23話「笑顔」
イフリートの放った火の玉はどう見ても俺を一撃で葬る威力を備えている…
先ほどの何倍もの…それが五発も
並みの冒険者ならば耐えられるはずもない
無論、万全の俺でさえ消し飛ばされるに違いないだろう
このわずかな瞬間に色々なことが思い浮かぶ
ローズやレギ、ミドは大丈夫なのか…
なんでイフリートと戦うことになってしまったのか
日本のみんなは元気なのだろうか…
目前と迫ってきた火の玉
もはや、ただ立ち尽くすしかない
…
目を瞑って考えていた
なぜ俺はこんなにも頑張っていたのだろうか…
今、目の前は青一色になっているし
あぁ、また俺は死んでしまい神のいる世界にいるのだろうか
「あぁ、また変なとこに来たのか?今度はどうなるのだろうなぁ…また別の世界へ…」
「何言ってんや、おかしいなったんかシュウ」
ん?ローズがいる?
「大丈夫?」
ミド?
プニプニ…
金色のスライム?!
「みんな?!無事だったのか!」
「うん、ウチら全員じゃないけど…半分くらいは生きてるよ」
いつのまにか周りには街人が集っている
たしかに半数近くは見当たらないが、ローズもミドもレギも
ドルヴィンも武器屋のおっさんも
銀狼亭のオヤジや獣人の子達もここにはいる
「どうして…?」
「ウチらもよぅわからん…戦ってた思ったらこの辺りにみんな飛ばされてきたんや」
そんなことができるのはピルスルだけだろう、だが肝心のピルスルはいない
しばらく待っていたのだけれど俺の後にはだれも来なかった
「まさか…な」
まだスタンピードが収まったわけではないだろうし、とにかく周囲の様子を確認しながら俺たちはさらに別の場所へと逃げてまわるのだった
「う、うぅ…」
そんな中、一人の女性が顔を手で覆い震えている…
およそ100いた者たちは今は50もいない
他の者達がどうなったのか、誰も口にはしなかった
年老いた者も、まだ年端もいかぬ子連れの一家も
もしかしたら目の前でどうなったかを目の当たりにした者もいるのかもしれない
彼女もその一人なのだろう…
「なにかあったのでしょうね…可哀想ですけれど」
ローズの腕を掴みながらミドはそう言っている
だがそれでも俺たちは走るしかなかった
再び魔物と相見えれば、次こそ残る者はいないのかもしれないのだから
「北西に向かえば良いと思います」
レギが懐から方位磁針を取り出し確認してくれている
西から攻めて来たのだが、北東には目印になるほどに大きな山がある
それでようやくどの辺りに飛ばされてきたのかも大体把握できた
「食料は余裕があるが…水が欲しいな」
インベントリには先ほどの戦いで手に入れたものも入っている
しかしとにかくは食料だ
入手したレアアイテムや結晶といったものも気にはなるが
「誰か綺麗な水を出せる術師はいないか?」
いなければ朝露などを集めるか、蒸留して作るか…と思っていたが
「そんなん冒険者ならみんなやってんで」
とローズが言い、横でウンウンとミドも首を振っている
どうやら小さい頃から生きる為に必要な最低限を教えられているようなのだが
「なんやシュウ、もしかして生活魔法習っとらんのか?」
種火や少量の水を出すことをそう呼んでいるそうだ
「う…また今度教えてくれ…」
それからまる一日が過ぎ、俺たちはどうやら歓楽街ジュンカよりかなり北の海沿いに辿り着いたようだった
ここならば大量の魔物が押し寄せることは無いだろう、が
スタンピードなら3日は続くだろうか
ひとまず1週間を野営で過ごす案を出す
その後に残った魔物を討伐しながらジュンカを目指すか、北東へ進路を取り別の街へ行くべきか
道中イフリートとまた出会ったのなら、俺はどうすれば良いのか
次こそはその対策も考えておかねばならない
一人であれこれ考えていると、銀狼亭のおやっさんが料理を持ってきてくれる
「お前さん頑張り過ぎていないか?俺たちの事は俺たちの責任だ、自分の事だけをしっかり持っておけ」
そう言ってポンと渡されたのは魚料理
魚などどこから…あっ
何人かが海で釣りをしており、それを調理していたのだ
俺の持っている食料しか考えていなかったが…そうだな、みんなもあの街の冒険者なのだから
「はいはい!私いい事思いついたわ!」
ミドはそう言って矢を番え構える
海に向かって一本の矢を射った
ヒュンッ…ドーーーーーン!!
海面で大爆発をおこし、嬉しそうにこっちに寄ってきて
「何か手に入った?」
そう言われインベントリを見ると魚肉や貝や海藻
食べられなさそうなものではウロコやヒレも入っている
「海は魔物が多いですから、シュウさんじゃないとこんな芸当できないですけどね」
そう言って笑うものだから
俺もつい楽しくなって一緒に海にフレイムボムを投げたりしていた
その後、海から大きな魔物が現れて戦闘になるまでは…




