第八十二話 借り物競争、そのお題は私で合ってる?
「それでは次の種目借り物競争に移りたいと思います。エントリーされた皆様は速やかに指定の場所にお集まり下さい」
僕の出番だ。アナウンスが聞こえた瞬間、着衣に付いた砂埃を払って立ち上がると、
「景くん!!」
名前を呼ばれロボットみたいにギギギギッと首だけで振り返った。立花さんが胡座をかいてグッドサインをしながらウインクをしている。
そう、この借り物競争のお題しだいで僕は立花さんをお姫様抱っこしたままゴールしなくてはいけなくなる。
できることならフラグ回収はしたくないけれど⋯⋯僕は眉間を摘み顔を左右にふりながら指定の場所へと向かった。
指定の場所についた僕は、先生の指示のもと前から五番目に整列すると辺りを見渡した。
見事に鍛え抜かれた大腿直筋と腓腹筋の膨らみがズボンの上から見てもわかる⋯⋯みんな速そうだな⋯⋯だけどこれは借り物競争、運次第では僕だって一位を狙えるはず。
そう意気込んで自分の順番がくるのを心を静めて待つ事にした。
「位置について、よ〜い」『パァンッ』スターターピストルの音で第一走者が一斉に飛び出した。
全員物凄い速さで駆け出すも、コース途中の机を前に停止して、カードをめくる。
そのカードの内容を見た瞬間、蜘蛛の子が散るようにバラバラに走り出す。
ある人は自分のクラスが並んでいる場所に行き「誕生月が僕と同じ人手を挙げて」と声を大にして探し、
またある人は全校生徒の前でジャンケンを始めた。
ちょっと待って、予想以上にお題難しくないか?
そんな様子を横目に一人二人ともうすでにゴールしている人もいる。
お題の内容はわからないけど、ゴールした二人の片方は女性をおんぶしてゴールをして、もう一人はバッド片手にゴールをしていた。
全部のお題が難しい訳じゃない?それにしても結局は運しだいか⋯⋯
第一走者が全員ゴールして、第二走者の順となりスターターピストルの音が鳴り響いた。
自分の番が近づくにつれ、スターターピストルの音がまるでロシアンルーレットをやっているような錯覚に陥ってしまい、徐々に心臓が早鐘を打ち始める。
そして、第三走者のスターターピストルの音が聞こえると先程よりも速く、更に力強く心臓が鼓動を打ち始め、気付くと手にびっしょり汗をかいていた。
勝ちたいと強く思う気持ちが、こんなにも緊張を誘発するだなんて知らなかったよ⋯⋯僕はお尻に根っこができたようにその場から動く事すらできなくなってしまっていた。
「⋯⋯二階⋯⋯⋯⋯二階⋯⋯二階堂!大丈夫か!?」
「は、はい!?」
え?なに?気付くともうすでに僕の順番になっていて「二階堂スタートラインに整列しなさい」と声をかけられ立ち上がろうとするもお尻からびしっり生えた根っこが地面にしっかりとこびりついて立ち上がる事ができない。
行かなくちゃ⋯⋯僕は無理矢理地面からお尻を引き剥がしてスタートラインに整列した。
まだ頭がボーッとする。
「それでは、位置についてよ〜い」
え?あ?ちょっと待って、まだ心の準備が⋯⋯『パァンッ』スターターピストルの音で僕以外の第五走者が一斉に飛び出した。
完全に出遅れた⋯⋯僕がそのままスタートラインで直立不動してると、
「景くん頑張れーー!」
立花さん!?お姫様抱っこ!?
僕はその声援で我に返り、コース途中にある机まで一心不乱に走り出した。
周りの景色が物凄い速さで通り過ぎて行く。僕はお題が置かれている机に到着すると、間髪入れずにそれをめくった。
お題は⋯⋯うん、これなら⋯⋯
気付くと思った以上に視界が開けていて、走りながら周りの様子を伺うとみんなまだお題に悪戦苦闘している。
いける!!
そのまま立花さんがいる場所まで向かい「立花さん!!」と大声で叫ぶ。
「当然よね」体育座りしている立花さんが腕を大きく広げた。
僕は立花さんの元にいきそのまま両腕で抱き上げた。その瞬間色々な声の歓声が沸き起こる。
は、恥ずかしい⋯⋯
立花さんを落とさないようにしっかり抱えて走ると、僕の体力が完全に限界を迎えたのか?ゼェゼェと息が漏れ始める。
後少し⋯⋯もう少し⋯⋯苦しい⋯⋯
そしてその瞬間がようやくやってきた。ゴールテープを切って、立花さんをその場に降ろした。
僕が自分の膝に手を付いて乱れた息を整えようとしていると、お題を確認するためか?一人の先生が近寄ってきた。
「お題を確認します」その声で僕はポケットに入れていたカードを先生に渡す。
それを確認した先生が僕と立花さんを交互に見る。
立花さんがその様子を不思議に思ったのか首を傾げると、先生が目を細めてまた僕と立花さんを交互に見た。
「先生なんですか?もしかするとお題に私が合って無かったですか?」立花さんが先生に歩み寄る。
僕は踵を返しゆ〜っくりと自分のクラスが集まっている場所に戻ろうとした。
「いやお題は⋯⋯うむ⋯⋯まぁいいか」先生がお題が書かれたカードを手に持ち突き出してきた。
立花さんがそれに顔を寄せお題を確認する。
「鬼ぃ〜〜⋯⋯!?」
僕の後方から何かがポキポキと鳴らされる音が聞こえる⋯⋯
「け〜い〜く〜ん!?」背筋が凍えるような声で名前を呼ばれて、僕はロボットみたいにギギギギッと首だけで振り返った。
そこにはお題通りの鬼がいた。
体力も完全に尽きた僕は、逃げる事すらできず⋯⋯意識を取り戻すと自分のクラスが整列している場所で体育座りをしていた。




