第八十九話 決戦!クリスマスイブ!!
カップルにとって一番のイベントと言っても過言ではないクリスマスがやってきた。
僕の家でもそれを祝うかのように、リビングの片隅にはサンタやトナカイ、星のオーナメントに七色に光る電飾が施されたクリスマスツリーが飾られており、ダイニングテーブルの真ん中には雪だるまのスノードームが置かれていた。
そして、停電したわけでもないのに消された電気。テーブルの上にはピザにポテト、フライドチキンを、蝋燭がそれらを照らし出すように置いてある。
僕と立花さんは料理を囲むように向かい合わせに座っているのだが⋯⋯
「立花さん、部屋を真っ暗にする意味ってあります?」
「あるわよ!雰囲気が大事じゃない?」そう言って立花さんがフンスと鼻息を鳴らした。
僕には雰囲気が良いと言うよりは、停電になってなんとか探し出した蝋燭で手元を照らしている侘びしい感じにしか思えない。
だけど立花さんが良いって言うならいいか?と思って、気にする事をやめ食事を続ける事にした。
現時刻は二十時ちょうど、ある程度料理も食べ終わった所で「立花さんそろそろケーキだしてもいいですか?」と訊ねると、
「うん、そろそろ食べよっか」と言ってくれたので、僕は席を立ち暗闇の中、慎重に冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫を開けると冷っとした風が頬を撫でる。僕はケーキが崩れないようにそっと取り出し、転ばないように足元に気を付けて席に戻った。
そして、箱からケーキを取り出し切り分けようとすると、「ちょっと待って!なんで蝋燭立てないの?」立花さんが腕を突き出し、制止してきた。
僕は首を傾げる。「普通立てるでしょ?」立花さんが腕を組んで僕を睨む。
普通がどうだか分からないけど、クリスマスケーキに蝋燭を立てて火を点けるのはいいとして、誕生日の人がいないのに誰がフッて消すの?
そうこう考えているうちに、なぜクリスマスを祝うのかが分からなくなってきてしまった。
しまいには、「クリスマスイブってクリスマスの前日ってだけで、特になにもありませんよね⋯⋯?」と心の声が溢れてしまい、その結果立花さんに冷淡な視線を向けられ「元も子もないわね」と呆れられてしまった。
カップルが過ごすクリスマスイブの会話では到底ないなと思った。ふと立花さんの顔に視線を移すと蝋燭の向こう側で、明らかに機嫌が悪そうな表情を浮かべている。
ヤバイ、そう思った僕はケーキに蝋燭を立て「立花さん一緒にフッて消しましょう」と本筋へと話題を戻す。
立花さんがか細い声で「ん」と肯いて、ケーキに顔を近付ける。
僕も蝋燭に火を点けて、顔を近付けた。
ところで、こういう場合の蝋燭の火はなんて言って消せばいいのだろうか?誕生日おめでとうとかわかりやすい掛け声があると消しやすいのに⋯⋯
立花さんが僕の困り果てた顔を見て笑いを堪えているのがわかった。
お互いにそのままの状態でいると、痺れを切らした立花さんが「メリークリスマス!」と言って、蝋燭の火に息を吹き付け一息で全ての蝋燭の火を消していく。
宗教がとか、メリークリスマスと言ってなんで火を消すの?なんてもう野暮な事を言うつもりは無い。初めての彼女と初めてのクリスマスイブを楽しもう。
僕はあれこれ考える事を放棄して、ケーキを取り分け立花さんの目の前に置いた。
そして、そのケーキを食べ終わるとその時は唐突にやってくる。
そうプレゼント交換の時が。
立花さんが「景くん、これクリスマスプレゼントだよ」と言って、クリスマス用にラッピングされた箱を僕に手渡してくれた。
それを「ありがとうございます」と言って受け取り、箱を開ける前に僕もクリスマス用にラッピングされた箱を立花さんに手渡した。
「景くん開けていい?」立花さんがプレゼントに目を輝かせている。
「もちろんです」と答えると、立花さんが包装紙を剥がして箱を空けた。
「桜文様のお揃いのタンブラー?」
そう、僕と立花さんの長い長い夜が今から始まろうとしていた。




