第九十話 これがクリスマスプレゼント!?
「桜文様のお揃いのタンブラー?」立花さんがそう言って、箱から取り出すと、スノードームと蝋燭の間に二つを並べて置く。
「景くんプレゼントは凄く嬉しいんだけど、桜文様って季節外れじゃない?何か意味があったりするの?」立花さんが不思議そうに首を傾げている。
僕は小さく息を吐いて思いを告げた。「僕と立花さんが出会ってから今まで、桜の木が必ず見守ってくれてたなって思って選びました。そして、木には一般的に寿命が無いと考えられています、永遠なんです。けど、僕と立花さんにはいつか必ず別れがきます。それって絶対じゃないですか?永遠はあり得ないんです。僕たちはいずれ死に別れる事になるんです。今はタンブラーしか買ってあげる事はできませんが、いずれ庭付きの家を建てて、そこに桜の木を植えたいなと思います。運命を信じて、時を超えても迷わないように、来世も、来来世も出会えるように⋯⋯だから桜文様のタンブラーにしました」
思いはしっかり伝えられたと思う。心配なのは重いって思われたり、嫌われたりしないかって事だけだ。
そう思うと唐突に不安に駆られ、蝋燭の向こう側にある立花さんの表情を覗き込んでしまった。
呆けてる⋯⋯?
「た、立花さん!?」僕が焦り気味に声をかけると、
「あ!ごめんごめん、聞いてたよ」と立花さんが失っていた意識を今取り戻したように話し始めた。
「つまり景くんは、死んでも私と一緒にいたいって事であってる?」立花さんが人差し指を唇に当て考え込むように訊ねてくる。
「あながち間違っていないと思います」なんかいまいち伝わっている感じがしないけど⋯⋯と僕が眉間に皺を寄せると、
「いまいちわからないんだけど、来世の私は今の景くんを大好きって気持ちを持ってるのかな?もしくは景くんと出会い今まで過ごし愛おしく思った気持ちは知ってるのかな?結局、来世の景くんと私がまた出会うにしろそれは別の気持ちなんじゃないかなって思うんだけど、そう考えるとだよ、大事なのは今なんじゃないかって思うのは私が変なのかな?」
あ、あれ?これ僕盛大に外してないか?立花さんに言われた事はすっごく理解が出来て納得せざるを得ない、むしろそれが正解なんじゃないかと思えた。
「立花さんは変じゃないです。言われてみればその通りです」僕が極めて真剣にそう答えると、
「でしょーー!じゃこのタンブラーはこれから過ごしていく時間の中で一緒に使っていこう」そう言って立花さんが満面の笑みを浮かべた。
「はい!」
僕の元気な返事に気を良くしたのか?立花さんが口角を上げたまま話を続ける。
「じゃ、一緒にお風呂入ろっか?」
「は、はひ?」僕の返事が完全に裏返った。それに立花さんが気付いたかは分からないが、僕に有無を言わせないように畳み掛けてくる。
「そしてこのタンブラーを使ってモーニングコーヒーを⋯⋯」
「ス、ストップ!立花さんちょっと待って下さい」立花さんが素っ頓狂な表情を浮かべ、なにかしら?と頬杖をついて僕に微笑みかける。
「一緒にお風呂とか無理ですから、それに今日はクリスマスイブですよ、立花さんとの約束はクリスマスです」僕が懸命に説得を試みると、
立花さんが「ほぅ」と言って、まるで北斗の拳のケンシロウのように指の関節をポキポキ鳴らしながらスッと立ち上がった。
「た、立花さん⋯⋯」僕がその様子に狼狽えていると、立花さんが両手を使ってバッと服をまくり上げた。
「み、水着ですか!?」
「そうよ水着よ。ここまでしてきた私に恥をかかせるつもりかしら?それに、肌が触れ合うことで安心感や親密感が高まり、夫婦仲が良好になることがあるらしいじゃない?」
恥をかかせるとかそんなつもりは毛頭ないけど、僕たちは夫婦ではありませんよね?それに良好な関係は築けていたと思っていたのに、そうじゃなかったってこと?
だめだ、心臓が服の上からでもわかるくらい鼓動を打ち始めてしまって、考えがうまく纏まらない。
そんな僕の様子を見ていた立花さんが「ごめんちょっとトイレ」と言って席を外す。
「あ、はい!ゆっくり行ってきて下さい」
千載一遇のチャンス。今のうちに心を静め冷静に考えよう。
まずは進んでも地獄、退いても地獄に対しては何もせずクリスマスイブの内に寝てしまおうと安易に考えていたのだが、恐らく立花さんの水着を着込んでくる用意周到さを考えるとそのやり方は絶対に通用しないと思う。
正直、立花さんがどんな手を使ってくるかはわからないが、一緒にお風呂に入ったら詰みだ。あとはなし崩し的に物事は進んで行くだろう。
であれば逃げるか?それは完全に悪手だ。そんな事をしたら僕たちの関係は最悪の一途を辿ってしまう⋯⋯なにか良い案は無いだろうか?
僕は足を小刻みに揺らしながら視線を机に落とした。
そう言えば、立花さんからもらったクリスマスプレゼント開けてなかったな、開けてもいいのかな?
僕はその箱の両端を掴んで持ち上げた。意外に重いな、何が入っているのだろう?
『ガチャ』
いい案が思い浮かぶ前に立花さんが戻ってきてしまった。
「あ!景くんクリスマスプレゼント開けてくれるの?」立花さんがそう言いながら凄く嬉しそうに僕の向かい側の席に座った。
「はい!すっごい楽しみです」正直、彼女からもらった初めてのプレゼントが嬉しくないわけが無い。
僕はワクワクする気持ちを抑え、クリスマスプレゼント用に包まれた包装紙を丁寧に剥がしてから、ゆっくりと箱を開けて中を見た。
黒を基調とした絶対僕に似合いそうなマフラーと⋯⋯スッポンドリンクとマムシドリンク⋯⋯それに避妊具⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
僕が唖然とした表情で顔を上げると、
誰もが一度は耳にしたことがあるだろう、ノーリツのお風呂の曲が流れてきた。
『お風呂が沸きました』
「な、なんで!?」僕が声を震わせ叫ぶと、「じゃ入ろっか?」と立花さんが悪魔のような微笑みを見せながら立ち上がった。
そして、そのまま僕の方に歩いてくると、僕の腕に立花さんの腕が回され、まるで警察に連行されて行くかのように、お風呂場へと連れて行かれるのであった。




