クラスメイト
「どうしたの?」
突然、背後から声をかけられて、わたしは飛び上がった。
おそるおそる振り返と、そこにはうちの中学の制服を着た男子がひとり立っていた。
見たことがあるような気がするけど……誰だっけ。
「大丈夫? 沢崎さん」
首をかしげてわたしの名前を口にする。その声には聞き覚えがあった。
「かっ、柿本くん?」
驚きながらクラスメイトの名前を呼ぶ。
「うん」
「えっ!? め、眼鏡は?」
「こちらではあまり必要ないから、はずしてるんだ」
いつもかけているセルフレームの眼鏡がなかったから、一瞬誰だかわからなかったけれど、正真正銘同じクラスの柿本くんだ。
身長はわたしと同じくらい。
長めの黒髪と、色白の肌。眼鏡の下の顔が意外と整っていることに気づく。
いつもきっちりと着こんでいる制服のネクタイを緩めているのが、なんだか新鮮だ。
「驚かせてごめんね。沢崎さんの姿が見えたから、どうしたのかと思って」
「えっと……」
なんて説明しようかと悩む。依然、わたしの周囲には柿本くん以外の人の姿は見当たらないままだ。
「柿本くんは、ここでなにをしてるの?」
とりあえず質問を返してみた。
「僕? 僕はなにもしてないよ。ただ帰れなくなっただけ」
「帰れなくなったって……」
どういうこと? と訊こうと思ったけれど、その問いは柿本くんの声に遮られる。
「沢崎さんは、帰りたくないの?」
わたしはぎょっとして柿本くんを凝視した。
まるで、さっきわたしが考えていた内容を知っているみたい。
お母さんは、わたしが帰らなかったら、きっとすごく心配する。
でも……。
わたしは足元を見た。
橙色に染まった世界で、白い上靴がいやに浮いて見える。
このままじゃ、帰れない。
わたしはうつむいたまま小さくうなずいた。
「そっか。じゃあ、ちょっとだけ僕につきあってよ。沢崎さんのことは、僕が責任をもって帰すから」
そっと手を引かれて、わたしは顔を上げた。
柿本くんが微笑んでいる。
わたしは息を呑んだ。その控えめだけど優しそうな笑顔に、心臓が大きく跳ねる。
――柿本くんの笑顔を見るのは、これが初めてだった。




