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第五十三話 初体験

 どうして?こんなことになってしまったのだろうか⋯⋯⋯⋯?


 食事が終わった僕は、ベッドに仰向けになって漫画本を読んでいた。時折ベッドの下に視線を移すと、いるはずのない人、立花さんがいて、お互い干渉することなく、各々にやりたい事をやっていた。


 母さんも母さんだ、高校生の女の子を家に泊めるって、いったい何を考えてるんだ⋯⋯?


 「ねぇ、二⋯⋯⋯⋯」

 「嫌です」立花さんが言い切る前に僕が拒否をすると『ブハッ』と噴き出しながら「まだ何も言ってないし」とクックックッと笑う。


 何がそんなに楽しいの?と思いながら、何事も無かったかのように漫画本を読み続けていると、立花さんが半身を起こして「お風呂入りたい」と言ってきた。


 僕はどうぞと、か細い声で呟いたのだが⋯⋯ここでお約束イベント【お風呂】が発生してしまった事に、震えてしまった。


 どうしよう⋯⋯ここで立花さんに「一緒に入る?拒否権なんてあると思ってるの?」っていつもみたいに言われてしまったら⋯⋯果たして僕は断われるのだろうか?心臓が口から飛び出してしまいそうになるくらい鼓動が早鐘を打つと。


 「⋯⋯⋯⋯ねぇ、⋯⋯ねぇ、ねぇってば、二階堂くん聞いてる?」


 「は、はひ!?」心臓が口から飛び出てしまった⋯⋯


 「お義母さんに言ってきてよ、パジャマも借りたいし⋯⋯」


 「う、承りました」僕は敬礼をして、そそくさと自分の部屋を後にした。


 ────リビングに到着すると、母さんがソファに腰を掛け、テレビ見ながら寛いでいた。僕は後ろから「ねぇ母さん、立花さんがパジャマ借りたいって、僕はお風呂掃除して、沸かしてから部屋に戻るからお願いできる?」と尋ねると。


 振り返って僕を見た瞬間、口端から少し泡を出して目を点にする。「母さんどうしたの?パジャマお願いできる?」ともう一度尋ねると、「え?、あっ⋯⋯うん」と言って口を拭った。


 母さんはいったい何に驚いたのだろう?立花さんがお風呂に入るなんて、一般的に考えれば普通の事だし、パジャマを借りる事だっておかしなことじゃない。僕は頭を『ガシガシ』と掻きながらお風呂場へと向かった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 「本当に⋯⋯」私はそう呟いて、目から零れ落ちそうな涙を拭う。景が学校に行かなくなってからどれくらい経過しただろうか?


 部屋から出てこなくなってどれくらい経過しただろうか?


 私はそんな事を考えながら、自室にある箪笥の引き出しに手をかけた。


 景⋯⋯自分でも気付いていないようだったから言わなかったけど、部屋から出られたじゃない。私はピンク色のパジャマを取り出すと「可愛すぎるかしら」と呟いて元に戻した。


 それにしても、蒼ちゃん⋯⋯本当に凄い娘ね⋯⋯景の悩みの種もあの娘だったけど、景の悩みを解決するのもあの娘なのね⋯⋯私は動物のパジャマ【熊】を取り出すと「これが良いわね」と呟き、念のためもう一着、ベーシックなパジャマを手に持って景の部屋へと向かった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 お風呂掃除を終え、お湯張りボタンを押した僕が自分の部屋へ戻ると、母さんと立花さんがやけに楽しそうに何かを選んでいた。


 僕は音を殺して、一歩踏み出し後ろから覗き込むと「蒼ちゃん熊よ!絶対に似合うから」と母さんが言って、立花さんに差し出す。


 僕はついつい立花さんがそれを着た所を想像してしまう。お風呂上がり、頬をピンク色に染めた立花さんは、熊のパジャマを着こなし、耳付きのフードの隙間から、銀髪が溢れ双丘の方に流れる。


 ⋯⋯確かに可愛い、見てみたい気持ちはある⋯⋯けど、立花さんには少し子供っぽい気がする。そんな事を考えていると「お義母さん、こっちもいいですね」と立花さんが、そのパジャマを両手に持って広げる。


 ティ、ティラノサウルス!?え?どっちも着ぐるみパジャマじゃん?僕が後ずさり、背中を扉にぶつけると、二人は同時に振り返って僕を見上げた。


 「二階堂くんちょうど良かった、どっちが私に似合うか選びなさい、因みに家では基本下着だけよ」立花さんはそう言って、パジャマを両手に持つ。


 後半に言った、家では下着だけよの情報は必要だったかわからないけど、なぜ僕が選ばなくちゃいけないの?そう思って「い、嫌ですよ、そもそも立花さん着ぐるみパジャマなんて着たことあるんですか?」と尋ねてみる。


 「ないわ⋯⋯だから、初めてのお泊まりに初めての着ぐるみパジャマ⋯⋯そして初めての⋯⋯⋯⋯さぁ二階堂くん選びなさい」


 待って、最後なにを言いかけました?僕は震える手を伸ばして「じゃ⋯⋯これで」と言って、ティラノサウルスを指さすと。


 「わかったわ⋯⋯」そう言って、立花さんは熊の着ぐるみパジャマを手に持ってお風呂場に向かった。僕に聞いた意味⋯⋯


 ふと、物音が聞こえ視線を母さんに移すと、仏顔で頷きながら「念のためよ、ね、んのため」と呟きながら布団を敷いていた。


 「いや!念のためってなに!?」と僕が声を大にして尋ねると、「ふふふっ」と口に手を当て笑いながら、母さんが部屋を出て行った。


 誰もいなくなった部屋⋯⋯ベッドの下に敷かれた布団⋯⋯僕は期待と恐怖を胸に、顔を歪めながら自分のベッドの上で仰向けになった。


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