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第八十四話 騎馬戦はお約束だらけ♡

 「勝っったぁぁぁぁぁぁ!!」


 学校中に獣のような雄叫びが響き渡った。長かったジャンケン勝負の勝敗がようやく決まったみたいだ。


 僕は大きく溜息をついて俯き、気持ち新たに顔を上げた。


 今度は僕の出番だ。


 「それではこれより、最終種目である騎馬戦を行いたいと思います。エントリーされている皆様は速やかに指定の場所にお集まり下さい!」


 なんでこうなったかは、はっきりとは覚えていないけど、確か身長が高いって理由だけで選ばれたような気がする。


 そう、よくあるラブコメみたいに期待されても僕は馬で騎手ではない。もちろんフラグを回収するとかも一切ない。


 そんな事を考えながらゆっくりと指定の場所に向かっていると、


 『バンッ』突然背中に強烈な痛みが走った。


 恨めしそうな目で振り返ると「よぉ〜!二階堂、今日は宜しく頼むな!」日下部くんが爽やかな笑顔を振り撒きながら僕と肩を並べた。


 「日下部くん、痛かったよ⋯⋯」


 「悪い悪い、気合い入ってるかな?と思って確かめたくてさ。俺達しっかり馬やるから()()()()()()()()()()()()()()()!」大口で笑いながらまた、二度、三度と僕の背中を叩いてくる。


 こういうノリ苦手だなー、と思いつつ苦笑いを浮かべていると、ほらハチマキ巻けよと言われそれを受け取り頭に巻いた。


 そのまま指定の位置に到着すると、一緒に馬をやる二人がもうすでに待機していた。


 「作戦会議やろうぜ!!」日下部くんが僕の肩に手を回し、待機していた二人を混ぜての作戦会議が始まった。


 「開幕囲まれないように、一番近い騎馬に突進するからさ二階堂はすぐにハチマキ奪ってよ!そのあとからはノリだなノリ!」


 まったく作戦になっていないような気がするけど⋯⋯とりあえず三人で声をかけあって突進して行けばいいのかな?


 初めてやる騎馬戦だから多少緊張はしているものの、この雰囲気は嫌いじゃないかも?色んな思いが風に運ばれ、それを肌に感じ目を瞑る。


 「全員揃ったようなので、騎馬を組んで下さい!」


 そのアナウンスで目を開き、左足を担ぐ予定の僕は、場所を左側に移して騎手を乗せる準備をした。


 「なにやってんだ二階堂?早く乗れよ!」その声で視線を横に移すと、すでに騎馬が組まれておりあとは騎手が乗るだけの状態になっていた。


 「あれ?騎手は?」僕が首を傾げ訊ねると、


 三人同時に笑いだして「なに言ってんの?騎手は二階堂じゃん?」と指をさされた。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 ん?はっ?「えぇぇぇぇ!?」今日一大声を出したのは僕だとわかるくらいに声が響き渡った。


 何かの間違いだよね?そう思って「騎手は日下部くんだよね?」と訊ねると、


 「何言ってんの?最終的に二階堂にしようって話し合ったじゃん?あれ?そう言えばあの時二階堂いた?」三人同時にいぶかしげな表情を浮かべる。


 絶対そこに僕いなかったよね?金魚みたいに口をパクパクさせていると、


 「ま、いっか、とりあえずそろそろ始まりそうだし二階堂乗れよ」日下部くんがあっけらかんに言う。


 僕が呆けながら言われたまま騎乗すると、


 「え?ヤバ!?景くん騎手じゃん?超ラブコメ展開じゃん?」立花さんが一人で盛り上がり始めた。


 「景くーーん!!私朱里に勝ったから、景くんも私のために勝ってねー!!」


 もう死にたい⋯⋯


 直前まで勘違い?していて、ただでさえ恥ずかしいのに、立花さんの追い打ちで恥ずかしさが倍増した。


 もうこうなったらヤケだ、「君のために勝つよマイハニー!」とか言って競技終了と共にキスでもしてやろうかな?


 ま、そんな事は口が裂けても言えないけど⋯⋯けどだ!!好きな人の前で少しでもカッコいい所を見せてみたい。


 僕は両頬をパァンと叩いて気持ちを入れ直した。


 「それではこれより、騎馬戦を開始します。位置についてよ〜い」『パァンッ』スターターピストルの音と共に日下部くん達が猛ダッシュする。


 標的が決まったのか?単騎で孤立している騎馬を見つけると、そのまま突っ込んで行く。


 相手もそれに気付いたのか臨戦態勢をとり待ち受ける。日下部くん達がその騎馬の目の前まで行くと急に方向転換して、その遠心力で僕の体が騎手のハチマキ奪える距離まで縮まる。


 「「二階堂今だ!!」」


 その掛け声で腕を伸ばすと、ハチマキが僕の手に吸い込まれるように入ってくる。


 「よっしゃー!まずは一本!次行くぞ!」


 初めての事だったからだと思う。胸が高鳴り手が震えていたのに、気付いたら「やったー!!」とハチマキを持った片手を天にも届く勢いで突き上げてしまっていた。


 それがまずかった⋯⋯それを見ていた相手の騎馬が二騎こちらに向かってきた。


 「これはやべーわ」日下部くんがボソッと呟くと、前後を挟まれてしまった。


 逃げ場が無い。万事休すか?と僕が考えてる隙に日下部くん達がヒソヒソ声で話し合ったのか?後の騎馬に突進して行く。


 「二階堂、ここ抜けないと絶対にやられる⋯⋯頼んだ!」


 「わ、わかった。やれるだけやってみる!」


 そう言った瞬間、相手騎手と手四つで組み合った。僕も相手も譲る気が毛頭ないのが分かる力比べ。


 一進一退の攻防が続き、腕が痺れてきた。僕は片手を解いてすかさず相手のハチマキに手を伸ばすと、それをかわして今度は相手がハチマキを狙ってくる。


 「二階堂後ろからも来てるぞ!なんとかしろー!」


 「なんとかって、無茶言わないで下さいよー!」


 そうこうしている間に、後ろの騎馬も参戦してきた。


 後ろから前からハチマキを狙われ、必死に躱し続ける。


 飛び散る汗、飛び交う怒号、体勢を崩しながらも諦めず戦い続けたその時。


 「あっ!」三騎がもつれ合って、騎馬がまるで砂の城が波にさらわれて行くように崩れ落ちていく。


 失格だ⋯⋯


 精根尽き果てた僕は、そのまま大の字になって天を仰ぐ。


 「二階堂大丈夫か?」日下部くんが心配そうに顔を覗き込みながら、手を突き出してきた。


 「うん、大丈夫」そう言って、突き出された手を掴むと力強く引き起こされた。


 「惜しかったな!めちゃくちゃナイスファイトだったぞ!」余韻冷めずたかぶったままの口調で褒められると、


 「うん!ありがとう!すっごい楽しかった」自然と言葉が溢れてきた。


 そのまま僕達四人は肩を並べて、検討を称えられているかのように秋陽しゅうようの祝福を背中に浴びながら、味方の陣地へと戻り地面に腰を下ろした。


 まだ心臓がドキドキしている。


 周りの喧騒が聞こえてこないくらいに、僕の周りだけが静かに感じる。


 その時、目の前の風景が突然縦向きになり、片方の頬に柔らかい物を感じた。


 「お疲れ様!景くんカッコよかったよ!」突然立花さんが現れた。


 「う、うん、ありがとう!」僕がそう言うと髪を撫でられた。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 ラブコメお約束の膝枕ーー!僕の心の中で声にならない叫び声が上がると同時に、最後の種目である騎馬戦も無事終わり、白熱した運動会は白組の勝ちっていうおまけ付きで幕を下ろした。

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