表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/70

第五十話 真っ暗な部屋

 『コンッコンッコンッ』部屋がノックされて、無理矢理に体を起こす。扉の前から「景、学校は?」と母さんの声が聞こえると、僕は喉を詰まらせながら「行かない」と返事をした。


 「そう⋯⋯」母さんがそれだけ言うと、足音だけが遠ざかって行く。


 一日学校を休むと、勉強がついていけなくなると胸がざわめいたが、二日目になると勉強に対する意欲すら湧かなくなっていた。


 三日目になり、最初は携帯でWEBコミックを読み漁っていたのだが、時折くる着信とメールに嫌気がさし、充電することすら拒むと、それは光を失いただの無機質な物体へと変わり果てた。


 それもあってか、いつしかベッドの周りには漫画本のバリケードが築き上げられていたのだが、それを読み漁ってる間に、気が付いたら四日目に突入していた。


 ずっとベッドの上に居たせいか、漫画本を読むことすら気怠く感じて、僕はテレビでアニメを流し始めた。もちろんその内容が頭に入って来る事はなかった。


 五日目、とうとう部屋の電気すら点けることをやめて、完全に外界との接触を絶った。


 突然部屋を『コンッコンッコンッ』とノックされると、僕は何かから逃げるように布団にうずくまって耳を塞いだ。


 ────どれくらいの日時が経過したのだろうか?それがわからなくなってしまうくらい、ずっとベッドの中で生活していると。


 あれ?なんか人の気配がするような?そう感じて、真っ暗な部屋のなか、唯一の明かりと言ってもいいテレビの方へと寝返りを打つと、そのテレビの光芒を遮るように、人影が膝を抱えて、ベッドに寄りかかりながら座っていた。


 「だ、誰?」僕はそう言って、ヘッドボードに手を伸ばし、眼鏡を掛けてベッドの上で胡座をかいた。


 「いくらノックしても返事がないから、流石に心配でね⋯⋯」と母さんが、穏やかな声音で返事をした。


 「⋯⋯ごめん」と僕が謝ると、「子離れできないお母さんでごめんね」と謝られた。


 母さんが謝る事じゃない!そう思って、言葉を紡ごうとしたけれど、ずっと人と喋って無かったせいか、言葉に詰まる。


 それを察した母さんが、「ねぇ景、言いたくなかったら言わなくてもいいけど、何があったか教えてくれない?」と尋ねてきた。


 本当に僕になにがあったんだろう?正直、自分でも説明ができない。そう思って「わからないんだ⋯⋯」と、か細い声で呟くと。


 「なら、そうなる前後に何か無かった?」と母さんに訊かれて、僕はそれならと思って、こうなる前後の状況を話すと。


 母さんが『バンッ』と僕の背中に平手打ちをして、「安心した、しっかり成長してんじゃない!」とわけの分からない事を言って、僕を見上げた。


 僕が眉間に皺を寄せて、「母さん痛い⋯⋯それに、全然意味がわからないよ」と呟くと、「景、その感情はね、人によってはどうってことない事かもしれないけど、景に取っては凄く大事な事なのよ」と母さんが目尻を下げて言う。


 ますますわからない⋯⋯


 僕のこの感情が、人によってはどうってことない事?倦怠感に襲われて、体を動かす事すら億劫なのに⋯⋯どうって事ないこと?だめだ、考えるのが怠い。


 僕は熟考する事を諦め、また布団の中に潜り込んだ。


 その姿を見た母さんが、「今はまだ酷な話かもしれないけれど、蒼ちゃんと朱里も心配してたわよ、それに、期末テストはどうするの?」と訊いてきた。


 僕は布団の角を『ギュッ』と握りしめて、「テスト受けない⋯⋯」と、途切れがちなかすれ声で答える。


 それを訊いた母さんに、柔らかい声で、「わかったわ⋯⋯蒼ちゃんと朱里には何か伝えたい事ある?」と尋ねられ。


 「ない⋯⋯」と、僕は投げやりに答えた。


 「ねぇ景、いくら遠回りしても、つまずいてもいいから、また元気な姿みせてね」と母さんが言うと、布が擦れる音が聞こえた。


 「あと、これだけは約束してちょうだい、ご飯を食べる時はリビングで一緒に食べること」と言って、部屋を出て行ったのがわかった。


 僕は甘えすぎだ⋯⋯そう思って、目頭が熱くなる。なんでこんなに、部屋の扉が遠く感じるのだろう?開けようと考えるだけで震えてしまう。


 僕はいったい⋯⋯何に怯えているのだろう⋯⋯?気付いたらまた、深い夢の中に引き摺り込まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ