第六十二話 夏だ!プールだ!!
太陽の陽が燦々と降り注ぎ、容赦なく僕を火炙りにする。僕はそれを遮るように手を翳して空を見上げた。
暑すぎる⋯⋯
僕の家から四駅離れた場所にある屋外プール施設には、流れるプールやスライダーもあるためか、夏休みと相まって、沢山の子供から同年代くらいの人達で賑わっていた。
施設入り口で、水着に着替えるために立花さんと別れたのだが⋯⋯着替えの終わった僕は、プールに入る前のシャワーで硬直していた。
この消毒シャワーが死ぬほど苦手だ。プールを清潔に保つために必要だって事は理解している、だけど、シャワーを浴びた瞬間体が縮こまり、心臓が大きく跳ね上がる。
それを思うと、浴びる前から鼓動が早まり、一歩が踏み出せない。
そのまま硬直していると、突然後ろから『トンッ』と叩かれ、驚いた拍子に体が跳ね上がり、そのままの勢いで消毒シャワーの中に入ってしまった。
『ドクンッ』と心臓が大きく跳ね上がる。
「ちょっ、何するんですか!?」僕がその場で振り返ると。
『ドクンッ』と更に心臓が大きく跳ね上がった。
「後ろ詰まってるじゃない!?いったいなにしてるの!?」
スカイブルー色のビキニに、花柄のパレオを腰に巻いた立花さんが、腕を組んで仁王立ちしていた。
「ちょっ、な、なによ!早く行かないのが悪いんじゃない」
その妖艶な姿に「銀色の髪とスカイブルーの水着⋯⋯めちゃくちゃ似合ってます⋯⋯」とついつい言葉を漏らすと。
「えっ!?」と立花さんが目を丸くする。
僕は手で顔を覆って、正面に向き直りそのまま消毒シャワーを抜け出した。
らしくない⋯⋯立花さんの事は大好きだ。だからといって、僕はあんな軽薄な言葉を使うタイプじゃない。
その証拠に、立花さんめちゃくちゃドン引きしていたじゃないか────どうしよう⋯⋯まじどうしよう⋯⋯
悩みながらそのまま天を仰いでいると、急に左腕が重くなって、視線を移す。立花さんがめちゃくちゃ嬉しそうに腕を組んでいた。
あれ?引いてない!?
「景くん!最初は流れるプール行こ!昨日の話はそこで訊くから!」
嬉しそうなわけだ⋯⋯これから始まる拷問に心躍らせているのだから。
僕が「承知致しました」と震えた声で答えると、立花さんが「ん」と言って歩きだした。
たわわに実った果実が、僕の腕に当たっている事にも気付かない程、戦々恐々していた僕は、そのまま流れるプールへと連行されて行く。
すると突然「あっ!?」と言って立花さんが立ち止まった。
「えっ?どうしたんですか?なにかあったんですか?」と訊ねると、
「浮き輪忘れた」と言って、立花さんが肩を落とした。
「え?立花さん泳げないんですか」
「泳げるよ!ただ、流れるプールでは浮輪がマストなんだよ、無いとただただ流される」
浮輪があっても、僕は流されていると思うけど⋯⋯そんな流されている自分を想像して嘲笑していると。
「え?なにがおかしいの?」と立花さんが訊ねてくる。
「いや、ちょっと自分が流されているのを想像しちゃって⋯⋯」と頬を掻きながら答えると。
「流されたいの?」と立花さんが真顔で訊いてきた。
まずは島流しか⋯⋯そう思って僕は全力で「流されたくありません!!」と声を張る。
「えっ?なにムキになってるの、まぁいいわ、ひとまずそこのプールサイドに座って話しましょ」と言って、立花さんがそこに腰を掛けた。
僕も立花さんに並んで腰を掛けると、「で、昨日は何があったのかしら?」と訊ねてきた。
恥ずかしいから、そろそろ腕を離して欲しいってのは置いといて、僕は一拍置いて話し始める。
「昨日は朱里に会ってました⋯⋯」と言った瞬間、左腕に痛みが走った。
「それで?」と言って、口角を『ヒクヒク』させる立花さん。
めちゃくちゃ怒ってる⋯⋯それがわかった僕は冷静かつ慎重に言葉を選んで話を進める。
「最近気になる人ができたんです。その人の事を考えれば考えるほど、朱理に抱いていた感情が初恋だったってのがわかって、それが凄く心に引っかかってたので、そのしこりみたいなわだかまり?を無くすためにその事を告げてきました」
正直この手の話しはしたことがないから自信は無いけど⋯⋯伝わっただろうか?僕は恐る恐る立花さんに視線を向けると、口を尖らせて俯いていた。
「ふーん、昔の事はどうでもいいわよ⋯⋯聞き捨てならないのは、景くんの気になる人の方よ⋯⋯教えては貰えるのかしら?」
本人を目の前にして、言えるわけがない⋯⋯でもいつか⋯⋯いや近い将来⋯⋯
そう思って僕は、「そんなに遠くない未来に教えます」と返事をした。
そう、そんなに遠くない未来に⋯⋯
「そう⋯⋯わかったわ、それまでゆっくり待つわ⋯⋯」そう言って立花さんが急に立ちあがった。
「じゃ、ウォータースライダー行こっか?」
拷問無し?惨劇回避!?
相手は立花さんだから、まだまだ安心はできないと思う。けど、なぜかめちゃくちゃご機嫌な立花さんを見ていると、この疑心暗鬼な気持ちが杞憂に終わるんじゃないか?とも思える。
僕は、それを信じ「ウォータースライダー行きましょう!」とあくまで明るく振る舞う事にした。
そして、僕達二人は心ゆくまでプールを楽しんだ。
『テレテレッテッテッテー』
レベル上がるのだいぶ遅くなってきたな⋯⋯




