第七十三話 Congratulations!!
ずっと遠くの方から蝉の鳴き声が聞こえてくると、額から汗が滲みでて、頬を伝って顎から滴り落ちていった。
「た、立花さん!!」
「なにかしら?」
「このLOVE♡GAMEの出現条件って、一定の運命値がある事ですが⋯⋯運命ってあると思いますか?」
いい加減にしてよと罵られてもいい。意気地なしと言われても構わない。
「はっ!?ん〜?どうだろう?あるかないかはわからない⋯⋯けど、あったらいいなっては思うかな?」
格好悪いって僕自身が知っているから。
「あったらいいですよね?⋯⋯本当に赤い糸で結ばれているのが見えたら、どれほど楽だろうかって考えたりもしました」
だから、背伸びをせずにありのままの自分で⋯⋯
そんな僕の様子を見て、耳を傾けながら立花さんが、一歩また一歩と僕ににじり寄ってくる。
「一説に、運命の人の特徴は一緒に居て安心するだったり、物事の考え方や大事にしている価値観が一緒だったりするらしいです」
汗が止まらない。暑いのももちろんあると思う⋯⋯だけどそれが原因じゃない。
心臓が早鐘を打ち、喉が渇いて唇から水分が飛びカサカサになっていく。
立花さんが、慈愛に満ちた表情を浮かべながら、一歩また一歩とにじり寄ってくる。
「一説に!!運命の人とは自然体でいられて、喧嘩しても話し合いで乗り越えられて、お互いに理解を────────」
はっ、と気付くと、立花さんが目の前にいて、思わず膠着状態に陥ると、立花さんが両手で僕の頬を挟んで額に額をくっつけてきた。
「景くん、ちゃんと、ちゃんと聞いているから⋯⋯ね?」立花さんの弱々しい吐息が顔に当たる。
揺らぎ、慌てていた僕の気持ちが、額から立花さんの熱を感じ、吐息から優しい息吹を感じて、徐々に冷静さを取り戻していく。
「た、立花さん!!」
「ん?」至近距離にある、立花さんの碧眼と視線が絡まる。
「ぼ、僕と⋯⋯このLOVE♡GAMEをクリアして下さい!!」
「えっ?うん、どういうこと?」立花さんの両手が、僕の頬からゆっくりと離れていく。
日本政府が考案実施したLOVE♡GAME。これを政府が始めた理由は、婚姻数と出生率の低下を食い止めるため、千三百年後に訪れるであろう、日本の人口が0人になるのを防ぐためである⋯⋯もしかすると立花さん知らなかったりするのか?
「言葉通りの意味です!!」
「ごめん、景くんが耳朶まで真っ赤にしている意味がわからない」立花さんが顎を手で擦り、首を傾げる。
「立花さんもしかすると、LOVE♡GAMEの趣旨とかクリア条件とか知らなかったりしますか?」と僕が訊ねると、
立花さんが銀髪の毛先を指でくるくると回しながら、明後日の方角に視線を逸らした。
あ、これ知らなかったやつだ。
「立花さん、LOVE♡GAMEの趣旨は婚姻率と出生率の低下を食い止めることです」
「ふ、ふ〜ん⋯⋯それで?つまりどういうこと?」立花さんが真顔を僕に寄せてくる。
くうぅ〜と呻き声が漏れ出た。「クリア条件は子供が────────」
「もう!!声が小さ過ぎてなにを言ってるかわからな⋯⋯」
「僕と子供を作って下さい!!それがクリア条件です────────」
いきなりの事で目を瞑る事が出来なかった。気付くと僕の首には腕が回されていて、僕の鼻先と立花さんの鼻先が重なっていた。
一瞬の出来事が、永遠の時の中にいるとさえ錯覚した。
ゆっくりと立花さんが離れて行くのが見えた。
「言えるじゃない!なんか色々と吹っ飛び過ぎなような気もするけど⋯⋯いいわよ、五人でも十人でも作ってやろうじゃない」立花さんが笑顔を弾けさせ、腕を組んで仁王立ちをする。
いや、五人でも十人でもって⋯⋯
次の瞬間、僕と立花さんのホログラムディスプレイが出現して、眩い光を放ち始めるとそのまま重なって一つになった。
『Congratulations!!』
聞き覚えのある、有名な女性アニメ声優の声が聞こえてくる。
『おめでとうございます!あなた達は2891人目のカップルになります』
僕と立花さんがホログラムディスプレイの前で立ち竦んでいると、
『では、これより恋人経験値とレベルアップで得られる特典について説明させていただきたいと思います』
僕と立花さんは顔を見合わせ、首を傾げる。
そう今日この時から、僕たち二人が恋人として、次のステップへと進むためのゲームが開始されたのであった。




