第七十六話 朱里と僕の結末
景と蒼が付き合ってる?その言葉が聞こえた瞬間、体中の血の気が引いていき、両腕を抱いてうずくまってしまった。
間違いであって欲しいと思った。でも聞こえてくる声が、そのわずかな希望すらも硝子をハンマーで叩いたように砕け散っていく。
砕け散った硝子は、そこに居ることすら許されず、ぞんざいに扱われ危ないからという理由で、暗い箱の中に無理矢理に押し込まれると、無残にゴミ箱に捨てられていった。
うちの方が先に景を好きになったんだよ。
そんな思いが駆け巡ってる中、情け容赦なく二人の馴れ初め話しが聞こえてくる。
もういい、聞きたくない。
うちの中を駆け巡っていた思いが、ふつふつとした怒りに形を変えていく。
『バンッ』と机を叩くような音が聞こえた。
あれ?なんで皆うちに注目してるの?って気付いたのも束の間、うちは景の腕を掴んで教室から走り出していた。
廊下から見える外の景色が、物凄い速さで流れて行くと、突然うちの腕が跳ね上がりまわりの景色が停止した。
「ちょっと、朱里どこに行くの?」その声で振り返ると、景が肩で息をしながら両膝に両手を付いていた。
キョロキョロと周りを見渡すとそこは下駄箱の前で、なんでこんな所にいるんだっけ?と首を傾げていると、
「朱里大丈夫?」景が心配そうな表情を浮かべている。
「大丈夫?大丈夫ってなに?」うちがその言葉を吐いた瞬間、苦しい思いや怒り、後悔に自己嫌悪それに嫉妬や喪失感⋯⋯ありとあらゆるものが溢れ出してしまった。
「あ、朱里⋯⋯」ぼやける視界の向こうで、うちに差し出そうとした景の手が、強く握られて、また元の場所へと戻って行った。
もう手すら差し伸べてもらえない。でもそれでいいんだと思える自分もいる。
景の優しさが鋭利な刃物を突き付けられているように感じてしまうから。
うちは口角を無理矢理上げ、顔を拭った。
「景⋯⋯おめでとう」喉元に引っかかった言葉を無理矢理に押し出した。
「ありがとう」そう言って、頬をポリポリ掻きハニカンだ表情はうちではなく、間違いなく蒼に向けられた表情だって分かる。
「そう言えば、運命の相手が他の人と付き合っちゃったら、ホログラムディスプレイはどうなるんだろうね?」うちがそう言うと、景が首を傾げた。
この期に及んでうちは何がしたいんだろう?こんな状況でも、まだ一縷の望みにかけていたりするのかな?
そう思いながらホログラムディスプレイを開くと、
「あー!まだ景のなま⋯⋯────」
次の瞬間、ホログラムディスプレイから景の名前が砂が風にさらわれて行くようにサラサラと消えて行く。
終わったんだ⋯⋯
体中から力が抜けていき、その場で崩れ落ちると景が踵を返しゆっくり歩き始めた。
「け、景!!」最後の力を振り絞る。
「朱里ごめん、これからはただの友達で」そう言い放った彼は、振り向いてもくれず、真っ直ぐ教室に、蒼の元に戻って行った。
いや、いやだ、景、景行かないで⋯⋯
◇
気が重い。
あのまま朱里を置いて来てしまって、良かったのだろうか?正直あの状態で、僕はなんて言葉をかけていいのか?なにをすれば良かったのか?全くわからなかった。
重い足取りをなんとか前に進めて、ようやく教室に辿り着くとゆっくり椅子を引いてドサリと腰を下ろした。
「随分重苦しい空気を纏ってるわね?」その声で顔を上げると、立花さんが腕を組み僕を見下ろしていた。
「はい⋯⋯」これは立花さんにどう説明すればいいのだろうか?
「なにその変な顔、浮気ね?NTRされたわ」立花さんがそう言って乱暴に席に着いた。
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!!」勢いよく立ち上がり、一歩踏み出した。
「その焦り具合は余計に怪しいわね?でもどうしてあるわけ無いって断言できるのかしら?」立花さんが頬杖を付いて僕を見上げる。
「だって僕は立花さんがす⋯⋯」
「す?何かしら?」そう言いながら立花さんが、口角を上げ意地悪そうな表情を浮かべた。
「す、す、す⋯⋯すさまじい人だとおもっているからです」
「なにそれ?」
なにそれですよね?僕もそう思います。
周りで数人ずっこけた事は置いといて、僕は後頭部をガシガシ掻きながら、雑に自分の席に着いた。
「まぁいいわ、後で洗いざらい話してもらうからね」
「よ、喜んで⋯⋯」
この後、僕が事の顛末を立花さんに話すと立花さんは「ふーん、そっ」とだけ言って、それ以上この話が取り沙汰される事は無かった。




