表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/69

第六十話 取って置きの公園

 『もしもし、珍しいね、景が連絡寄越すなんて⋯⋯ちょっと待って⋯⋯今までうちに電話した事あった?』

 

 『初めてだね⋯⋯』 


 『ありえんくない?興味がないにも程があるでしょ?』


 『⋯⋯』


 『まぁいいや、で、なんのよう?初めて電話してきたくらいだから、大事な用なのよね?良い意味で』


 『だ、大事な話があるんだ、明日⋯⋯時間取れないかな?』


 『大事な話ねぇ⋯⋯いいよ、わかった、どこでその大事な話を訊けばいい?』


 『⋯⋯公園、僕達が通っていた小学校の近くに公園が一つあったの覚えてる?』


 『あぁ、あのブランコとジャングルジム、それとベンチしか無い錆びれた公園ね、何時頃に行けばいい?』


 『十時に待ち合わせで』


 『わかったわ』


 『それじゃ』

 『明日ね』


 重苦しい空気を漂わせたまま、お互いに別れを告げて切電する。


 恐らく僕は、明日朱里を傷付ける事になる。それが残酷な事だと分かっていても、それを伝え自分の気持ちのわだかまりを取り除かないと、自分なりのケジメをつけないと⋯⋯


 ────次の日。


 待ち合わせの時間より、十分前に公園に到着すると、もう既に朱里は到着していて、僕の特等席であるベンチに腰を掛けていた。


 僕はそのベンチに駆け寄って、「ごめん、朱里待ったよね?」と尋ねると。


 その声に気付いた朱里が、微風に靡いた髪を耳にかけ、憂いのある表情で僕を見上げた。


 「そんなに待ってないから心配しないで」朱里はそう言って、地面に視線を落とした。


 僕のこれから話す事が、良い話じゃないって決めつけたように口を噤む朱里。


 確かに良い話ではないと思う。正直、言わなくてもいい事だとも思っているし、言う事で何かが変わるわけでもないと思っている。


 そう、たぶんこれは利己でしかない。あの日あの瞬間まで、抱いていた僕の気持ちを伝える。そしてわだかまりを取り除く。


 僕が、自分なりに気持ちの整理をして、朱里の横に腰を掛けると「で、大事な話ってなに?」と朱里が訊ねてくる。


 逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ⋯⋯


 「初恋だった⋯⋯」


 「えっ!?」


 「朱里が大好きだった⋯⋯」


 「⋯⋯」朱里が再び口を噤み、目を点にして僕を見ている⋯⋯


 朱里が大好きだった⋯⋯それすらひた隠しにして、全てを無かった事にして前に進めないと思った。


 残酷な事を言ってる自覚もある、言うか言わないか本当に悩んだ。


 それでも、曖昧であやふやな自分の気持ちにしっかり区切りをつけて、あの時感じた優しくて暖かい気持ちを思い出し、そして傷ついた事をもう一度思い出して、また次に進みたい。

 

 「それが大切な話?過去の気持ちを告白されたうちにどうしろって言うの?」


 「そうだよね⋯⋯でもさ、立花さんを好きになればなるほど、朱里に想いを寄せていた恋心を思い出すんだ。その度に焦燥感に苛まれ、またその気持ちにすら蓋をしようとする、正直、自分でもどうしたら良いのか分からないんだ」


 「それって、うちの気持ちを知りながら、ただ自分の気持ちに整理?ケジメをつけたいだけだよね?」朱里が鼻息荒く訊ねてくる。


 「うん⋯⋯僕に抱いてくれている気持ちも知っているつもり。でも勘違いしないで欲しいんだ、朱里と絶交したいとかそういうことじゃなくって、今までの微妙な関係をリセットして、朱里とはちゃんと友達になりたいんだ」


 僕がそう言い切ると、朱里は震えた息を吐いて、また視線を地面に落とした。


 「結局、うちが完全に拗らせちゃったんだよね?わかってるよ、全部わかってる⋯⋯」


 ⋯⋯それは少し違う気がする。僕が勝ってにその気持ちを握り潰して、無かった事にしてずっと逃げてきただけ。


 傷付くのが怖かった、真実を知りたくなかった────自分では処理できない数多あまたの感情が渦巻いて、どこにもやり場のない状況に追い込まれ、自分を無くした。


 それだけの話だ。絶対に朱里が悪いわけでは無い⋯⋯ただ、僕達は選択を間違えて、すれ違ってしまった。そう、それだけだ⋯⋯


 「朱里、本当にごめんね」


 「なにに謝ってるかわからないんだけど?」そう言って顔に翳りを見せる朱里。


 「たぶん、あの時僕がうまくできなかったせいで、お互いの歯車が噛み合わなくなっちゃったんだよ⋯⋯」


 「だからそれは⋯⋯」


 僕は、朱里の話を遮って「だからごめん。好きだった、本当に好きだった⋯⋯」


 「もう何言ってるか全然わかんないんだけど」そう言って朱里が口角を上げる。


 「罪滅ぼし、今のうちに一番似合う言葉。うちは本当に悪い事をした自覚がある、だから例え景と蒼が付き合うことになったとしても、うちはそれを一番近くで見ているつもりだよ」


 「ごめん朱里、意味が分からないよ⋯⋯」そう言った自分の頬に、何かが伝っていくのが分かった。


 「二人が幸せになっていく様子を見届ける、それがうちのみそぎだよ⋯⋯」朱里がそう言って、曇りのない眼差しを僕に向ける。


 僕が、朱里の紅眼に宿った一筋の光に、底知れぬ覚悟を感じて『ゴクリッ』と唾を飲み込むと。


 「ねぇ景、運命っていつ始まって、いつ終わるとおもう?」


 「なにいきなり?」


 「いいから答えて」


 「運命についてなんて考えた事もないよ、朱里はなにが言いたいの?」


 「これはあくまでうちの考えだけど、出会いがあれば別れもある。これは絶対だと思うんだよね、性格の不一致やすれ違いで別れたり、死に別れたり⋯⋯必ず最後は別れる」


 「じゃあ、僕は死に別れを選ぶよ」と今度は僕が覚悟を伝えると。


 「じゃあうちはその後、景と付き合う!」


 「いや、僕が先に死ぬパターンもあると思うけど?」


 「そしたらうちも逝く」


 いや、重過ぎるでしょ?そう思って苦悶の表情を浮かべていると、朱里が笑窪えくぼを見せて

「うちもそれくらい本気って事!景の事絶対に諦めないから」と言って勢いよく立ち上がった。


 「諦めない⋯⋯」


 その言葉を反芻した瞬間に、あの懐かしくも切ない記憶が蘇ってきた。結局探し当てられなくて諦めてしまったけど⋯⋯あの子は今頃、どこで何をしているのだろうか?


 「話は終わりだよね?じゃーうちは帰るね」そう言って朱里が、一歩また一歩と僕から離れて行く。


 あぁ⋯⋯────あの時と全く一緒だ。


 「あ、朱里!ありがと!!」


 「うち何か感謝されることしたっけ?」そう言って一瞬振り向くも、そのままその場を後にする朱里。


 そして、僕の中にあったわだかまりが綺麗さっぱりなくなり、記憶の蓋が開かれると、その中にあった温かい記憶も蘇ってきた。


 銀髪碧眼の女の子⋯⋯

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ