取りついていた。 

 温厚そうな顔つきだが… …あらゆる経験をしてきた男特有の、どこか鋭く、危険な雰囲気もある。

(…あ…結構タイプかも…)

 つい今しがた命の危機に陥っていた事も忘れかけてそんな呑気な事を思っていると、青年はヘリポートマークの描かれたビルの屋上を示した。

 パイロットにその旨を伝えると、すぐに手近なビルのヘリポートに着陸した。


 ヘリのスキッドがビルの屋上に接地するか否かという所で青年はヘリから飛び降り、それと同時にヘリは乱暴に着地…というより制御が効かず、落下した。衝撃に揺らされながらもいつの間にかビルの縁に立って…巨大特撮ヒーローよろしく東京の空へと駆ける人影があった。


「…スーパーマンかよ…?」

 お釈迦になったヘリのコンソールを軽く叩きながら、放心状態のパイロットが呆れて呟いた。


 



 …とんだ寄り道だったが、後悔は無かった。

 しかしこの敵…俺が「剥奪」で存在を消した途端に逃げ出しやがって…


「レイス!聞こえてるんだろう!? いいか、無暗に敵を始末しないでくれ。自衛隊と警察・それにギルドと消防が避難誘導しながら幾つかの《《広場》》を作ってくれている。 敵をそこか、その上空まで移動させてから好きなように始末しろ!お前ならそのくらいのハンデ、楽勝だろう?」


『フン…まぁ、いいだろう』


 煌々とした東京の明かりに照らし出されながら夜空を飛翔する四体のドラゴンに気を取られるのもあり、首都道を微かに残像を描きながら超高速移動しつつ、時にビルを瞬時に駆け上がる二人の存在を捉えられる者は皆無だった。


 …あれだけの寄り道をして、早くも二体目に追いついた。


 …それにしても何という力か。 …これがレイスから吸収した経験値だというのか…レイス戦後、自身のステータスは既に己ですら測定不能領域を突破しつつあった。 


 …端的に言えば、人間を辞め始めていると言っていい。


 強化も独尊も無しでこれか… …測定できるのは5000に達した最大SPだけとなっていた。魔王並みの魔力貯蔵量だ。


 黒竜を追い抜きつつ、高々とジャンプした。…これも素で100メートルは跳べる。ストームランスを使って飛ぶまでも無かった。むしろ、地上を高速で走って必要に応じて跳び上がった方が早かった。


「…しっかし…逃げるくらいなら最初からこんな事するんじゃねー!」


 既に多くの犠牲者が出ていた。追いついた黒竜の背に飛び乗り、その背中に拳を突き込んだ。


 剥奪。


 存在を否定された黒竜の巨体があまりに呆気なく消滅する。


 あと三体…ビルの屋上に着地すると、世田谷方面の黒竜が自分に気付いて逃げる所だった。

 …と、一体が傾いたかと思うと、無人の交差点に向けて落下していく。派手な音を立て、その黒竜は動かなくなった。 背から立ち上がった人影が再び姿を掻き消す。

 

 レイスだ。 これであと二体。


 強化ジャンプで大都会の空に飛び上がった。自分から逃れようと羽ばたく黒竜を捉えた。 ブロワーで瞬時に追いつき、背に取りついた。 身を捩って暴れるが大淵を振り落とす事は出来ず、これも剥奪。


 …港区方面の黒竜が海上へ逃れようとしてそのまま墜落していく。


「おい、海の上だが大丈夫か?」

『人間や船はいない。気にするな』

「そうじゃなくて、お前は?」

『お前と違って海に落ちたくらいで泣き喚きはしない』

 …気遣って損した。 東京湾のアナゴの餌となってしまえ…





 十分もかからず、全ての黒竜を撃破していた。


 空中から落下し、破壊された東京の街並みを眺めた。 …高揚感はさほどでもなかった。 明るくなればより、酷い光景が広がっているのだろう。


「こちら大淵。五体の黒竜らしきものを全て撃破した。 新手は今のところ見えず」

『ご苦労さん。自衛隊のレーダーでも確認したが、日本全土どこにも新手の影は見えず。 …もっとも、あんな風に転移…ワープして来るんじゃ安心できんがな。 …あの敵の素性が気になる所だが、とりあえず一旦戻れよ』

「了解。…そこに消防か警察関係のお偉いさんはいるか? レイスのアホが海に落ちた。そのくらいで死にはしないだろうが、救助隊を出してもらえないか?」

『あいよ』

 黒島との通信を終えた。

 



 …ただ一つ、計算外だった事。

 

 …食堂で仲間達と遅い夕食をとっている最中にニュース番組で自分の素性が大々的に全国放送されてしまい…黒島達に冷やかされ、大淵は頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ