第七十二話 二人の取って置きの場所!?
パステルブルー色の空の中から、燦々と輝く太陽が僕たち二人の影を落とす。
立花さんが突然、服の裾を引っ張って、「ねぇねぇ景くん、この場所私達がぶつかった場所だよね?懐かしいね?」と言って、白い歯を見せた。
僕と立花さんがぶつかった桜並木は、葉を茂らせ色を変え、また次の春に向けての準備を始めている。
その道を二人肩を並べて通り過ぎると、賑やかな駅前通りに出た。
すると立花さんが、小さくジャンプをして僕の腕に肩をぶつけると、そのまま腕を組んで、また白い歯を見せた。
「髪切って、そのあとコンタクト買いに行って、あ、服買いにも行ったよね!いい思い出だよね!?」
「いい思い出⋯⋯ですね」そう僕が答えると、立花さんが満面の笑みを浮かべた。
少し前なら、腕を組まれる事すら躊躇してしまっていたのに、今はそれを────立花さんを完全に受け入れてしまっている。
それは間違いなく、僕が立花さんに抱いている気持ちに気付いたからで、気付いた瞬間僕が勝手に作り上げていた壁はいとも簡単に崩れ落ちていき、
崩れて初めて見えた壁の向こう側の景色は、僕が恐怖していたような悍ましい景色ではなく、足を覆い隠すくらいの緑色の草が鬱蒼と生い茂り、穏やかな風が草を揺らし僕の頬を撫で髪を靡かせた。そんな場所だった。
立花さん、本当にありがとう⋯⋯
「ん?景くんなにか言った?」
「なにも言ってませんよ」
「あら、私に隠し事でもするつもりかしら?」立花さんが拳を握って僕を殴るふりをする。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
全てが台無しだ。
でも、こんなやり取りでさえ今ではもう嫌じゃないって思える。
「ねぇ、いい加減行き先教えなさいよ⋯⋯この炎天下の中、歩き続けたら熱中症になっちゃうじゃない」そう言って、立花さんが額に手を翳す。
「もう少しで着きます。たぶん、僕たち二人の取って置きの場所に」
「ん?私たち二人の?そんな場所あった?あー!!海は私にとっての取って置きの場所だからねー」立花さんが細い目で僕を見る。
「立花さんの取って置きの場所を、取ったりしませんよ、それにそこじゃありません」と僕が口角を上げると、
「うむ、なら宜しい」と立花さんが言って、大きく頷いた。
僕にとっても大事な場所になったんです⋯⋯なんて事は言えないけれど、そうやって、時間と場所と未来を一緒に共有していけたらいいなと強く思う。
「立花さん着きましたよ、ここです」僕は立ち止まって、その場所を指さした。
この公園は特別大きくもなく、ブランコとジャングルジム、それに僕がよく座っていたベンチがあるだけの錆びれた公園⋯⋯だけど、たぶん立花さんと初めて出会った公園。
「い、いつ気付いたの?」
そう言われて振り返ると、立花さんが今にも涙が溢れ出しそうな碧眼を僕に向けながら、口角を無理矢理に上げて、辛そうに笑う。
「すいません、気付いたのはつい最近です」
「気付くのが遅い!!けど、今となってはどうでもいいことね」そう言いながら、立花さんが僕を追い越して、公園の中に入っていく。
「ちょっ、待って下さい。忘れていたのはすいません。けど、どうしても知りたい事があるんです」足早に立花さんを追いかける。
「なにかしら?」そう言って、公園の真ん中で立花さんが立ち止まった。
「出会ってすぐ、僕に告白してくれた立花さんをずっと不思議に思っていたんです」
自惚れかもしれないし、自意識過剰なのかもしれない、出会ってすぐに結婚する人たちだっているわけだし、だけど⋯⋯
「あの時からですか?」
「なにが?」
「あの時からずっと僕に好意を抱いてくれていたんですか?」
「クーックックッどうかしらね?ま、今となってはどうでもいい事じゃないかしら?」
さっきからどうでもいい、どうでもいいって⋯⋯全然よくない。もしそれが事実なら僕は少なからず立花さんを傷つけたと思う。
「本当に忘れていて、すいませんでした」僕が立花さんに頭を下げると、
「だ、か、ら、どうでもいいのよ⋯⋯過去の思いは、大事なのは今よ⋯⋯景くん、私をここまで連れ出したのだから、なにかあるのよね」立花さんがそう言って、僕に体を向けた。
幾つもの偶然が重なって、今またこうして立花さんと出会えたって言うなら⋯⋯それは本当に奇跡的な事なんだと思う。
「た、立花さん!!」
「なにかしら?」




