5話「兎追いし」
あれは本当に迷路のようだった
見えるのに辿り着かないゴールにすごくモヤモヤしながら、あちこち行ったり来たりと動き回ったせいか
途中で上位種の【珠兎】との戦闘になったのだけれど
これがヤバい
キラーラビットが普通だとすると、珠兎は神々(こうごう)しかった
白金に輝いていて毛並みがサラサラと、撫でたくなるのだけどこれもれっきとした魔物だ
しかも上位種なもんだから第一階層の骸剣士なんかよりも全然強かったのだ
「前っ!魔物おるで!」真っ先にローズが発見した、先頭は俺とピルスルなのだけど
次の階層への道の方向や、分かれた道の先を見ていたので発見が遅れたのだ
「キュイィィィ!」魔物は一鳴きすると、あっという間に間合いを詰めてきたのだった
ピルスルが手のひらを突き出して何かをしたのだけど、この珠兎には効果がなかったみたいで
俺はその兎の全身を鉄の鎧に受けたのだった
倒れこみ、ガシャンと鎧のぶつかり合う音がする
小さな体からなんてパワーだと思ったものだ
しかも衝撃のせいか目が回る感覚が襲う
「ウィンドブレス!!…あんさん大丈夫か!」
後ろローズが放った風魔法は珠兎をかるく吹き飛ばす、助かった
これは攻撃ではなく、広範囲にいる魔物を蹴散らしたりする時に使う魔法だ
オークのような重い魔物は無理だが小動物のようなサイズならこうやって遠くに飛ばすことができる
「くそっ、儂の魔法がきかん!動きは止められんようじゃ、迎え撃つぞ!」ピルスルが再び構える
レギも何もしていないわけではない、全員に能力強化をかけたり状態異常を確認して回復してくれたりするのだ
「キュアラル!」俺に魔法を使う、視界がスッとひらけた
「混乱させてきます!気をつけてください!」
これが状態異常か…俺は初めての体験にちょっと感動してしまった
「ボサッとしとらんと!倒すぞ!」
ピルスルは右腕に構える剣一本で応戦している
剣に弾かれた珠兎が地面に着地したところを狙って俺は矢を放った
また、ローズも同じようなタイミングで珠兎に火の玉を打ち込む
しかし、それらは軽々と躱されてしまい
俺は再び珠兎に体当たりをくらい、後ろのローズもまた一撃もらっていた
「あいったぁー…ヤバいわぁほんま強いで…」
動きが早すぎる!全く当たらない
ピルスルも、剣での見事な応戦をしていたのだけれど
魔法やスキルを使うような隙も与えてくれず、ジリ貧である
珠兎はなにかを考えるかのように、鼻をヒクヒクさせこちらを見る
動きが止まっている今なら、と構えると
珠兎は俺を横切って後ろへと跳んだ
「うわぁぁ!」
ドン、と音がして振り向くとレギが倒れていた
今まで攻撃をしていなかったレギに、一瞬考え、狙いを定めたとでも言うのだろうか
あの時に見ていたのは俺ではなく後ろのレギだったのか
レギは一撃で気を失わせられたのだ、しかも続いてローズにその対象が向けられていた
ウインドブレスで何度か飛ばされた珠兎はそれでも執拗にローズを狙っていたのだが
俺やピルスルが狙いをつけると、急に突進してきたり、ローズの背後に回ったりして全く隙を与えてはくれないのだった
『一撃与えられれば』と言いながらピルスルも手に持つ剣に光を集めているが全く近寄らせない
再びローズがウインドブレスを放つ
攻撃魔法で狙っていたなら、ローズもまたすぐに気絶させられていたのだろう
あらゆる攻撃が避けられ、その隙を狙って攻撃されているだろうから
珠兎は風で飛ばされ木の根にぶつかる
その瞬間、ピルスルが突然叫んだ
「ローズ!!撃ち続けろ!!壁に張り付けちまえ!」
ハッという表情でローズも頷く、俺も気付いたと同時にインベントリから霊薬を取り出し使う
「ほならなるべく遠くに、やな!行くで…1秒持たへんかもやで!ウインドブレス!…ウインドブレス!」
1秒あれば余裕だった、すぐさま青い矢を取り出し射ち放つ!
大きな木に張り付けられた珠兎は爆発の衝撃で飛ばされこちらに、その軌道を狙った俺の矢が再び空中で突き刺さる
今度はピルスルの方へと飛んで行った珠兎は
渾身の一撃で、光となったのだ
あとはレギを回復させて今に至るって感じだな、やはり上位種は簡単にはいかないもんだ
相性もあるのだろうけど、あの街の冒険者ではパーティーで挑んでもそうそう倒せるもんじゃないのだろう
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[グランドスマッシュ:溜め攻撃、威力は溜め時間に比例する]
【珠兎】ミト、真珠兎ともいう
非常に素早い動きで相手を翻弄し、状態異常をおこす体当たりで攻撃する
特にそれ以外の攻撃手段はないのだが
賢く、状況を判断し危ういと感じた際にはすぐに逃げる習性も持つ
毒や混乱は効くこともあるが、動きが遅くなるなどの状態異常は一切受けない
麻痺や、眠らせたり石化することももちろん不可能である




