第八一話 体育館裏での密会
「ちょっと景くん!そんなに引っ張らなくてもついて行くってば!」
僕は立花さんの手首を掴んで、ひとけの無い体育館裏へと連れ出した。
「景くんいったいどこまで行くの?はっ!?まさか⋯⋯こんなひとけの無い場所に私を連れ出して⋯⋯あんなことやこんなことを⋯⋯変態ね⋯⋯でもまぁ、私は一応彼女だし言ってくれればいつでも────Welcomeよ!」
立花さんがそう言いながら両腕を大きく広げた。
「はぁーーーー⋯⋯⋯⋯立花さん」僕は親指を使って、立花さんの頬や首、手に付いた傷を拭う。
「体中傷だらけじゃないですか⋯⋯どうやったら障害物競走でこんなに傷だらけになれるんですか?」
「なによその呆れ顔!仕方ないじゃない?朱里が喧嘩売ってくるんだから!」
仲良くしろとは言わないけど⋯⋯
「売られたからって買わないで下さい!いつか大怪我するんじゃないかってハラハラしているんですから」語気を強めて思いを告げる。
「うぅ〜っ⋯⋯じゃ〜どうしろって言うの?」
「これは彼氏からのお願いです。今後一切朱里とは喧嘩しないで下さい。万が一喧嘩しそうになったら止めに入ります。いいですね?」
俯いていた立花さんが弾けるように顔を上げて、目を輝かせ耳に髪をかけた。
「らしくなってきたね!」
僕が首を傾げると、
「か、れ、し!らしくなってきた!」
彼氏らしいかどうかはわからない。それより立花さんは僕の話を聞き入れてくれたのだろうか?
そう思ってしかめっ面をしていると、
「そんな顔しない、大丈夫程々にするからそれより⋯⋯⋯⋯ギューッとしなさい!」
立花さんがまた両腕を大きく広げた。
「喧嘩しないと約束してくれないと絶対に嫌です」と僕が言い切ると、
「はっ!?私の求愛を拒否なんてできると思ってるの?」
立花さんが腕を大きく広げたまま、笑顔をひきつらせて首を傾げる。
「お、横暴です⋯⋯」僕がそう言いながら、立花さんにゆっくりと歩み寄りそのまま抱き締めると、
立花さんは凄く満足したのか、僕の胸に頬を擦りつける。
そのまま胸の中で「ねぇ景くん、どうする?いつもみたいにこのまましちゃう?」と艶めかしく小声で呟く。
「立花さん⋯⋯誤解するような言い回しはやめて下さい。僕達そういう関係になって無いじゃないですか?」
「遅かれ早かれじゃない?」立花さんはそう言って僕から離れると、満面の笑みを浮かべ首を傾げた。
僕だってしたくないわけじゃないから否定はできない。できないけど⋯⋯
「い、いつになるかわからないですよ」と言葉を濁してしまった。
すると立花さんは「クーックックッ」と悪代官みたいな高笑いしながら「ほら、遅かれ早かれじゃない?」と目をキラキラさせる。
ぐぅの音も出ません。
そう思って眉をひそめると、
「ほら、そろそろ戻ろう!」と立花さんが右手を突き出してきた。
僕がしげしげとその手を左手で掴むと、立花さんが突然駆け出した。
僕は体勢を崩しながらも、空いてる右手で地面を掻くようにして立花さんに遅れないようについて行く。
本当に敵わないなぁ⋯⋯でも約束は絶対に守ってもらいますからねと心に決めながら。
「そう言えば景くん?次出場する種目ってなに?」
「次は確か?借り物競争です」
「え?なにそれ?ラブコメ定番の激アツのやつじゃん!?」
え?なにが激アツなんだろうか?
「お題が私に当てはまったら⋯⋯ゴールまでお姫様抱っこよ!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
どうかお題が立花さんに当てはまりませんようにと願いながら。




