第五十九話 夜空を彩る花束
花火会場である河川敷に到着した。
周りを見渡すと、今か今かと待ちわびているカップルもいれば、花火が始まる前から呑み始めちゃって、顔を真っ赤にしているスーツ姿の団体がいたりと⋯⋯もう座ってゆっくり見れる場所なんてないんじゃないか?ってくらい人で混み合っていた。
「立花さん、流石にこれ座って見るの難しくないですか?」と僕が尋ねると。
立花さんが、う〜んと呻りながら額に手を当て辺りを見渡す。「景くんあそこ!」そう言って指さした先に視線を向けると、ちょうど二人が座れそうなスペースが空いていた。
「立花さん、よく見つけられましたね」と僕が言うと。
立花さんが『フンスッ』と鼻息を荒げて「当たり前よ」と胸を叩いた。
僕達が急いでその場所に向かい、腰を掛けようとした瞬間。
ひゅ──⋯⋯という音が聞こえ、『ドンッ』の音で夜空に千輪菊の花が色鮮やかに咲き乱れる。
僕と立花さんが、中腰のまま花火に見惚れていると、ひゅ──⋯⋯という音がまた聞こえ、夜空に一筋の光が伸びると『ドンッ』と弾けてキラキラと一輪の花を咲かせた。
僕と立花さんは顔を見合わせ頷きあって、その場に座り夜空を見上げる。
一つ、二つ、三つと夜空に光の筋が伸びると、まるで花弁がリズムを刻んでいるように、揺れては散っていく。
『ひゅ──────⋯⋯ドンッ』
「立花さん花火って凄いですね!?ドンッて胸や体全体に響いてきます!!」
僕が興奮気味に話しかけると、立花さんが耳を指さし口の前でバッテンを作った。
連続で上がる花火のせいで声が聞こえなかったのか?それなら仕方ない。
僕はそう思って、夜空に視線を戻す。すると突然、僕の左肩に重みを感じ視線を向けると、立花さんが満面の笑みを浮かべながら僕の肩に寄りかかっていた。
色鮮やかな花火の光が、立花さんの髪に、瞳に、顔に色を落とす。
僕は一瞬、その表情に見惚れてしまいそうになり、焦って視線を夜空に戻した。
『ひゅ──────⋯⋯ドンッ』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯好きです」
その言葉を口に出すと、思いが一雫となって心に落ちた。その雫が波紋を作り波立たせ、また静まる。
僕がようやく自分が何を言ったかを理解する事ができた時に『トントンッ』と肩を叩かれた。
や、やばい、気付いたら告白していた⋯⋯そう思いながら恐る恐る立花さんに視線を向けると。
口の前で、手を開いて閉じてを繰り返しながら首を傾げていた。
あ、聞こえなかったんだ!良かった〜!そう思った瞬間、体中の力が抜けて行くのがわかって視線を地面に落とした。
そして、頭の上で手を左右に振って、「なんでも無いです」とジェスチャーをすると、立花さんは『ニコッ』と笑って夜空に視線を戻していった。
まじで焦った────心臓が『バクバク』と早鐘を打って、夜空で弾ける花火すら音を失った。
僕は胸に手を当て、深呼吸をしながら一度目を瞑り、ゆっくり目を見開くと、広がる視界にようやく音が戻った。
冷静に考えてもなんで告白してしまったのかはわからない。
初めて見た花火に高揚して言ってしまった可能性もあるし、花火に当てられた立花さんがあまりにも綺麗だったから言ってしまった可能性だってある。意図していない告白だったのは間違いない。
それでも、それを口に出して言った事で、自分の素直な気持ちに気付く事ができた。僕は立花さんが大好きです⋯⋯だからと言って、いますぐどうこうしたいわけじゃない。
好きだけど付き合いたくない。
そんな矛盾した気持ち⋯⋯付き合ってしまったら僕に幻滅してしまい、今みたいな関係ではいられなくなる。それが怖いって気持ちが半分。
残り半分は⋯⋯僕の心にこびりついているしこりのような、わだかまりの正体。
ひゅ──────⋯⋯ドンッ
いや、今はこれ以上考えるのはやめておこう。強引だったにしろ、立花さんのおかげで生まれて初めて花火を見に来れたわけだから、今を楽しもう。
そう思って僕は、立花さんを横目に夜空を見上げた。美しくも儚い、見る人を魅了する花火が上がる度に、優しくも切ない気持ちになる。
こんな立花さんとの何気ない日々が、いつまでも続けばいいのに⋯⋯
ひゅ──────⋯⋯『テレテレッテッテッテー』
いや、レベルアップはいつまでも続かなくていい⋯⋯
────そして、花火大会が終わった後、僕は自分の部屋のベットに腰をかけていた。
『もしもし⋯⋯』




