第七十一話 やっちゃった!?
リビングに到着すると、真っ先に目に入ってきたのは、朝日が差し込んでいるダイニングテーブルに座って、母さんと立花さんが楽しそうに会話をしている姿だった。
「母さん、立花さんおはよう」軽く挨拶を交わし、椅子を引いて腰を下ろした。
「お漏らししなかった?」と立花さんが、冷ややかな視線を僕に向けてくる。
「あと少し遅かったら危なかったかもしれませんね」と冗談交じりに返事を返すと、
「なーんだ⋯⋯残念」と明らかに演技とわかる、がっくり頭を落とす仕草をした。
残念ってなんだ残念って?この歳でお漏らしなんてするわけないじゃないか、危なかったけど⋯⋯そう思いながら、母さんに視線を向けると、
母さんは母さんで、両肘を机に託しそこに顔を預けながら、僕達二人に生暖かい視線を送っている。
「母さんなに?なにかあったの?」そう僕が訊ねると、
「あなた達付き合ってるの?」と満面の笑みで訊ねてきた。
「お義母さんそう見えますか!?」母さんの方に身を乗り出し、凄くキラキラとした表情を見せた立花さんを遮って、
「付き合ってないよ」と僕がいつも通り冷静に返事を返す。
「つまんない」立花さんがそう言って、両頬を膨らませ、ドサッと椅子に座り背もたれに寄りかかった。
つまんないってなに?僕はあくまで事実を述べただけなのに⋯⋯不貞腐れなくてもいいじゃないか?と細い目で立花さんを見ていると、
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」母さんが仲裁に入ってきた。
僕は落ち着いているのだが?そう思って母さんに視線を移すと、
仏のような顔をしながら母さんが話し始めた。
「私の勘違いだったのね?でも、二人とも昨日と比べて?纏っている空気?距離感が全然違うのよね〜⋯⋯?え?まさか?」
そう言った母さんの表情が、みるみる焦燥感を浮かべ始める。
僕と立花さんが、お互いに顔を見合わせ首を傾げると、
バンッと机を叩く音が聞こえた。
「あなた達、やっちゃったの!?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
ポターンとキッチンの蛇口から、水滴が落ちる音が聞こえた。
「そうなんです、やっちゃったんです」立花さんが指組みをして、神妙な面持ちを浮かべる。
え?あー、はぁー!?
僕が声にならない叫び声を上げて、「やっちゃったってなんですか!?僕また何かまずい事しちゃいました!?」そう訊ねると、二人が同時にズッコケた⋯⋯
「我が子ながらウブ過ぎるのよねー」と母さんが頬を擦りながら、憐れみの目を僕に向けると、
立花さんは「演技までして乗っかった、こっちの方が恥ずかしくなってきたわ」と眉間を押さえて、顔を左右に振った。
「え?え?なに?なんの事?」と僕が頭に疑問符を浮かべると、
「「なんでもないわ!!」」と二人が息ぴったりに、僕を制止させる。
この二人変な所で息ぴったりなんだよなー、と結局二人がした会話の内容がわからなくて、後頭部をポリポリ掻いていると、
「そろそろ朝ごはんの準備してくるわね」母さんがそう言って、パタパタとキッチンに向かった。
そのなぜか少し嬉しそうな背中を見送っていると、朝の爽やかな風がリビングに吹き込んできた。
立花さんの銀髪がそれを受けてサラサラと風に靡くと、その髪を耳にかけた。
その仕草についつい見惚れていると、それに気付いた立花さんが「なによ?」と首を傾げながら僕に視線を向けた。
「な、なんでもないです、あ、でも⋯⋯」ゴホンッと一つ咳払いをして、立花さんの耳に口を近づけ、小声で「このあと付き合って下さい」と告げると
「え?あ、うん!全然いいけど、今付き合うのも後で付き合うのも一緒じゃない!?」と目を点にさせる。
「え?今ですか?せっかく母さんが朝食を作ってくれてるから、食べ終わってからの方がいいかなと?」
「た、確かにそうね、わかったわ、それにしても随分と焦らすわね、この借りはいつか必ず返すからね」とゴニョゴニョ言いながら俯いた。
焦らすってなんだろ?僕はただ行きたい所があったから付き合って欲しいと言っただけなんだけど?行き先も告げてないのに、立花さんも行きたいって事?
僕が頭を悩ませていると、立花さんがゆっくりと僕に目を向けた。
僕が満面の笑みで、疑問符を浮かべると立花さんはまたサッと俯いてしまった。
な、なんだこの微妙な空気は?僕はまたなにかやらかしたのか?と眉間に皺を寄せていると、
『テレテレッテッテッテー』
久しぶりにレベルが上がった。
今思えば、このLOVE♡GAMEには随分助けられたな⋯⋯と天を仰ぐ。
願わくば、このレベルアップが最後になりますように⋯⋯と。




