第七十九話 玉入れ競争!?改め玉合戦
雲一つない高い秋空の下、今第一種目である玉入れ競争が始まろうとしていた。
「ねぇねぇ景くん、白組はどっちに行けばいいの?」と立花さんが首を傾げる。
「白い玉入れ籠と、白い玉が地面に置いてあるのであっちじゃないですか?」僕はそう言って、白線が引かれ左右に分けられた右側を指さした。
「あ〜、あそこね、りょ!じゃ行こっか」
「はい!」
僕と立花さんは、肩を並べ指定の場所であろう枠内に入り玉入れ籠を見上げる。
「お、思ったより高いですね」僕が震えた声を絞り出すと、立花さんは飄々と「こんなもんじゃない?」と腕を組んだ。
この高さをこんなものと言える立花さんは本当に凄いと思う。
運動が苦手、だけど玉入れくらいならできるだろうと高を括っていたのに⋯⋯玉を入れられる気がしない。
僕はそう思いながら、足元にある玉を一つ手に取り軽く握ってみる。
シャリシャリとした感触が少し気持ちいい、砂が入っているのかな?それにそこまで重くない。これならいけるかも。
僕が絶望の淵から一歩這い上がると、「競技参加者が全員揃ったようなので、これより玉入れ競争を開始したいと思います。ルールの説明をさせて頂きます。制限時間は三分!五メートルの玉入れ籠に地面に落ちている百個の玉をより多く入れたチームが勝ちとなります」
ご、五メートル!?思った以上の高さに驚愕して、玉入れ籠を見上げポカンと口を開けていると、
「いい案を思いついたわ」立花さんが腕を組み仁王立ちしたまま話し出した。
嫌な予感しかしない。僕が生唾をゴクリと飲み込み立花さんに視線を移すと、
「景くんに玉をいっぱい持たせて、白組全員で景くんを籠に投げ入れるってのはどう?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
想像して欲しい、僕が投げられ頭から玉入れ籠に突っ込まれている光景を⋯⋯
「却下です!!そんな事無理に決まっているじゃないですか!?」僕が声を張り上げると、
「無理か無理じゃないかじゃないわ、やるのよ」立花さんが僕に顔を向けて、口端を吊り上げた。
なんかカッコいいこと言ってるけど⋯⋯「ぜ、絶対にやりませんからね」と念を押した瞬間。
「位置について、よ〜~い」『パァンッ』とスターターピストルの音が鳴り響いた。
その号砲と共に、よく耳にするBGMが流れ始め皆が一斉に玉を籠に投げ入れ始めた。
ヤバい出遅れた。僕は急いで足元にある玉を掴み、狙いを定め右手を振りかぶって投げた。
高く打ち上がった僕の玉は、青空で弧を描きそのまま玉入れ籠を通り過ぎて、地面にポスンッと落ちてしまった。
む、難しい〜力加減が悪いのか?狙い方が悪いのか?はたまた別の理由があるのか?投げても投げても籠をかすりもしない。
そんな僕を余所に、立花さんが投げた玉は綺麗な弧を描いて籠に吸い込まれて行く。
なにかコツでもあるのだろうか?僕はこの状況に嫌気がさし、両手を使ってがむしゃらに投げてみるものの一個も入らない。
すると突然、『ボフッ』と音とともに左頬に痛みを感じた。
え?なに?僕はそう思って左方向に視線を移すと、白いハチマキを頭に巻いた朱里が赤組の陣地からこちらを睨んでいた。
「積年の恨みここで晴らしてやる」朱里はそう言いながら、足元の赤玉を掴んで思いっきり振りかぶって投げてきた。
「ちょっ、朱里!?」両手を前に突き出しバタバタして、避けようと試みるも眉間にクリーンヒットする。
痛い!!てか恨みってなに?僕恨まれるような事なにかした?右手で眉間を抑え朱里を睨み返す。
すると右肩が強い力で引っ張られ、今度はなに!?と思って振り返ろうとすると、
「景くんちょっとどいて」立花さんがズイッと僕の前に出てきた。
「ちょっ、立花さん!?」僕がそう言うと、立花さんはそれを静止するように腕を突き出してくる。
「朱里、それは逆恨みってやつじゃ──────」そう言いかけた瞬間、立花さんの鼻に玉がクリーンヒットした。
「蒼、その白いハチマキを真っ赤に染め上げて──────」今度は朱里の口に玉がクリーンヒットする。
なんか物凄く怖い話をしているけど⋯⋯二人は玉の当たった場所を片手で抑えながら、もう片方の手でお互いに指を差し合い、
「「勝負よ!!」」と叫ぶと玉を投げ合い始めた。
地上に空中に玉が飛び交う。なにこの光景!?
「赤頑張れー」
「白負けるなー」
その光景を見た周りの応援にも熱が入る。投げ合ってる二人は白組同士だけどね⋯⋯
ここで『パァンッパァンッ』とスターターピストルが鳴らされ競技終了となり、結果発表となった。
それと同時に、立花さんと朱里がお互いに詰め寄ると肩で息をしながら「「勝負はお預けね」」と言い合って踵を返し颯爽と帰って行った。
果たして、あの二人は思い出を刻むことができたのであろうか?端から見たら汗まみれ、砂埃まみれ、傷まみれで思い出では無く、闘いの跡が刻まれているような気がする。
僕は二人の背中に遠目から哀愁漂う視線を送る。
「結果発表〜〜!!」そのアナウンスが響き渡ると、先程まで熱を帯びていた喧騒が徐々に落ち着きを見せ始めた。
結果は赤組74点、白組63点で今時点では赤組が優先となってしまう。
「次こそ決着をつけてやる」朱里がその場で立ち上がり立花さんを指さすと、
「望むところよ、ま、結果は見えているけどね」と立花さんが座ったまま冷笑する。
白組負けてるし体育祭頑張りましょう?と思いつつ、僕はと言うと⋯⋯結局玉を一個も入れることができず、苦い思いだけを残して終わってしまった事が少し悔しく肩を落とすも、これで競技が終わったわけじゃない、次は頑張ろうそう思って拳を強く握り想いを馳せた。




