表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げる幼馴染、追う脳筋一途男。その間に挟まった運動不足な私(※別れさせ屋)の受難  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

第4話:香奈、逆襲される(という名の連行)

「……香奈。あんた、ちょっとそこに正座しなさい」


 私の仕事場兼隠れ家であるマンションの一室。私は湿布の匂いをプンプンさせながら、ソファで寛ぐ香奈をジロリと睨みつけた。

 指先一つ動かすだけで激痛が走る。すべては前回のボルダリング――いや、誠司という名の重力に逆らった代償だ。


「えー、何よ美玲。進捗どうなの? 誠司、少しは私への執着薄れた?」

「薄れるどころか、私を巻き込んで『愛の強化合宿』を始めてるわよ。……このままじゃ、私が先に物理的に壊れる。だから作戦を変更するわ」


 私は、痛む腕で一枚のプロフィール資料を突きつけた。そこに写っているのは、我が社が誇る「インドア派・虚弱系イケメンモデル」のハルトだ。


「彼を、あんたの『新しい恋人』として誠司にぶつけるわ。誠司の前でベタベタして、『もう私は、あんたみたいな暑苦しい男は無理なの』って絶望させてやりなさい」

「いいわね! そういうの待ってたわ!」


 香奈は手を叩いて喜んだ。だが、私は知っている。誠司という男が、そんな軟弱な芝居で引き下がるほど「普通」の人間ではないことを。


     *


 決戦の場は、誠司が毎朝のランニングコースにしている河川敷の公園。

 ベンチに座る香奈とハルト。ハルトは設定通り、ひ弱そうに香奈の肩に頭を預けている。私は少し離れた木陰から、双眼鏡でその様子を監視(兼・高みの見物)していた。


「(さあ、来なさい誠司。失恋のショックで、その無駄に発達した大腿四頭筋を萎えさせてやるわ……!)」


 地響きのような足音が近づいてきた。誠司だ。

 彼は仲睦まじい二人を発見し、急停止した。その刹那、公園の空気が凍りつく。


「……香奈。その男は、誰だい?」


 低く、重厚な声。嫉妬か? 怒りか?

 香奈は勝ち誇ったようにハルトの腕に絡みついた。


「紹介するわ、誠司。私の新しい彼氏よ。彼はあんたみたいに走り回ったりしないし、プロテインも飲まない。優しくて、繊細で、素敵なの!」


 ハルトも震えながら「……よろしく、お願いします」と小声で挨拶する。

 さあ、絶望しろ誠司! 潔く身を引け!


 しかし。

 誠司はハルトの細い腕、青白い顔、そして頼りない立ち姿を――舐めるように観察し始めた。

 五秒後。彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……なんてことだ。……香奈、君はそんなに、栄養状態の悪い男を選んでしまったのか!」


「……は?」

 香奈の顔が固まる。私も双眼鏡を落としそうになった。


「香奈! 君が僕から逃げるのは自由だ。でも、君を守る男がこんなに『ヘモグロビンが足りてなさそう』なのは見過ごせない! こんな細い腕じゃ、君を一生お姫様抱っこし続けることもできないじゃないか!」


「いや、一生しなくていいから!」香奈の絶叫を、誠司の咆哮がかき消す。


「分かったよ、香奈! 君の愛を尊重しよう。その代わり――この男は、僕が責任を持って『君を任せられる男』に鍛え直してやる!」


「えっ、あ、ちょっ……!?」


 誠司はハルトの襟首を掴むと、そのままどこからか取り出した「巨大なトラックのタイヤ」を彼の前に置いた。


「香奈もだ! 最近、逃げ足が鈍っていると思っていたんだ。二人揃って、このタイヤを引いて砂利道を往復だ! さあ、愛の重さを物理で体感しよう!」


「死ぬー! 美玲助けてー!」


 絶叫とともに、香奈とハルトは誠司に引きずられるようにして、地獄のトレーニング場へと連行されていった。


     *


 一時間後。

 私は河川敷のベンチで、優雅に高級アイスを食べていた。

 遠くで、泥にまみれて「もう歩けない……」と這いずっている香奈と、白目を剥いて倒れているハルトが見える。


(……ふふ。因果応報ね、香奈。少しは私の苦労が分かったかしら)


 高みの見物、最高。

 冷たいバニラアイスが喉を通る幸福感に浸っていると、背後から爽やかな風が吹いた。


「美玲さん。お待たせしました」


「あ、誠司さん。お疲れ様です。……二人とも、いい仕上がり(ボロ雑巾)ですね」

「はい! でも、二人の根性が足りません。そこで、美玲さんに相談が」


 誠司が、キラキラとした瞳でストップウォッチを差し出してきた。


「二人のやる気を引き出すために、美玲さんに『並走』してほしいんです。美玲さんが隣で応援(罵倒)してくれれば、二人の乳酸値も限界を超えるはずです!」


「……え?」

「さあ、行きましょう! ちょうど美玲さんの分のタイヤも用意してありますから!」


「なんでよおおお!」


 結局、私もタイヤを装着され、夕暮れの河川敷で「地獄の三人連結レース」に参加する羽目になった。


 プロの別れさせ屋、美玲。

 今夜の戦績。

 誠司に絶望を与える(失敗。むしろやる気を与えた)。

 香奈への報復(成功したが、自分も巻き込まれた)。


(……香奈。……明日こそ、あんたを地の果てまで呪ってやる……!)


 河川敷には、三人の絶叫と、誠司の「もっと腿を上げて!」という爽やかな号令だけが響き渡っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ