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響け、大地へ。はためけ、青空へ。群青に舞う色彩のシンフォニー  作者: ちとせ鶫
序章 私たちのマーチングバンド

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第4話 副会長無双。そして、部員3名、ほか未定

「ゴメン。ほんとうにごめんなさい」

「ふーちゃんは、何に対して謝っているのかな?」と統風は質す。

「ほんとうは俺が伝えに行くことになってたみたい……マーチングバンド同好会に」


「なってたみたいって……ちょっと、扱いがひどくない?」

 ダンっと一歩前に踏み込んで、統風は続ける。

「ふーちゃんは、うちの同好会がどうなろうが、関係ないんだね。そうなんでしょ?」

 もう、噛みつかんばかりというか、もう噛みついている。

「ごめん」

「ほら、すぐ謝るけどさ。軽い、軽いよ」

「ごめん」

「んもう。だからさー」と統風が言いかけたところに、綺羅が間に入る。

「でもほら。ね? ふーちゃんだって、別にわざとしたわけじゃないんだし。ね?」颯汰の顔を見て、続ける。「ちょっとうっかりしてただけだよね?」

「まあ、その、うん」と歯切れの悪い答え。

 

 その答え方が、余計に統風を苛つかせる。


「ふーちゃんは、お金が大事なんだもんね。だから私たちがどうなろうが、気にしないんでしょ! 良かったね。」


 俯いていた顔を颯汰はあげる。


「ち、違うよ。そんなつもりは……」


 颯汰は思う。

 今後の部活動全体への影響を考えての生徒会則改訂だった。

 とは言っても、統風や綺羅が今の同好会をどれだけ大事に思っているかは、よく聞かされてきたし、見てもいて知っていた。


 やらかした。

 完全に、やらかしてしまった。

 言い訳のしようもない。

 統風たちは、何をしたら許してくれるだろうか。

 許してくれる未来が、今の僕には想像できない。

 まったく。


 颯汰はひとまず。

 椅子から床に降りると、額を床に擦り付けるぐらいに平伏した。


「言い訳のしようもない。申し訳ない」


 平身低頭。まさに、それ以外方法が思いつかなかった。


 一年間の高校生活で少し、いやだいぶ、関わり方がドライになっていた。

 確かに最近、統風と関わることは無意識に避けてきたのかもしれない。昔からまぶしいくらいまっすぐで、元気な統風にあこがれたこともあったが、高校に入って陸上競技をしない決断をしたあたりから、関係がおかしくなっていた気がする。

 だから、今回も、流水副会長から、「あなたが直接伝えなさい」と言われていたのに、思いっきり後回しにしたあげく、伝えること自体をすっかり忘れてしまっていた。

 確認するまでもないが、この生徒会則の変更の通達が伝えられていない部、同好会はおそらく、マーチングバンド同好会以外、ないだろう。


 土下座をする颯汰は、統風の勢いを削ぐには十分だった。

 

「ちょ、ちょっと。あーもう。わかった」

 統風はふーっとため息を吐くと、颯汰の肩をぽんぽんとたたく。

「もう、座ってよ。何か、気が削がれたわ」

 そばでおろおろしてた、綺羅がそっと颯汰が立ち上がるのを支え、ほっとしていた。


 颯汰が椅子にかけ直すのを待って、統風は言った。


「で、これからどうしてくれるの?」

「そ、それは……」


 しばしの静寂。

 颯汰が言いかけたとき、部屋の静寂を電子音が切り裂いた。


 ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ。


 統風も、綺羅も自分のスマホではないのがわかった。

 その中で颯汰だけ、そわそわしていた。


「あ、あの……?」

「でれば?」と統風が促す。


 ポケットからスマホを取り出すと、画面をタップして、電話に出た。


「はい、音羽です。はい、はい。え? あ、はい。はい。わかりました。伝えます。はい、お待ちしてます」


 電話を切った。そして、統風と綺羅をみて、告げた。


「城島副会長が、時間を欲しいと。今からここに来るって」


 統風と綺羅は顔を見合わせた。

 副会長が何しにくるんだろう。考えても思いつかなかった。

 二人は待つしかなかった。


     * * *


 5分ほどののち、部室の扉が3回、ノックされた。


 綺羅が返事をして、扉をあけに行く。

 まもなく、流水副会長が入ってきた。


 部室に踏み込んできた流水副会長は、その場の荒れた空気を一瞬でつかむと、優雅な立ち振る舞いで一礼した。その存在感が、先ほどまでの殺伐とした雰囲気を洗い流していく。


「音羽さん、環奈崎さん、お時間をいただいたことに感謝を」と言い、頭を下げる。「音羽会計は、もう誠意は見せられたのですか?」と、続けて颯汰に向かって問う。


 颯汰はバツの悪そうな顔を向け、言葉につまる。

 それを見た、流水副会長は、やっぱりね、という感じに納得した様子で、同好会のふたりに対する。


「今回の生徒会則変更の通達については、全面的に生徒会に落ち度がありました。その点は深くお詫びします。担当は音羽会計ですが、私もその履行について監督する立場にいたので、音羽会計だけの責任ではありません。これは生徒会全体が責任を負う内容です。あらためて謝罪させてください。ほんとうに申し訳ない」


 そういって、深々と頭を下げる流水副会長に、統風も綺羅も、面くらってしまった。


「いえ、そんな……」と綺羅が言う。統風は黙って聞いていた。


「音羽会計は、反省していると思うの。そうでしょ?」と言って、颯汰に尋ねる。それを聞いて颯汰は何度もうなずく。


「これからマーチングバンド同好会は、人材確保や資金調達、備品の購入や管理、活動場所の確保など、いろいろ大変なことと思うのだけど?」


 統風も綺羅も、もちろん同意だ。

 さきほど、安田先生から告げられた状況から、一気に解決しなければならない問題が山積みだった。


「確かに、そうね……」と統風は認めるしかなかった。

「お詫びとしては何だけど、よければ音羽会計をこれから1年、マーチングバンド同好会のマネージャーとして、レンタルしましょう。よろしくて?」


 それを聞いた、統風は、先ほどまでの怒りは何処かに、逆に戸惑っていた。綺羅と困惑の表情を交わす。


「でも、副会長! 僕は……」

 もちろん、レンタル対象となった颯汰も戸惑いを隠せない。

「音羽会計、誠意の見せどころだよ。覚悟を決めなさいな。君の 能力を最大限発揮したまえ!」


 統風は考えた。

 確かに、今抱えている問題を、短期間に解決し、そして長期的にも部を運営していくならば、人数は多い方がいい。

 それに、気心が知れた颯汰なら、なおのこと。綺羅もきっと賛成してくれるだろう。

 でも、そこまで頼ってもいいのだろうか。

 そこまで。その疑問については、綺羅が言ってくれた。


「でも、副会長。さすがにそこまでしていただくわけには……」


「そうかい? でも、音羽会計は優秀だよ。他にはなかなかマネージャーの適任者はいないと思うがね」

 

 そこに、流水副会長はとどめのひとことを放つ。


「それに、これで『部員は3人』になるのだから、目標まで、あと2人だね」


 ものすごい勢いで、統風の頭の中で、考えが巡る。

 さすがに頼りすぎな面もあるけれど、でも、今の私たちはそんなこと言ってられない状況だし。

 猫の手も借りたいところ、猫どころか、ふーちゃんが来てくれる。

 これ以上、強力な味方はいない。


「よかったじゃないか。音羽会計。これで、従姉と仲直りできるじゃないか」と、こっそり颯汰に耳打ちした。


 一瞬で顔を真っ赤にして、副会長を見る。

 流水はいたずらっぽく笑ってかわす。


「どうかな。生徒会としては、破格の提案なんだけど」


 なんかもう、断われない状況に。

 ふーちゃんには悪いけど、一蓮托生。使えるものは全部使わせてもらおう。


「いいわ。その提案、乗らせてもらう!」

「え! ともちゃん、ふーちゃんの意見も……」

「いや、副会長がイイっていってるんだから、いいの。覚悟しなよ、ふーちゃん。一緒に頑張ろうね!!」

「もう、ともちゃんたら……」

「僕の意見は聞いてくれないんだね、はぁ、仕方ないなぁ。やるよ、やればいいんでしょ」


 その様子をみて、満足そうに微笑んで、流水は言った。


「これで、今回のやらかしの少しは、ゆるしてくれるかしら……何かあったら、相談にいらっしゃい。それじゃあ」


 副会長のオンステージは、このひと言で幕を閉じた。


 これで、同好会は「3人」になった。

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